一人の美容師の、印象に残る「美しい髪」
#美しい髪
覚書として留めておこうと思う。
私は美容師で、長い年月、髪に携わってきた。
この仕事をしていて、特に印象が強く脳裏に残る「時」が二つある。
お客様の成人式の日と、お通夜・お葬式の日。
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成人式は、
店側は早朝には暖房を入れ、部屋を暖め、へアセットと着付けの準備をして、成人されたご本人様とお連れ様を待つ。
ご来店されるお客様達も、着付けのしやすい前開きのパーカーやブラウスを中に着こんで、コートを羽織り、白い息をふうっと吐きながら、頬を赤らめながらご来店される。
実は、一番好きなシーンは、着付けが終わって、
お客様も美容師も一息ついて、
お客様がお店を出られる時だ。
慣れない着物にご本人様も、お連れ様も、カチコチしながらも、
鮮やかな下駄で一歩ずつ、一歩ずつ、
地に足をつけて、
爽やかな朝日に向かって、
成人の日を迎えに行かれるのだ。
つやと若さの溢れる美しい髪を、
更に美しく結い上げ、美しく華やかな花飾りで色彩を纏い、
誇りと自信を象徴する厳かな振り袖を纏って、
そのお姿をお連れ様が感慨を抱いて、見守って、
朝日に向かって、お二人は一歩ずつ、一歩ずつ、確実に、その道を歩んでいかれるのだ。
そのお二人のお背中を、仕事を終えて見送るのが、
昔からとても好きだ。
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そして、もう一つは、
常連の仲の良かったお客様が亡くなられた、そのお通夜の時。
お葬式はお昼間になって仕事で行けないときが多いので、行くときは、お通夜の方が多い。
遺影や、今ならフォトムービーが流れるところもあるのだが、
その方のその髪型が、私のお店でセットされた髪型だった時に、なんとも言えない感情が湧き上がる。
遺影やフォトムービーに映されるお顔は、故人のお元気だった頃のお写真が多く使われる。
この方の普段の生活、お元気で楽しまれていた時に、私のお店でセットされて、その髪型と共に楽しい時間を過ごされていたんだなあ……と思うと、目頭がじわっと熱くなる。
お通夜のお経とご焼香、ご家族様のご挨拶が終わり、棺の中の故人のお顔に最後のご挨拶をするとき、
その方の楽しかった時に、美しく整えられた髪型が共にいられたことは、楽しかったその時の支えの一端になられたことは、
美容師として、まさしく誇りになり、
そして、感謝の念で心が一杯になる。
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#美しい髪
と聞かれれば、美容師としては、100%完璧にお客様目線では語られない。
でも、美容師ならではの 「美しい髪」 に対する概念や思い、想い出も、
それを公に語っても、
それはそれで世界の一端の、一人の感情として、
ここに留められたら良いなと願う。
赤城 春輔
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