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アトピーと免疫の関係性 〜 アトピーの原因と発症メカニズム(1)

アトピーの原因として、免疫の異常反応ということが言われます。この免疫反応が具体的にどのようなものなのかを整理しました。

※今回の記事では1を解説しています。

1. 免疫の影響(炎症部近傍)【今回】
2. アレルゲンの影響
3. の影響(腸)
4. 皮膚細菌の影響(皮膚上)


アトピー性皮膚炎の発生サイクル

アトピーが発症して悪化していくサイクルはとても複雑ですが、これを説明するのがアトピー性皮膚炎の三位一体論(京都大学)の模式図です。

図表引用:一宮市立市民病院HPより


この図は、アトピー性皮膚炎が発症して悪化していく負のサイクルを表しています。大きな流れとしては次の3つのサイクルを回って悪化していきます。

1. 皮膚のバリア機能異常が発生
2. 免疫細胞が誘導されてアレルギー炎症が発生
3. そう痒(かゆみ)で炎症部を掻いてしまう

一見これはアトピー罹患者にとって当たり前に見えるかもしれませんが、どこが原因でどこが結果かを考えるために重要です。

アトピー性皮膚炎は体内からではなく皮膚から始まる

アトピーは「体内の免疫機能に異常が起こって炎症になっている」とイメージしている方もいるかもしれません。

ですが、アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能異常が最初に起こり、そのせいで引き起こされる免疫反応によって炎症になる病気です。

この原因と結果の順番はとても重要です。

皮膚バリア機能異常から免疫反応が引き起こされる

皮膚のバリア機能異常が起こると、そこからTSLPという物質が発生します。

TSLPは肌の表皮を作る上皮細胞から産生されるタンパク質です。その発生機構は明らかになっていませんが、バリア機能異常が起こった初期応答として産生されていると考えられています。

このTSLPは、アトピーに関連する免疫細胞を引き寄せて免疫反応を起こし、炎症の原因となっていきます。

免疫とは白血球の集団防衛反応

免疫とは、侵入物から身体を守るために免疫細胞(白血球)が仲間を呼び寄せて防御・攻撃するプロセスのことです。

アトピー性皮膚炎では、2型免疫反応と呼ばれています。おおまかには次の通りです。

1. TSLPが2型免疫細胞 (Th2, ILC2) を引き寄せる
2. これら2型免疫細胞は、免疫反応として他の免疫細胞を引き寄せる連鎖を起こし、免疫を活性化させる。これは伝達物質(Th2サイトカイン)を経由して行われる。
3. この伝達物質は周辺の細胞も刺激して、血管拡張、発熱、痛み、腫れを引き起こし炎症になる

この炎症が、アトピー性皮膚炎というアレルギー炎症の正体です。

アトピーが免疫異常と言われるのは、その防御反応の発生が多すぎて、副作用であるこの炎症を引き起こし過ぎてしまうことを意味しています。

IgE抗体、Th2細胞は原因ではなく結果

アトピー性皮膚炎でよく聞くIgE抗体、Th2細胞、TARC(タルク)はこのTSLPから始まるサイクルの過程で産生されていきます。

これらの物質はアトピーの原因ではなく結果であるということになります。バリア機能異常が最初にあり、その後に産生される物質ということになります。

他にも、Th2伝達物質(IL-4・IL-13・IL-31)など近年で注目されている関与物質はたくさんあります。これらはよく「アトピーの原因」として説明されます。

ですが、アトピー性皮膚炎の原因ではなく、アトピー性皮膚炎の結果として産生される物質です。

途中生成物は検査・治療に活用される

なぜこういった物質が注目されるかというと、次のようなメリットがあるからです。

・アトピー性皮膚炎の状況把握・検査に使える
症状制御・治療上で働きかける対象となりうる

前者では、たとえばTARCやIgE抗体はアトピーの重症度と相関があるとされ検査に利用されます。

また後者では、近年出てきた治療薬であるデュピクセント薬(デュピルマブ)が、IL-4やIL-13を抑えることで痒みとバリア機能異常、アレルギー炎症を抑えています。

これらはアトピー発症""のメカニズムの研究から生まれたものであり、対処療法として、即効性を求められる医療現場(臨床)で活用されています。

皮膚からではなく体内からアトピーが始まる場合もあるのか?

アトピーは皮膚のバリア機能異常からスタートすると述べましたが、体内の免疫機能から始まることがあるのか気になるかと思います。

具体的にはTSLP以外の下記の物質からアトピー性皮膚炎が発症するか?を考えることになります。

1. Th2細胞・ILC2(2型免疫細胞)
2. Th2サイトカイン(2型免疫細胞の伝達物質)
3. ヒスタミン(肥満細胞が放出する炎症を引き起こす物質)

これらが何らかの理由で最初に増大したとして、アトピー性皮膚炎を引き起こすというシナリオは考えられるでしょうか?

結論としては「確率的にはとても低い」と考えてよいと思います。なぜなら、それらの物質が皮膚だけに集まる必然性が無いからです。

免疫反応が原因でアトピー”だけ”になることは確率的に起こり得ない

体内の免疫機能がスタートだと仮定すると、2型免疫細胞が増殖していることになります。

すると、その原因となる寄生虫やアレルゲン・毒素は、2型炎症を引き起こします。

具体的には、喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、好酸球性副鼻腔炎などの別の病気になったり、食物アレルギーのような即時かつ重大な症状を引き起こしているはずです。

それなのに皮膚にだけ集まってアトピー性皮膚炎"だけ"を生み出すというのは確率的に不自然です。(エントロピーの法則に反していると表現できます)

コーヒーにミルクを落としたときに、ミルクが全体に混ざり込まないで、コップとの境界だけに集まるということが起こるでしょうか?

答えはNoで、現実には起こりません。

つまり、「皮膚からではなく体内の免疫からアトピー性皮膚炎が始まる」という可能性はいったん考えないでよいということになります。

そもそもなぜ皮膚のバリア機能異常が起こるのかは判明していない

アトピー性皮膚炎の発端が、皮膚のバリア機能異常であるとしたら、それは何がきっかけで起こるのでしょうか。

その原因は判明していません。そしてこの原因の研究こそが、アトピー性皮膚炎の原因究明に他なりません。

一般的によく言われる、肌の乾燥や汗、蒸れなどは、皮膚のバリア機能異常を起こす要因の一つです。

ですが、それだけでアトピー性皮膚炎のような異常な炎症が起こり、しかも治らないというのは、説明として無理があります。

しかも、アトピー性皮膚炎の罹患者は日本国内だけでも少なくとも100万人以上いると推測されています。

それだけ多くの人々が皮膚のバリア機能異常を起こす原因とは何なのか。世界中の研究者たちがいまだに解明できていない謎です。

ただし私の考えでは、この皮膚のバリア機能異常の原因について、明らかにこれ以外には考えられない最大の原因が存在しています。下記の記事で解説していますので参考にしてください。


アトピーと免疫の関係性のまとめ

以上から、免疫を通じてまずはシンプルな整理と理解ができました。

・アトピー性皮膚炎はバリア機能異常から始まる
・その異常に対処するために免疫が反応して炎症を引き起こしている
・炎症の痒みを掻くことで負のサイクルが回ってしまう

一方で、巷では「アレルゲンでアトピーが悪化する」「腸活で免疫を整えればアトピーが治る」と言われたり「皮膚上の細菌が免疫に重要」だと言われたりもします。

次回は、アレルゲンとの関係を解説します。
次の記事:アトピー性皮膚炎とアレルゲンの関係性 〜 アトピーの原因と発症メカニズム(2)

アトピーの根本原因と治療方法について

アトピー性皮膚炎の根本原因を科学的・論理的に解説しています。こちらもご参照ください。

■アトピーの原因と治療方法
アトピーの本当の原因 その治療法の解説
アトピーの悪化を招く4つの重要因子
アトピーの普及は科学的・歴史的に説明ができる

■アトピーの発症メカニズムの科学的解説
(1)免疫とアトピーの関係性
(2)アレルゲンとアトピーの関係性
(3)とアトピーの関係性【公開予定】
(4)皮膚細菌とアトピーの関係性【公開予定】

■その他の記事のまとめ
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