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アトピー性皮膚炎の原因 - 4つの重要因子と発症メカニズム

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が全身の皮膚に現れる病気です。接触性皮膚炎(かぶれ)と似た症状で、炎症部が赤み、ぶつぶつ、ジュクジュク、ガサガサな状態となります。ステロイド外用薬などでの治療が一般的ですが、完治しにくく悪化と緩和を慢性的に繰り返します。

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因は、皮膚のバリア機能異常から始まる免疫応答(2型免疫反応)です。肌の乾燥、汗かぶれ、蒸れによるふやけ等での肌のバリア機能低下がきっかけになり、そこに先天的・遺伝的な肌の弱さ(フィラグリン遺伝子異常)と、皮膚上の黄色ブドウ球菌およびアレルゲンが悪化因子として働きます。

アトピー性皮膚炎の原因と遷移の模式図

アトピーは原因が一つとは限らない「多因子性」の病気と言われ、皮膚のバリア機能異常の決定的な要素(Factor X)は特定されていません。

しかし、原因因子と増悪因子それぞれで影響が大きいものが判明してきており、免疫応答についても近年その発症メカニズムの解明が進んでいます。

アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能異常から始まる免疫応答

アトピー性皮膚炎には悪化サイクルがあります。バリア機能異常から炎症が発生し、炎症部のそう痒(かゆみ)を掻くことで、さらにバリア機能異常が悪化するというサイクルを辿ります。

アトピー性皮膚炎のサイクル三位一体図
出典:一宮市立市民病院HP

アレルギー炎症の発生には「2型免疫反応」という免疫機能が関わっています。免疫とは、侵入物から身体を守るために免疫細胞(白血球)が仲間を呼び寄せて防御・攻撃するプロセスのことです。

アトピー性皮膚炎は、白血球の一種である2型免疫細胞(Th2細胞・ILC2)が誘導されて、免疫反応が起こった結果、その副作用として周辺の細胞が刺激され、血管拡張、発熱、痛み、腫れを引き起こし炎症となります。
(解説:アトピーと免疫の関係性 〜 アトピー発症メカニズムの科学的解説(1))

この反応が2型免疫反応です。アトピーの原因として、Th2細胞、TARC、IgE抗体といった物質が挙げられることがありますが、これらはアトピー発生の途中生成物・結果であり、最初にアトピーがはじまる原因物質ではありません。

この2型免疫細胞の誘導は、肌のバリア機能異常の応答で発生するTSLPという伝達物質から引き起こされています。そのため、バリア機能異常の原因がアトピー性皮膚炎の原因となります。

バリア機能異常の4つの重要因子

肌のバリア機能異常には重要な因子があります。

  1. 遺伝的因子(フィラグリン遺伝子変異)

  2. 原因因子

  3. 悪化因子1(黄色ブドウ球菌繁殖)

  4. 悪化因子2(アレルゲン)

原因因子がアトピー性皮膚炎の直接的な原因となり、悪化因子はアトピー発症後に症状を悪化させる要素です。さらにアトピー性皮膚炎の発症しやすさとして遺伝的因子が関わってきます。

1. フィラグリン遺伝子変異(遺伝的因子)

まず、アトピーになりやすい遺伝的要因として「肌が生まれつき弱い」ということがあります。これは先天的・遺伝的な皮膚バリア機能障害であり、科学的にはフィラグリン遺伝子変異によって皮膚のセラミドと天然保湿因子(NMF)が不足するためとして知られています。

下図のように皮膚は、角質層と皮脂膜から出来ており、異物の侵入をバリアしています。皮脂膜は「天然の保湿クリーム」とも呼ばれる皮脂と汗などで作られるバリア膜です。角質層はサランラップ程の厚さ(約0.02ミリ)でケラチノサイトという角化細胞=死んだ細胞で形成され、保湿の働きもします。

出典:持田ヘルスケア

この角質層を維持するために、セラミド(細胞間脂質)が角質細胞同士を接着させています。また、角質細胞の内側では、天然保湿因子(NMF)が、水分を取り込んで保持しています。これらセラミドと天然保湿因子が不足すると、皮膚のバリア機能低下をもたらします。

天然保湿因子はフィラグリンというタンパク質から産生されます。アトピー性皮膚炎の発症者はほぼ確実にフィラグリンが低下しており、3割は先天的なフィラグリン遺伝子変異が原因となっています。

つまり、アトピー性皮膚炎患者の3割は、遺伝的に皮膚のバリア機能が弱くアトピーになりやすい肌体質であるということになります。遺伝以外にも、上述の2型免疫反応が起こるとフィラグリン発現が低下するため、バリア機能は低下します。

2. 原因因子

次に、アトピー性皮膚炎の発症の直接のきっかけとなる因子(原因因子)があります。最初にバリア機能異常をもたらすものが原因因子です。

この原因因子が特定されていないことが、アトピー性皮膚炎が多因子性と言われる理由です。一般的には次のような因子が挙げられます。

・肌の乾燥
・汗、蒸れ
・化粧品、洗剤などの化学物質
・ストレス、寝不足

たとえば肌の乾燥は、角質層の水分低下をもたらし、角質細胞が剥がれてしまってバリア機能の低下を招きます。さらに痒みを知覚する神経繊維(C繊維)は動的に伸縮しており、乾燥時には真皮から表皮まで伸びるため、痒みを感じやすくなります。[3-1]

また汗には塩分やアンモニア等が含まれており、汗を放置すると接触皮膚炎=汗かぶれを起こします。また、皮膚は蒸れると角質がふやけて肌のバリア機能が低下したり、細菌・雑菌が繁殖してしまいます。

これらはアトピー性皮膚炎が関節や蒸れる部位に発症しやすいことの一因と考えられます。

アトピー性皮膚炎の年齢別部位の特徴
出典:熊本病院


この他にも、原因因子の仮説は多数あり、後述するアレルゲンも悪化因子ではなく原因因子と言われることもあります。

しかし科学的には、バリア機能異常を引き起こすほど強力な原因因子は特定されていません。アトピーが治らない理由は、その明確な原因が定まらないという点にあります。

乾燥、汗、蒸れなどの因子は、支配的な要因(Dominant Factor)ではないと考えられており、アトピー性皮膚炎の原因はファクターX(未知の要因、判明していない要因)または特定条件下によるものと考える必要があります。

ファクターXとして、現状で最も可能性が高く、かつ最大の原因因子については、下記にて解説しています。

[3-1] 文献 順天堂大学環境医学研究所

3.黄色ブドウ球菌繁殖(悪化因子1)

皮膚の表面上には常在菌が20種類以上・数百億個も生息しており、腸と同様に細菌の花畑=肌フローラ(マイクロバイオーム)を形成しています。

菌の中でも、黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎の悪化因子とされており、炎症度と強い相関があることが分かっています。

黄色ブドウ球菌は、毒素であるエンテロトキシンを産出します。このエンテロトキシンはスーパー抗原と呼ばれ、T細胞を活性化させて2型免疫反応を引き起こしアトピー性皮膚炎を悪化させます。また、アレルゲンとしても働くため、アレルギー反応も引き起こして炎症を増悪します。

また「痒み」の原因も黄色ブドウ球菌であるという研究もあります。黄色ブドウ球菌が産出するタンパク質分解酵素(V8プロテアーゼ)が感覚神経細胞の受容体PAR1を介して痒みを発生させます。[3-2]

Cell - S. aureus drives itch and scratch-induced skin damage through a V8 protease-PAR1 axis

黄色ブドウ球菌は、健康な人でも約3割の人が保菌していると言われていますが、正常な弱酸性の皮膚では繁殖しません。しかし、皮膚pHがアルカリ性に傾くと繁殖します。特に、アトピー性皮膚炎の炎症部は浸出液や血液等でアルカリ性に傾いてしまい、黄色ブドウ球菌が繁殖します。

この黄色ブドウ球菌から皮膚を守るのが、善玉菌である表皮ブドウ球菌です。表皮ブドウ球菌は、脂肪酸を作り出して皮膚pHを弱酸性に保ち、さらに抗菌ペプチドを産生して黄色ブドウ球菌の増殖を抑制します。また、保湿効果があるグリセリンも産出してバリア機能を保つ働きもするため、美肌菌と呼ばれています。

黄色ブドウ球菌の増殖を防ぐには表皮ブドウ球菌を優位にする必要があり、スキンケアが重要とされています。皮膚の洗浄(ただし強すぎる洗浄を行わない)、保湿、汗対策などが必要となります。

[3-2] 文献:Cell - S. aureus drives itch and scratch-induced skin damage through a V8 protease-PAR1 axis

4.アレルゲン(悪化因子2)

アトピー性皮膚炎においては、アレルゲンは直接の原因ではなく間接的な悪化因子です。アレルゲンとはアレルギー反応を引き起こす物質のことで、下記のようなものがあります。

・ダニ、カビ
・ほこり(ハウスダスト)、動物の毛
・花粉
・食物
・化粧品、金属

アトピー性皮膚炎の炎症部はアレルゲンが侵入しやすく、Ⅰ型アレルギーを併発(感作)するリスクが高まります。アレルギー反応を起こした場合、さらに炎症・痒みをもたらして悪化サイクルを増悪します。

特に乳幼児の場合、皮膚に湿疹や乾燥などがあると、アレルギー性鼻炎・食物アレルギー・気管支喘息など、連鎖的にアレルギーを獲得してしまうリスクが高まります(アレルギーマーチ)。食物アレルギーは、その食べ物を食べる(経口摂取)ことではなく、炎症部から皮膚を通して体内に入りアレルゲン化(経皮感作)してしまうという仮説(二重抗原曝露仮説)もあります。乳幼児のアトピー性皮膚炎や皮膚異常には早期治療介入が求められています。

アレルギー疾患の合併状況(2015年 中学1-2年生)
出典:日本アレルギー疾患療養指導士認定機構より抜粋

アレルギーについては、大人になってからでも減感作療法などの体質改善を行うことで発生を抑止できる可能性はあります。しかし、アレルゲンはアトピー性皮膚炎の原因ではないためアレルゲンを回避してもアトピー性皮膚炎は治癒しません

ただし、悪化の軽減のために、一般的にはアトピー改善の方法としてアレルゲン回避の対策をすべきとされています。

解説:アトピー性皮膚炎とアレルギーの関係性 〜 アトピーの原因と発症メカニズム(2)

アトピー性皮膚炎の原因のまとめ

以上、アトピー性皮膚炎の原因を整理しました。

・アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能異常から始まり、2型免疫反応により炎症・痒みが発症する。
・発症しやすさとして遺伝的要素(フィラグリン遺伝子異常)があり、発症後の悪化因子として黄色ブドウ球菌繁殖アレルゲンがある。
・原因因子として支配的な要素は判明しておらず、未知のファクターXまたは特定条件下によるものと考えられる。

「アトピーが絶対に治る方法があるか」というと確実な方法は見つかっていませんが、最も可能性が高いアトピーの治し方と原因の仮説を考えることは可能です。

ファクターXとして、支配的な因子(Dominant Factor)であると考えられる最大因子については、アトピーを治す方法と合わせて下記記事にて解説しています。


アトピーの根本原因と治療方法について

アトピー性皮膚炎の根本原因を科学的・論理的に解説しています。こちらもご参照ください。

■アトピーの原因と治療方法
アトピーの本当の原因 その治療法の解説
アトピーの悪化を招く4つの重要因子
アトピーの普及は科学的・歴史的に説明ができる

■アトピーの発症メカニズムの科学的解説
(1)免疫とアトピーの関係性
(2)アレルゲンとアトピーの関係性
(3)とアトピーの関係性【公開予定】
(4)皮膚細菌とアトピーの関係性【公開予定】

■その他の記事のまとめ
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