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『MUST』を選ぶ、時計のはなし。

一足飛びは、ときに危うい。
時間をかけて積み重ねてきたものが
あるとき、場展をむかえる。
受け取る器ができたとき、それは訪れる。
わたし達が知らない遥か遠くから。
光の速さで追いかけてくるんだ。

晴海たお


あなたは、今、どんな時計を身につけているだろうか?


わたしは、シーンごとに4つの腕時計を使い分けている。

仕事の時は、アニエス・ベーの黒革ベルトの『マルチェロ』というシリーズ。
デザイナーのアニエスが書いた、少しクセのある可愛らしい数字が文字盤に使われている、シンプルで、どんなスタイリングにもあるユニセックス仕様のデザイン。
ケース本体は比較的大きめだが、薄いので大袈裟な感じがせず、カジュアルで軽やかな付け心地だ。


サーフィンの時は、完全防水のCASIOの黒のGSHOCKだ。
毎回、ボード用の白いワックスがどうしてもベルトの溝にこびりついてしまうが、
それを見ると、サーフィンを楽しんだ時間を思い出せる。


休日に出かける時は、アンティークのROLEXのオイスターパーペチュアルか、
Cartierのmust de Cartierのマストタンクを、その日の気分やスタイリングによって選んでいる。


この4つの時計の中で、一番思い入れのある時計は、マストタンクだ。
13年前、父が旅先で交通事故に遭い、家族で入院先の遠方の病院に見舞いに通った。家族みんなで、支え合いながら乗り越えた出来事だった。

父が退院し、落ち着いてから、わたしは仕事帰りにアンティークショップで
マストタンクを購入した。

どんなに健康だったとしても、人はいつ死ぬかわからないということを実感したわたしは、『時間』というものを大切にしたい、と思った。
そして、そんな大切な時間を確認するのは、自分の気に入った愛おしいと思える腕時計にしたい、とも思った。


must de Cartierのマストは『MUST』のことで、その言葉の意味通り、
『不可欠なもの』。
そこには、『美を愛する人の生活には持たなければならないもの』いう想いが込められているらしい。
若い世代にも、本物の良さを体感できるよう、工夫を凝らして、買いやすい値段で作られたラインで、現在は製造されておらず、アンティークでしか手に入れることはできない。

わたしは、この時計のリューズの青い石が気に入っている。ブルースピネルという石で、石言葉は『審美眼』『美的感覚』。
そこには、優れた審美眼で、美しさだけではなく、『自分にとっての正しい選択』ができるように、という意味も込められているんじゃないかと、わたしは思った。
自分の人生で、いつも、その時の『MUST』を選ぶ。
そんなお守りのような石がついたマストタンク。

柔らかな感触を感じる、『ヴェルメイユ(シルバーの上に金メッキ)』のケースに、美しい青のリューズと優しいローマ数字の文字盤。
わたしは、時折、この時計を見ながら、生き急いでないか、を確認する。
わたしの人生の『時間』を味わえているだろうか?を確認する。

三次元のこの地球で、人間の世界の『時間』という概念のもと生まれた時計。
地球に、巨大な時計があって、『今、何時です』なんて決まっていたわけではないのに、誰がどうやって『時間』というものを決めたのだろう?
と、わたしは不思議に思う。

スマホと一心同体の暮らしの中で、腕時計をしない人も多いかもしれない。
でも、共に、時を刻み、歳を重ねる相方のような腕時計を持つというのも
おすすめだ。

そして、そんな時計に出会った瞬間、というのも、なかなかドラマチックだと思うのだ。



晴海たお



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