クリエイティブリーダーシップ特論:2021年第5回 softdevice社

この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコースの授業である、クリエイティブリーダシップ特論の内容をまとめたものです。
 第5回(2021年5月10日)では、softdevice社の代表取締役である八田晃さんからプロトタイピング/prototypingについてお話を伺いました。

softdevice社とは…

 softdevice社の創業は1984年であり、様々なユーザインタフェースのデザインなどを手掛けてきているとのことである。現在、35名の社員がいる。ちなみに1984年はMacintoshが発売された年であり、把握しているところでは、ブランディングコンサルとして数多くの実績を有するシー・アイ・エー社(CIA Inc.)も1984年創業であり、何かしらの時代背景の力を感じた。
 主な年表は以下の通りである。
 1984 インダストリアルデザイン/industrial designの会社として創業
 1990 インタラクションデザイン/Interaction designに注力し始める
 1992 softdevice社を設立
 2011 the UX LABを立ち上げる

 八田さんによると、昨今、prototypingの意味や範囲が拡張しているとのことである。八田さんが捉えているprototypingとは以下の通りである。

 従来のprototypingは主にproductに対するものが主であり、SketchingやSketchingでは分からない場合に使用する模型造りのprototypingであった。

Sketching ←→ Prototyping

 しかし、近年、ISO9241−210で定義される人間中心設計プロセスが注目されるなど、行動や体感を理解できるprototypingが必要となってきている。そのため、productのみではなく、behaviorやsceneなども対象に含まれるようになってきている。 

Sketching ← Prototyping → Behavior、Scene・・・

 softdevice社では、従来のデザインプロセスではprototypingをしないプロセスの上流段階からprototypingするとのことである。特に、想像が求められる未来のデザインでは、検討のかなり早い段階からSketchingなどにてラフなプロトタイピングをおこないブラッシュアップを重ねるとのことである。Alan Kay氏の"The best way to predict the future is to invent it."という言葉を参考に、softdevice社では、以下のMissionを掲げているとのことである。

Predicting the Future by Making

ちなみに、八田さんによると人間中心設計プロセスの一例は以下の通りである。

<人間中心設計プロセス>
・人間中心設計の計画
  ↓
・ユーザを知る/
 利用の状況の把握と特定
  ↓
・ユーザ情報の可視化/
 ユーザ要件の特定
  ↓
・情報のモデル化/
 設計による解決策の作成
  ↓
・ユーザ評価/
 要求事項に対する設計の評価
  ↓
・解決策 or 再び「ユーザを知る」へ

プロトタイピング/prototypingの手法例は…

 prototypingの手法例として以下のようなものがある。

・Hardware Sketch
 最低限必要な機能を実装したハードウエアをクイックにつくり、実際に試しながら製品をつくり込んでいく手法である。従来のハードウエア開発では、R&Dにリソースを費やし、時間をかけて製品を開発していたが、ソフトウエアのアジャイル開発と同様に、体験できるスケッチを通じてステップの上流から製品を試しながら開発する手法である。授業では、タッチパネルの挙動確認などの事例紹介があった。

・Acting Out
 
製品やサービスを使用するsceneを寸劇などにて体験し、製品を開発する手法である。授業では、医療現場における活用などの事例紹介があった。

・その他
 prototypingの手法は様々あり、授業では、上記意外にPhoto Modeling(上記のActing Outなどにて撮影した写真にアイデアを書き込む)、Projection Modeling(プロジェクションにて具体的なをsceneを体験する)などがあった。

直近の活動について…

 prototypingの良さは製品やサービスの開発において初期の段階から体験にもとづくアイデア出しができ、そして何よりも誰でもできることである。一方で、人が集まる必要があり、最近は気軽に実施できない状況とのことである。そのため、softdevice社でもLive配信によるprototypingに取り組んできてものの、なかなか難しいようである。しかし、副産物として、Live配信のサービスを活用して、ライブハウス等のイベント関連のサービスに繋がったとのことである。

授業にて特に印象深いことは...

 私として、プロセスの上流になるほど不確定要素が多くなり、ラフでクイックなprototypingとはいえ、意思決定が難しいのではないかと思い、どのように意思決定をしているのか質問をした。八田さんによると、理想としては思いつきのレベルで思いついた数だけprototypingし、体験を通じて取捨選択したいものの、現実問題として、つくれる数は限られており、打ち合わせを通じて検討範囲を定めているとのことであった。また、意思決定については、prototypingを体験する際人数を絞り、全員が体験できるよう工夫し、判断における筋の良い判断をサポートするのが、第三者(softdevice社)としての腕の見せ所であるとのことであった。そして、筋の良い判断をするためには経験が必要とのことであった。加えて、取捨選択においては民主的な多数決のみでは判断せず、賛成と反対の両意見が出ており議論を呼ぶようなアイデアこそ、検討すべきとのことである。世に出ている優れた製品・サービスは必ず両意見が出るようなものであり、みんなが賛成もしくは反対のものは良い製品・サービスではないのである。
 八田さんは明言しなかったものの、筋の良い判断に辿り着くには近道はなく、失敗も含めた積み重ねが必要なのだと思った。コンサルの仕事に関与する者として、八田さんの意見はとても参考になり、私も筋の良い判断ができよう、色んなことにチャレンジし、経験を積んでいきたい。


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