事務所勤務_マネージャー編①

どういう順番で書こうか迷ったが、この事務所編で一番大切な項を書き始めようと思う。

夜イベント編でも昼イベント編でも、ちょろちょろあやふやにして書いたが、私の事務所時代は、大部分がこの事を軸に進んでいくので、先に書かないと進めないことに気づいた。

一投稿の中では書ききれないので、いくつかに分けて話したいと思うし、この項に関してはここから時系列で行こうと思う。


私は入社前から言われていた通り、モデル活動をしていて1年後にCDデビューが決まっている女の子のマネージャーになる事になった。

まだデビュー前は前回の記事でも書いたとおり、他のモデルの子のマネージャーも同時にしていた。

デビュー前は、特に他のモデルと業務内容は大きく変わらない。雑誌や案件の撮影、広告案件の進行、スケジュール管理などだった。

この子に関しては、デビュー後のイメージもあったので、プロモーションについてもこちらだけで突っ走らず、頭の段階からレコード会社と確認しながら進める形だった。


私の担当になった時には、"デビューする事が決まっている"という情報だけ下りてきていた。

どのような経緯で、どういう意向で、というような事は聞かされなかった。最初に私から突っ込んで聞くべきだったのかもしれないが、この後その要因を元に色々な出来事が起きていく。突っ込んで聞いていた所で、決まっている事なので変わらなかったかもしれないが。

デビューと聞かされて、既にデビュー曲があるのかな?と思い、社長に尋ねると


「ないよ、これから作る」と言われた。

衝撃だった。

え?デビュー曲はないけど、CDデビュー決まってるの?と。
インディーズで何か曲があるならまだしも、世界観も何もまだないじゃないか。どういう経緯でCDデビューが決まったんだよ、と衝撃だった。


当時、所属事務所には同じようにモデルからCDデビューして、大ヒットしているアーティストがいた。

おそらく、その流れを見たレコード会社か事務所かが「一緒にやりましょう!」と持ちかけ、社長が「歌がうまそうな子探そう!」みたいな感じでその子に決め、「デビュー決定!」という流れのような感じだった。

おそらくというか、多分それでしかない。

それが悪いとも言わないし、運に乗って大人の力も逆に使って、うまく乗りこなせる人であれば、それは大いに良いと思っている。芸能界は、”運”もとても大きな力の内だ。

でも、誰もかれもがノリでうまく乗りこなせる人ではないと思っている。

最初に会ったその子は、とても美しくて、歩いていたら誰もが振り返るであろうオーラもあった。その美しさは見た目だけではなく、内面からも出ているものだった。

その子は、そもそもやってみたいという気持ちは少なからずあったところに、おそらく大人からヤル気にさせられたのだと思うが、その大人のスタートに関して後々鈍いボディブローを喰らいそうなくらい、とても真っ直ぐで、純粋だった。このやり方に翻弄されてしまうタイプだと思った。


そして、私個人としてはこの流れは、非常に大っっっ嫌いだった。

彼女の意向、楽曲についてなど、今この時ではなくて、ゆくゆくの未来で軸になってくるものを全く置いてけぼりにして、大人の話だけがキャッキャと前に進んでいる。相当嫌い。


私は、おそるおそる彼女に聞いてみた。

「どんな曲がやっていきたいとか、アーティストの方向性についてとか、デビューしようってなる前に、社長や前のマネージャーさんと話したりした?」と。

すると、予想通りだし、予想が当たって欲しくない答えが返ってきた。

「いえ、何も話したりしてません。」と。

なるほど、これは華麗なまでの
ま・る・な・げ、だと察した。

恐らくこれから何とかなるだろう、と思っているやつだ。そして、そのマネージャーを私は任された。

ビジネスとして上同士が決めている事なので、雇われている私がとやかく言えるような立場ではない事は分かっていつつも、もしこの子の意思が固まりきっていなくて、少しでも躊躇いや戸惑いがあるなら、私が怒られても辞めさせられてもいいから、アーティストデビューを辞める事になっても構わないと思った。

これまでレコード会社でいくつものアーティストを見てきた私の、経験に基づいた確固たる思いだった。

スタートしてからでは遅いし、スタートしてからはどれだけ苦しくても辞める事はできないからだ。もっと悪がしこい子ならまだしも、この子が辛い思いをするのは見たくなかった。


私は、彼女と2人きりの時に、事あるごとに彼女に聞いた。

「本当にアーティストデビューしたい?アーティストになりたい?」と。

彼女はそんな私に戸惑いながらも、まっすぐに「はい」と答えてくれた。であれば、私はできる限りサポートする他なかった。


入社してから初めての冬、私と彼女はレコーディングでデモ曲を作る日々が続いていた。

楽曲を作詞・作曲してプロデュースしてくれる人は、社長が選んでいた。その人はバンドとして有名な楽曲をいくつも作曲していて、私自身はその人の作る楽曲は好きだった。よく聴いてもいた。彼女の持っている雰囲気のまま!という感じではないが、その違和感も踏まえて面白さとして打ち出していきたい、との事だった。私も、その打ち出し方は面白いと思った。

上記の世界観の打ち出し方も含めて、この人にやってもらおうと思う、という話をした時も、彼女は了解したように見えた。

後々考えれば、ここでもっと突っ込んでブレストして、彼女の意思を引っ張り出しておくべきだった。そして、プロデュースをされるという事についてと、売るという事についてと、なにより彼女の自身のアイデンティティに対する思いのバランスを話し合うべきだった。


連日レコーディングをしている中、しっくり来ない感じは見受けられていた。様子を探り合って正解を見つけている”しっくり来ない”ではなく、そもそもでパズルの絵自体が違う”しっくり来ない”。

帰り道2人で歩いていると、彼女は泣き出した。こういう楽曲の方向性ではデビューしたくない、と。

マジかーーーーーーーーーーーーーーーー、と思った。その時点で4曲くらい仮歌のデモ曲は上がっていた。夏デビュー予定が決まっている。

私は彼女の話を聞いて、上と共有していた世界観や打ち出し方の話を今一度した。それでもその嫌だ、という意思は変わらないか?と確認をした。

彼女の意思は揺るがなかった。

このままデビューさせる事は危険過ぎるので、私は上にこれまで作った仮歌デモ曲を全て破棄して新たに作り直すという提案を上にした。その作家さんにとても悪い事をした。

そして、彼女にはちゃんと意見を引き上げなかった私の落ち度を謝った。あーー、あそこでもっとグッと突っ込んでおくべきだった、と反省した。

その上で、他人にプロデュースされる中では真っ直ぐ伝えたとしても湾曲して伝わる事もある、曖昧な意思では何も伝わらない、自分のアイデンティティも守りたいと思うなら、適当な返事などは絶対にしない事を約束してもらった。

(書いてみて思ったが、こんなの大人でもできない人のが多いよねぇ。。。と思う。彼女にも自分にもシビアな判断をさせていたな。)

デビュー前から波乱万丈なスタートだった。



(まだデビューしてない段階で一投稿終えたけど、何投稿いってしまうんだろうか。)


ハタノ













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