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【モノローグエッセイ】肩を貸して目になった話

☆三分間の信頼関係

土日祝日の朝。
人の行き交いがいつもより多い駅。

私は朝からレッスンがあったので
目的地に向かうためにそこにいた。

混みあった電車のドアが開き、足早に電車に乗っていた多くの人がホームに出て、吸い込まれるように階段を下り、改札の方へ向かっていく。

私が降りた駅は二ヶ所の改札があり、ひとつは階段を下りて地下にある地下改札、もうひとつはホームのある階を真っ直ぐ進むとある地上改札とがあった。

次の乗り換えのこともあり、私は地上改札の方へ向かおうとしていたのだが、パッと視界に入った人たちがいた。

中年くらいのご夫婦で、二人とも白杖を持って、お互いの肩に手を置きながら歩いていた。

どちらに進めばいいか困っているように白杖を動かし、右往左往しているように私には見えたのと、この駅は地上改札だと改札まで少し距離があるため、私は二人にそっと歩み寄った。

私「よろしければ、肩をお貸ししましょうか?」
女性「あ、ありがとうございます。いいですか?」

だいぶ前に、幼なじみの家族と出かけた時に、幼なじみのお母さんが白杖を持った人に対してこんな感じで歩み寄っていたことを思い出したので、それを真似て声をかけた。

男性「どうしたの?」
女性「お姉さんが肩を貸してくれるって」
男性「あ〜ありがとうございます」
私「はい、改札までで良いですか?」
女性「はい、お願いします。」
私「じゃあ、歩きますね。」

そう言って、男性は女性の肩を、女性は私の肩に手を置きながらゆっくり歩き始めた。本当にゆっくり歩いた。私は通常、歩くのが速い方なので、いっそう。ゆっくりに感じた。
(余談だが、学生時代、先輩と外を歩いていた時に、私は普通に歩いていたのだが、先輩は走っていたというエピソードがあるほど私は歩くのが速いらしい。)

女性「今日いつもとは違う改札口に降りてしまって」
私「そうなんですね、今日は土日で人も多いですしね」
女性「はい〜まん防も明けたから私達も出てきたんですけどね〜」

朗らかに女性と会話をしながら、私の肩に置いてある手が離れないようにゆっくり歩いていく。言わば、私はこの二人の目の役目を背負っていたので、安全を第一に前を進んでいた。

私「あ、ここから人混みが多くなってくるので、気をつけてください」
女性「はい」
私「ここ、ちょっと坂です」
女性「はい」

そして、改札の前まできた。

私「この後乗り換えとかしますか?」
女性「あ、このままこの駅で目的地に向かうので、改札までで大丈夫ですよ」
私「分かりました。今、改札の前まで来ましたよ、このまま真っ直ぐ行ってください」
女性「ありがとうございます。ここからは私達だけで行けるので」
男性「どうもありがとうございました」

女性の手が私の肩から離れ、二人は改札を抜けていき、点字を頼りに前に進みだした。
二人の姿をしばし見送り、私も電車の乗り換えのためにその場を後にしようとした時、ふと、私は二人の目となった役目を終えたことに一抹の寂しさを感じた。
イメージは、「千と千尋の神隠し」で千尋とハクが最後別れるシーンのような感じ。(伝われ)

なんて言えばいいかな、
二人は、得体の知れない私にその身を委ねてくれていたことに気づいて、ハッとなったという感覚に近いかもしれない。
(※決して、エイブリズムではないので、ご理解いただきたい。)

たった3分くらいの出来事だったが、二人は私に信頼を預けてくれたんだなと。

私のいつもの歩幅で歩き出した時、二人と共に歩いていた時の速度との大きな違いにおお…っと心に来るものがあった。
私一人で歩くことと誰かと共に歩くことの大きなギャップを感じた。

私は二人と歩いた三分間、二人のためにゆっくり歩き、二人のために歩幅を合わせていた。そして、二人は私に身体を委ねてくれた。

過去に演劇のワークショップでも、同じようなワークをやったことを思い出した。
1人が目を閉じ、もう1人が目を閉じた相手を前に進めたり、停止させたり、座らせたりするワークで、確か信頼関係を築いたり、誰かと交流することを体験するワークだった。


このワークのように
あの三分間、私は二人と信頼を築いて、交流していたんだなと思う。

初対面の人、ましてや、相手は目の見えぬ状態で私の声と肩を信頼してくれて、二人の目となる役目を任せてくれた。
だからなのか、二人の目の役目を終えて、離れた瞬間、寂しさに似た感じがした。もう二人の目として交流することがきっと二度とないんだな、と感じて。

信頼の上の交流とは、
こんなにもカンタンに築くことが出来る。

警戒心や武器を捨てて
優しく手を差し伸べ、
その手を「信じて」つなぐことが
大事なんじゃないかな

って思った出来事。

人生観的にも演劇的にも
学びだなと思った。


おしまい

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