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『資本主義の家の管理人』~市場の時代を乗り越える希望のマネジメント⑨ 第二章 会社 第六節 会社の基本構造 

第二章 会社 ~企業活動の全体像

<第二章構成>

第四節 企業活動の入口と出口
1.What for(何のために) ~旗を立てる
2.How(どのように) ~資源・資産・資本
3.For what(何に) ~利潤の使い道

第五節 事業と経営 ~時を刻むのではなく、時計を作る
1.事業家と経営者の違い
2.事業経営(Business management)、会社経営(Company management)、企業経営(Enterprise management)
3.時間が創り出す価値 ~ローマは一日にして成らず

第六節 会社の基本構造
1.会社の基本構造その1:運営の仕組み
2.会社の基本構造その2:所有の仕組み
3.会社の基本構造その3:財務の仕組み


第七節 株主の権利と義務
1.自益権と共益権 ~お金と権力の合体
2.出資株主と非出資株主
3.PBR(株価純資産倍率)の罠


第七節 会社の本質を考える
1.会社は誰のものか ~モノとしての会社、ヒトとしての会社
2.テセウスの船 ~同一性のパラドックス
3.会社は資産でできている

第八節 会社の機能
1.会社の機能その1:契約の統合とリスクの引き受け
2.会社の機能その2:知見の貯蔵、熟成、活用
3.会社の機能その3:機会を提供と社会的公正の実現


第六節 会社の基本構造


日常なにげなく使っている会社という言葉も、いざ「会社とは何か」と問われると、ひとことで説明するのは困難です。

この節では、マネジメントの対象である会社について考えるために、まずその基本構造をおさえておこうと思います。

1.会社の基本構造その1:運営の仕組み

辞書には、会社は以下のように定義されています。

「商行為(商事会社)またはその他の営利行為(民事会社)を目的とする社団法人。株式会社・有限会社・合資会社・合名会社・合同会社の5種がある。」(広辞苑)

社団とは一定の目的を持つ人の集合体を言い、法人とは自然人(人間)以外で法律によって権利・義務の主体となることが認められたものを言います。一般に、社団法人は会社ではなく非営利目的の団体を指すことが多いので、簡単に言うと会社とは「営利行為を行う人の集合体で、法人格を持つもの」ということになります。

●法人の種類

ここで言う営利行為の主体は、法人ではなく出資者です。営利法人と非営利法人の違いは、「利潤を出資者に分配できるかできないか」であり、法人が利潤を獲得するかしないかではありません。非営利法人も、お金を儲けて従業員に高給を払っても法的な問題はありませんが、当然に、その水準が法人の設立目的と整合しているか、出資者の信頼を損なうことはないかなど、別の観点からの妥当性は問われることになります。

代表的な営利法人には、会社の他に弁護士法人や会計監査法人などがあり、非営利法人には、NPO法人、学校法人、宗教法人、医療法人などがあります。

営利法人である会社には、株式会社、有限会社、合資会社、合名会社、合同会社の5種類がありますが、有限会社は2006年の会社法改正で新規設立ができなくなったので、現在、設立可能な会社の種類は4つです。株式会社以外は、いずれも株式を発行しないので持分会社と言います。

会社の種類

4つの会社形態の違いは、出資者の会社の経営への関与の有無と会社の債務に対する責任の範囲です。

合名会社では、出資者が直接会社を経営し、会社の債務に対して個人的に責任を負います。会社の債務イコール出資者の債務となる「無限責任」の出資者によって経営される会社が合名会社です。

合資会社には、無限責任の出資者と有限責任の出資者がいて、最低でも2名以上の出資者から構成されます。有限責任の出資者は、会社の経営に関わらず、出資金以外の責任は負いません。合名会社と合資会社は、家族経営や小規模な事業、専門職の連携で行うプロジェクトなどに適した会社形態です。

合同会社は、2006年の会社法改正で新たに設立が認められた会社形態で、出資者が経営に関わり、かつ有限責任です。幅広く出資を募ることはしにくい反面、出資者にとって株式会社よりも経営の自由度が高く、柔軟な運営が可能です。

合同会社の登場により、現在では合名会社や合資会社を設立する利点は乏しくなっており、日本では現在、65%が株式会社、25%が合同会社、10%程度が合資会社か合名会社の形態を採用しています。

株式会社は、会社が株式を発行し、出資者はその株式を所有します。株主は所有する株式数に応じて重要事項について決議する権利を得ますが、会社の経営は株主の選んだ取締役が行います。資本と経営が明確に分離されているのが株式会社です。株式会社は、株式を公開して一般に売却することができるため、多額の資金調達がしやすい反面、会社法により厳密な運営方法が定められています。

さらに、株式会社は、株式を自由に譲渡できるか否かによって、公開会社と非公開会社に分かれます。公開会社は定款に株式の譲渡制限がない会社、非公開会社は定款においてすべての株式に譲渡制限が付された会社です。公開会社では株主は自由に株式を譲渡できますが、非公開会社では取締役会の承認がなければ株主は株式を譲渡することができません。非公開会社は、株主を限定することで経営の自由度を高める狙いがあり、必ずしも公開会社イコール上場会社、非公開会社イコール非上場会社ではない点に注意が必要です。

●会社の機関

もっとも代表的な会社である株式会社は、その運営の仕組みが会社法によって細かく定められいます。以下、運営の仕組みとして特に重要な「機関」について見てみます。

すべての株式会社は、株主総会と取締役を置かなければなりません。さらに一定規模の会社は、3名以上の取締役からなる取締役会と監査役(取締役会設置会社は3名以上の監査役からなる監査役会)と会計監査人の設置が義務付けられます。これらを会社の機関と言います。

大規模な上場会社では、経営の専門性を高めるために、取締役会の機能の一部を委員会(指名委員会、報酬委員会、監査等委員会など)に委任する場合があり、これらを委員会設置会社と言います。

委員会設置会社は2006年の会社法改正によって設けられ、これにより、上場する株式会社は、監査役会設置会社か委員会設置会社のどちらかになりました。

会社の業務には大きく、日常の業務を処理する執行業務と、執行業務を監督する監督業務があります。

取締役会設置会社では、取締役は取締役会の構成員の一人として会社の業務を執行し、取締役会が取締役の業務執行を監督します。取締役会が機関であり、個々の取締役は機関ではありません。一方、比較的規模の小さい取締役会非設置会社の取締役は、それぞれが会社の機関となります。

委員会設置会社では、取締役は監督業務に専念するため、監査役は置かれません。執行業務と監督業務がより明確に分かれているのが委員会設置会社です。

株主総会は会社の最高意思決定機関です。毎年一回以上開催され、会社運営に関する重要事項を決議します。具体的には、経営方針や経営計画の承認、株式の発行・償却、取締役・監査役・会計監査人の選任、会社の合併・分割、決算承認、利益配当などが株主総会決議事項として定められています。

取締役は、株主総会で選任され、経営方針や事業計画の策定、重要な意思決定、事業の執行状況の監督、内部統制とコーポレートガバナンスの整備、決算の承認、株主総会への報告など、経営全般に当たります。取締役は原則として一人ひとりが会社を代表しますが、代表取締役を置く場合は代表取締役だけが会社を代表する権限を有します。

監査役は、経営の監視・監督を行う機関です。取締役の判断や、会社の業務執行が、法令、定款、株主総会の決定に沿っているか、財務報告は適正か、内部統制システムは有効に機能しているか、などを監査し、結果を株主に報告します。監査役も善管注意義務を負います。

会計監査人は、独立した第三者の立場で、会社の財務報告が各種会計基準に沿っているか、会社の実態を正しく反映しているかを監査し、適正か否かの意見を表明します。会計監査人には専門資格のある公認会計士や監査法人が就任し、取締役や監査役と同様に、会計監査人も善管注意義務を負います。

取締役、監査役、会計監査人は、会社とは委任契約の関係にあり、委任に関する民法の規定により、会社に対する善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)を負います。従って、会社の法令違反行為を見逃したり、明らかに会社の利益に反する取引を行なったりすれば、善管注意義務違反として法的に処分されます。

株式会社の構造

会社法に定める機関は監督業務に関わる機関であり、執行業務を担う機関については、会社法には特に定めはありません。その理由は、会社法は、会社に自由な営業活動を認め、その活動が適正に行われていることを監督機関に保証させる、という考え方を採っているからです。

普段私たちが何気なく使っている、会長、社長、CEO、CFO、本部長などの名称は、すべて執行業務に関するタイトルであり、会社の判断で自由に設置することができます。従って、代表取締役社長とは、監督業務である取締役と執行業務である社長の両方を兼ねている人という意味になります。

以上、会社の運営の仕組みとして押さえておくべきことは、①会社は執行業務と監督業務から成っていること、②株式会社はその運営の仕組みについて細かな法的要件が定められていること、③すべての株式会社は機関として株主総会と取締役を置かなければならず、一定規模以上の会社は取締役会、監査役(監査役会)、会計監査人も置かなければならない、の3点です。

2.会社の基本構造その2:所有の仕組み

「会社の所有者は出資者である」というのが、会社法の前提となる考え方です。

株式会社であれば、所有者である株主は、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会における議決権、という、会社の利益と支配の両方の権利を有します。専門用語では、前者を「自益権」、後者を「共益権」と言います。自益権は私的な利益に関する権利、共益権は集団的な利益に関する権利です。

自益権と共益権

会社の所有者は出資者であるという法律上の定義は、明快で分かりやすい反面、様々な問題点もはらんでいます。それは、現実社会においては会社は単なる出資者の所有物以上のものであるからです。

会社の本質は何かという点については次節で詳しく論じますが、ここでは法律上会社の所有者である株主の権利について、気になる例を2つ挙げておきます。

ひとつは、自益権に関わる問題としての、取締役や執行役に対するストックオプションの付与についてです。

米国では、CEOは平均すると報酬の7割程度をストックオプションで受け取っています。CEOと一般社員の年収格差を拡大させた最大の要因がストックオプションですが、ストックオプションは株式を購入する権利であり、株式自体の購入ではありません。つまり、ストックオプションは対価を払わずに取得する自益権であり、従業員が給与の一部を充てて株式を購入する従業員持ち株制度とはこの点で大きく異なります。

労働の対価としての役員報酬または給与と、自益権すなわち会社の財産を所有することから得る利益の違いを考えてみましょう。

トマ・ピケティは、『21世紀の資本』で、膨大なデータの分析から「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という公理を発見しました。これは「資本の生む利益は、平均的な経済成長率と労働所得の伸び率を上回る」という意味で、自益権から得る利益の方が労働の報酬よりも価値が大きいことを示しています。会社の所有者としての自益権は、労働によって得る利益よりもずっと大きいのです。

もちろんストックオプションは、株価が上がらなければ株式に転換されず、取得者は自益権を手にすることはありません。しかし、労働の対価としての役員報酬や従業員の給与よりも大きな利益をもたらす自益権を、対価を払わずに取得するストックオプションという制度について、それを合理的だとする根拠はどこにあるでしょうか。取締役やCEOも、自益権という大きな利益の権利を手にするなら、相応の対価を払って取得するべきではないでしょうか。

現在300倍にまで拡大したとされるCEOと一般従業員の年収格差を考えると、ストックオプションという自益権の取得の方法について、社会的な広い議論が必要だと思います。

もうひとつ、共益権の問題を考える例は、株主によるプロキシファイトです。プロキシファイトとは、特定の株主や経営陣が他の株主からプロキシ(代理投票権)を集めて会社経営に重要な影響を与えようとする行為を言いますが、ここには共益権という権利とそれに付随べき義務のバランスという問題があります。

「グリーンメーラー」と呼ばれる、プロキシファイトを仕掛けるアクティビストの一部の人々は、会社の支配者という立場から経営に圧力をかけ、資本の再編や高額配当を行わせて大きな利益を手に入れようとします。そして、やむなく会社が吐き出した利益を手に入れた瞬間に彼らはいなくなります。会社の重大な意思決定を行う権利としての共益権は、その大きな権利を行使する以上、権利に見合う責任が伴うはずですが、グリーンメーラーは利益だけを手にして立ち去ります。

株主が会社の所有者であり、株主は自益権と共益権という会社の支配権を持つという法律上の建付けには、このように社会的な不公正を生み出す要素が含まれていることを、私たちは理解しておく必要があります。

最後に、公開会社と非公開会社の違いもおさえておきましょう。言葉のイメージから、公開会社は上場会社で、非公開会社は非上場会社であると考えやすいのですが、公開会社とは「発行するすべての株式について、自由に売買できる会社」を言い、非公開会社とは「一部またはすべての株式について、売買に取締役会の承認を必要とする会社」を言います。

非公開会社は、株式の所有や譲渡を制限することで株主を限定し、経営の安定を保とうとするのに対し、公開会社は、株主の自由な出入りを認めることで、幅広く資金を調達しようとします。公開会社と非公開会社の違いは、会社の所有者である株主の自益権と共益権を会社がコントロールする方法の違いなのです。

このように、会社の所有の構造は、会社の利益と支配の権利を巡って社会に大きな影響を与えます。会社の所有者は誰か、所有者の権利は何か。会社の基本構造を考えるには、いかなる富と権力の分配が社会の公正さを高めるかについて、深く考慮しなければなりません。コーポレートガバナンスの根幹はここにあります。

3.会社の基本構造その3:財務の仕組み

会計の財務内容は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書という3つの財務諸表によって表されます。

貸借対照表(Balance Sheet、略してBS)は、資産、負債、自己資本から構成され、ある時点での会社の財務状態を表しています。表の右側の負債(借入)と資本は企業が調達した資金であり、資本と企業が自ら稼いで貯めた金額を合わせて自己資本と言います。表の左側の資産は、調達した資金が何に使われているかを示しており、表の左右の金額は必ず一致します。

負債が大きければ、財務状態が不安定だと見ることができる一方、成長のための資金需要が旺盛であると見ることもできます。自己資本が大きければ財務状態は安定しますが、投資家から見ると資金を有効に使っていない(資本効率が悪い)という評価にもなります。このように、表の右側の負債と自己資本は、企業の成長性と安定性を示しています。

左側の資産には、現金、売掛金、在庫など短期間で中身が入れ替わっていく流動資産と、長期間継続して使用する固定資産があり、固定資産には、土地建物、機械設備のような有形固定資産と、商標権・特許権のような無形固定資産があります。

損益計算書(Profit & Loss Statement、略してPL)は、一定期間における売上、費用、利益を表しています。売上や利益がどの時点で実現したと考えるかによってPLの数字は変動し、売上や利益は増えていても売上代金の回収が遅れれば「黒字倒産」になる場合もあります。実際のお金の動きとPLの損益は必ずしも一致しないことに注意が必要です。

キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement、略してCFまたは現金収支報告書)は実際のお金の動きを表しています。営業活動によるキャッシュフロー、財務(借入、返済)によるキャッシュフロー、投資によるキャッシュフローの3つに分かれ、一定期間に会社の現金がどのように増減したかを表します。キャッシュフローがプラスである限り、会社が倒産することはありません。

3つの財務諸表は、それぞれ人に例えると、BSはその人がどういう人か、PLはこの一年で何をしたか、CFは生きる力を表しています。

財務諸表は数字の面から会社の構造を示していますが、忘れてならないのは財務諸表に反映されているのは会社の価値や活動の一部であるということです。会社には、可視化や数値化はできないが重要な価値や活動があり、会社の構造を把握する際には、そうしたオフバランスの(貸借対照表には載っていない)資産にも目を向ける必要があります。

会社はつまるところ、人間が作り出した約束事、つまり「フィクション」です。そのフィクションを可視化するために、法律によって法人の資格を与え、基本構造を定め、財務諸表によって活動を数値化しているのです。しかし大事なのは、法律と財務によって可視化された姿は会社の一部でしかないということです。

こうした基本構造を頭に入れて、次節では会社の本質について考えてみます。


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