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尾上菊之助の春秋 その壱 春

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尾上菊之助さんの話題が中心のマガジンです。筆者の長谷部浩は、『菊之助の礼儀』(新潮社)を以前、書き下ろしました。だれもが認める実力者が取り組む歌舞伎、その真髄について書いていきま…
有料記事をランダムに投稿します。過去の講演など、未公開の原稿を含んでいます。アーカイヴが充実すると…
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#ナウシカ歌舞伎

『風の谷のナウシカ』とコロナヴィールス

『風の谷のナウシカ』とコロナヴィールス

『風の谷のナウシカ』。ディレイビューイングが、全国の映画館で始まりました。12月の公演ですが、劇評を書いたのが、ずいぶん遠い過去のように思えます。コロナヴィールスのような近似したことがらが、世界を覆ったからでしょうか。劇評を書き替えたくなりますが、その時点での記録なので、改めるのはやめておきます。

■公開

前編・後編 各1週間限定上映

前編 2020年2月14日(金)~2月20日(木)

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続報。『風の谷のナウシカ』収録日について

続報。『風の谷のナウシカ』収録日について

 1月16日に、『風の谷のナウシカ』を映画館で観るべきかと題して投稿しました。

そのなかで、私は以下のように書きました。

 私が新橋演舞場で観た日は、菊之助さんが事故に遭われた直後でしたので、演出の変更がありました。この映像の収録日によっては、フライングなどの演出が観られる可能性もあるので、発表を心待ちにしています。私なりに、関係の方々に聞いてみようかと思っています。

 関係者に問い合わせた

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【劇評157】『風の谷のナウシカ』夜の部(下)。菊之助は「母」となりうるか?

【劇評157】『風の谷のナウシカ』夜の部(下)。菊之助は「母」となりうるか?

 

粘菌は世界を覆い尽くす
 夜の部の物語は、兵器として作られた粘菌が大きな役割を果たす。
皇弟ミラルバは、粘菌を兵器としようとする。大地が人の住めない腐海になろうとも怖れない。

原作が成立した時点では、まだ緊急のものとなっていない世界の問題が、ときに顔を出す。たとえば、この粘菌の件りで、テロや化学兵器や温暖化に何の対策も講じない(講じることさえできない)権力者が思い出されたりもする。

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【劇評156】『風の谷のナウシカ』夜の部(上)菊之助が生まれ持ったオーラ

【劇評156】『風の谷のナウシカ』夜の部(上)菊之助が生まれ持ったオーラ

 壊滅的なカタルシスへ 昼の部の案内役は、「口上(尾上右近)」。これが道化(種之助)に変わる。
 タペストリー幕を使っての世界の紹介は、昼の部同様だが、大海嘨(だいしょうかい)の文字が加わっている。壊滅的なカタルシスをあらわす。
 この道化が、大詰で大きな役割を果たすのが、今回の歌舞伎版『風の谷のナウシカ』のもっとも重要な趣向だろう。

 第一幕のプロローグは、『仮名手本忠臣蔵』の大序を意識した

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【劇評155】『風の谷のナウシカ』 昼の部(下) 颯爽たる七之助のクシャナ。

【劇評155】『風の谷のナウシカ』 昼の部(下) 颯爽たる七之助のクシャナ。

 皇女クシャナの登場は、劇的である。 昼の部の(上)に、書いたように、ナウシカとの個性の違いは、拵えから明確になっている。 
 皇女クシャナ(七之助)の登場は、劇的である。
 原作の衣裳にならって、金属製のメタルが輝き、風と自然を味方とするナウシカとは対象的である。ナウシカは族長の娘であるのに対して、クシュ母皇女。その威厳に満ちている。

  あえていえば、威厳にはその裏側にプライドがある。自尊心

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【劇評154】『風の谷のナウシカ』 昼の部(上) 菊之助の無念。

【劇評154】『風の谷のナウシカ』 昼の部(上) 菊之助の無念。

 突然の事故が菊之助を襲った。 新橋演舞場の『風の谷のナウシカ』は六日に初日を開けた。

 すでに報道されているように、八日の昼の部の第三幕、幕切れに事故がおきた。ナウシカを演じる菊之助が、不慮の事故にあって左肘を骨折、夜の部は中止となった。
 翌、九日昼の部からは、左腕を固定したまま、演出を一部変えて舞台に復帰した。

 私自身は、十二日の昼の部、夜の部を通して観た。

 六日の初日も通して見た

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