見出し画像

100万円貯まったから、会社辞めます。


ちょうど7年くらい前、私は新卒で入った会社を1年と3ヶ月で退職した。
理由はいろいろあったけれど、「100万円貯まったから。」という理由も自分にとって大きなきっかけだった。

今日はそんな人生で大きな選択をした私を後押ししてくれた映画を紹介したい。

映画の紹介に入る前に、自分の当時の状況を先に綴っておこうと思う。

新卒で晴れ晴れ社会人デビューを果たした私。
早くいろんな経験を積みたくて、とあるベンチャー企業に就職した。

他の記事にも書いたことがあるが、そこで私は大きな壁にぶち当たった。

深夜に及ぶ長時間労働
呼び出しがあれば休日出勤
あくなき向上心で勉強と努力を惜しまない周りの精鋭たち
全然伸びてくれない営業成績
数字へのプレッシャー

正直きつくて、身体的にも精神的にも今にも壊れそうな生活を送っていた。ただ、一緒に働いている人たちはいい人たちで、今でもすごく感謝しているし、よい経験にもなったのだけれど、どう考えても周りから見たらいわゆる「ブラック」な職場だったし、同じ時期に入社した同期も結構な人数早々と離脱していっていた。

今でもその環境でもう一度働けと言われたら絶対に無理だ。どう考えても「ブラック」を超えて「真っ黒」な職場環境だった。

よく自分でも頑張って働いていたなと思うのだけれど、そんな環境でも1年と3ヶ月続けられた背景には、自分の中に色濃くあるとある価値観が影響していたなと改めて思う。

その価値観は、いろんな言葉で言い換えることができると思うが、私の中で一番わかりやすい言葉を選ぶと

「石の上にも3年」

という言葉である。
「どんなに辛くても、続けていればいいことが起こる。」そんな意味でよく理解されていると思う。

今は少し時代が変わってきているかもしれないが、7年くらい前のその当時は、まだ「早期離職」「第二新卒」みたいな言葉が世の中にまだまだ浸透されていない時期で、「長く1つの職場で働くことがあたりまえ」みたいな価値観が色濃かったと思う。あくまで私の解釈だけれど。

その価値観が驚くほどに私を蝕んでいた。

「この会社で続けれなかったら、私はもう他で働けないかもしれない。」とか

「すぐに辞めちゃったら家族や周りからなんて言われるんだろう。」とか

「とにかく3年、最低でも3年は続けないと社会人として失格だ。自分は負け組だ。」とか

そんな価値観が自分を縛って、もはや意地と、あとは自分が仕事を辞めてしまったあとどうなるかわからない不安と恐怖が後押しして、死んだ魚を目をして日々働いていた。

働いて働いて、楽しみなんてなくて、頭の中は全部が仕事のことでいっぱいで、ほんとにこのときの私には仕事しかなかった。

しかも、その当時私は人材系の部署で働いていて、いわゆるキャリアコンサルタントとして、
求職者には

「これからは転職の時代ですよ。」
「しんどいのであれば、長く続けることに縛られず、新しい道を考える選択肢を作ってみてもいいと思いますよ。」

とか言いながら、自分のことになると、先に述べた価値観が足かせになって、転職をすること自体に恐怖とおびえでどうしようもなかったのだから、キャリアコンサルタント失格である。

そんながんじがらめになっていたあるとき、この映画に出会った。今でも私のバイブルとなっている、「百万円と苦虫女」という映画である。


蒼井優さんを大好きになったのもこの映画がきっかけである。
ストーリーとしては、ひょんなことから前科がついてしまった女の子が、さまざまな出会い、人とのつながりを通して成長していく物語である。

公開は2008年。
ちょうど仕事でいっぱいいっぱいになっていた時期に、予告編をみて、映画館ではなく、TSUTAYAに DVDを借りに行ってこの映画を見た。


「100万円貯めたら出て行きます!」
前科がつき、実家にいずらくなった鈴子は、100万円貯まったら、場所を転々として暮らしていく。最初は海へ、次は山へ、そして街へ。

そんな彼女の映画の中のセリフで印象に残っているところがある。

100万円貯めて、転々としてるんです。

彼女にとって、その行動は自分探しの旅なんかではない。

いや、むしろ探したくないんです。
どうやったって、自分の行動で自分は生きていかないといけないですから。
探さなくたって、嫌でもここにいますから。

彼女は自分自身で選択している。
はっきりとした意思を持って
それは決して前向きな選択ではなかったとしても、自分の生き方を自分自身の意思で決めている。

どこに行っても所在がなくて、いっそ自分のことを1人も知らないところで暮らしてみたいと思ったことはないですか。・・・知らない土地へ行って、もちろん最初は誰も私のことを知らないんですけど、だんだん知られてきて、そうすると面倒なことに巻き込まれて。
100万円あれば、とりあえず家も借りれて、次のバイト先が見つかるまでのつなぎにもなって、だから100万円貯めては転々としてるんです。


彼女にとって、100万円貯めることはあくまで手段であって、目的ではない。
そうやって、彼女は自分が心地よく生きるために必要なお金と手段と現実を、自分自身でしっかりと把握している。


そんな彼女の生き様をみて、ラストシーンには気づいたら泣きじゃくってしまったのをよく覚えている。映画そのものへの感動と、今までこらえていたいろんな感情があふれ出していた。

そのあとある程度落ち着いて、ふと自分の貯金残高を確認してみた。
ちょうど新卒で働き始めてもうすぐ1年が経とうとしていて、貯金残高はあと3か月くらい経てば100万円をゆうに超えるだろうというところだった。
それなりに新卒の給与は比較的高いほうだったし、冬のボーナスも入って(その代わり極限のハードワークだったけれど)、まったく遊びや服に使う暇すらなかったので、気づいたらお金が貯まっていた。

考えたこともなかった。

目の前に溢れている仕事をただひたすらにこなすことに必死で、気づいたら1週間のうち5日間があっという間に終わってて、休みだって、睡眠と大量に溜まった洗濯物と、散らかった部屋の掃除で、気づいたら終わってて、自分が何したいのかとか、何が欲しいのかとか、逆に自分は何が嫌なのだろうとか

考えたこともなかった。

100万円貯まれば、それなりに自由に自分で行先を決めて、他の土地に、他の環境に身を置くことができるなんて。

考えたこともなかった。

よくよく客観的に見れば、私が縛られている「石の上にも3年」論も、いわば一般論であって、世間の他の誰かの意見であって、決して自分の意見ではなくて、自分自身のことなんて、他の誰と比較するでもなく自分で決めるしかなくて、意外と自分が何を選択しようが他人はそこまで自分に興味なくて

考えたこともなかった「自分」について、映画をみて少しだけ考えて見たら、意外にも鈴子の生き方が自分にしっくりするような気がしてきて

そして私は「100万円貯まったら、会社辞めます!」

そう決めて、貯まったので、とりあえず自分の所在がない、誰も自分のことを知らない地方の山に、この映画を観てから4ヶ月後に移住した。


そんな私とこの映画と100万円の話。
それから7年くらい経って今に至る。

その当時、映画の鈴子のように、本当に100万円貯まって、本当に新しい土地に移って、生活してみたのだけれど、意外にも「100万円」というラインは自分にとってもすごくちょうどよくて、家も借りれたし、新しい仕事をはじめるまでとはじめてからのちょうどよい資金の足しになった。

その成功体験を経て、そのあとも2度ほど私は場所を変えて人生を送っている。

鈴子ほど、「100万円を貯める」という理由1つで生きているわけでもないし、旅の途中で、映画の中に登場した森山未來さん演じる中島くんみたいな素敵な彼に出会えたわけでもなかったけど、でも、この映画に出会って、自分の生き方が変わったのは確かだ。

「嫌なこと、しんどいことがあったら、100万円さえあれば、いつでも私は逃げられる。」

そう思うと心なしか自分の人生を生きやすくなったと思う。
だからこそ、その映画をみて時が経った今でも、「100万円」は絶対に自分の貯蓄としてもっておくことを、心の保険にして生きている。

最近、Amazonプライムにてこの映画が見れることを知ったので、久しぶりに見返してみた。

当時のことを想い出して、いろんな感情が溢れてきて、よい時間になった。
そしてまた、そろそろ自分の所在がない、誰も自分のことを知らない土地へ行こうかなとか考えながら缶ビールを呑んで、改めてこの映画に「乾杯」した。

私と同じようにこれからも、この映画に救われる人がたくさんいるといいなと思う。












この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?