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【ショートストーリー】着せ替えドール

【登場人物】
女の子 : 真っ白な薄い服とペチコートを着た女の子。A、B :黒い服に金の飾りマスクをつけていて表情が見えない。概念的存在。
C、D、E、F : 黒い服に銀の飾りマスクをつけていて表情が見えない。概念的存在。


照明がつくと、舞台中央に真っ白な服を着た女の子と、その両脇に、黒い服を着て両手に様々な服を持ったAとBが立っている。しかし、その服はどれも女の子が着るには大きかったり、地味な色をしている。AとBは女の子に服をあてがっている。

A:  なんて可愛いの!

B:  よく似合ってるわ!

A:  次はこれを着てみてちょうだい!

B:  完璧!

A:  最高!

B:  あなたはすごく良いものを着てるのよ

A:  こんなのもどうかしら?

B:  あなたって本当にいい子ね!

A:  私達の言う通りにしていればいいから

B:  今日はこの服を着ること、分かった?

A:  TPOを考えて

B:  あなたにはお金がかかってるんだから

AB: あなたってホントにいい子!


AとBの賞賛の言葉に少女は黙ったまま、無表情。そこにC、D、E、Fが出てくる。


C:  あんたの服、おばさんみたい

D:  なんでいつもそんな格好してるの?

E:   近寄らないで

F:   だっさー


C、D、E、Fは嘲笑いながら退場。C、D、E、Fの言葉に女の子は傷つき、AとBがあてがう服を払いのける。


女の子:  こんな服、もう着たくない!

A:   なんでそんな事言うの?

B:   こんなにいい服着せてるのに

女の子:  みんなみたいな格好がしたい!

A:   あんな安っぽい格好の何がいいの?

B:   あなたとみんなは違うの

女の子:  もう悪口言われたくないの!お願い!

A:  せっかく良い服買ってあげてるのになんてこと言うの?

B:  そんなわがまま言うなんて

AB: 悪い子ね


AとB退場。すると、入れ替わりでC、D、E、Fが色とりどりの服を持って颯爽と現れ、女の子を囲む。


女の子:  私は着せ替え人形じゃない


C、D、E、Fは色とりどりの服を女の子にあてがい、女の子はその中の一着を着る。


女の子:  自分が着たいものを着る


女の子は解放されたような顔。女の子をC、D、E、Fが囲み、


C:   その服可愛いね!

D:   どこで買ったの?

E:   今度一緒に買い物行こうよ!

F:   似合ってる!

CDEF: 素敵だよ、何もかも

女の子:  ありがとう!


女の子は笑みを浮かべ、C、D、E、Fと一緒にどこかへ出かけるようにはけ口に向かっていく。
すると、その行く手を阻むように、服を持ったAとBが出てくる。態度は先程とは全く違い、見下した様子。


AB:   最悪


AとBは女の子を突き飛ばし、C、D、E、Fは突き飛ばされた女の子を呆然と見ている。


A:   何その服

B:   センスを疑うわ

A:   あんたと同じものを身につけてる人、みんなブス

B:   お上品な子はそんな服着ないわ

A:   安っぽい服

B:   ショートパンツはダメ

A:   マキシスカートもダメ

B:    似合わない

A:    どうしてわざわざ醜くなりたいの?

B:    みっともない格好しないで

A:    まあ、恥をかくのはあんただから

B:    笑われてきなさい


AとBの言葉の攻撃に女の子は圧倒される。C、D、E、Fは女の子の着ていた服を無理矢理脱がしていく。女の子は必死に抵抗するも、服を奪われてしまう。


女の子:   返して!


C、D、E、Fは女の子を羽交い締めにして、AとBは無理矢理両手に持った服を押し当てていく。女の子は必死に抵抗する。


A:   ほら、この服を着なさい

C:   黙れ

B:   あんたに似合うのはこっち

D:   歯向かうな

A:   前髪なんて作らないで

E:   似合わない

B:   サイズがないでしょ

F:    諦めろ

A:   露出なんかしないで

C:   不格好

B:   長ったらしいものもダメ

D:   だらしない

B:   男の子に嫌われちゃうわよ

E:    女の子でしょ

A:   自分の立場わきまえて

F:    醜い

ABCDEF:  恥をかくのはあなた


女の子が抵抗をやめると、A、B、C、D、E、F達も動きを止める。


女の子:  恥だなんて思わない


女の子は一気にA、B、C、D、E、Fの腕を振りほどく。ほどいた瞬間に舞台は暗転。


間。


だんだん明転していくと、最初と同じようにAとBが服をあてがって賞賛の言葉をかけている。しかし、AとBに囲まれているのは、Cである。


A:  なんて可愛いの!

B:  よく似合ってるわ!

A:  次はこれを着てみてちょうだい!

B:  完璧!

A:  最高!

B:  あなたはすごく良いものを着てるのよ

A:  こんなのもどうかしら?

B:  あなたって本当にいい子ね!

A:  私達の言う通りにしていればいいから

B:  今日はこの服を着ること、分かった?

A:  TPOを考えて

B:  あなたにはお金がかかってるんだから

AB: あなたってホントにいい子!


その横を、自分の着たかった服を着た女の子が通り過ぎる。


女の子: さよなら


女の子はどこかへ消えていく。






あとがき

2年ほど前にいくつかお話を書いていて、ボツにしたものを今回新たに書き直しました。
というのも、最近SNS上で、自分の服装に対して他者から心ない言葉をいわれたという投稿が多く目に入り、このショートストーリーの原案を思い出したからです。

私は幼少期に毎日の服装を親が決めていたため、同級生の子との服装のギャップがかなりありました。
「あんたの服おばさんみたい」と服装が原因で周りから悪口を言われたり、また、他の子よりも体格が大人びていたこともあって、年頃の子が着たいと思うものを着ることが出来ず、「デカい」「ブタ」など、悪口を言われた経験がありました。

我慢の限界が来て、自分が着たい服装、言い換えれば親が良い顔をしない服装を反抗しながら着続けていた時は、親からの反対意見に耳が痛くなる日々を過ごしました。 言いたい放題服装をなじられ泣いてました。

だけど、あの時は、それでも着たいと思う憧れの服があったんです。もちろん今も。

第三者が何と言おうが、あなたが着て最高!と思える服をあなたらしく着ればいいと思う。


同じようなことで悩み、傷ついた全ての人に捧ぐ。


※本著作物の著作権は、橋本薫子に帰属します。

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