いっしょに食べると、おいしい。劇場版『きのう何食べた?』

トーストの上には、リンゴのキャラメル煮。
そのさらに上には、シナモンを振ったバニラアイス。

間違いないやつだ。間違いなくおいしいやつだ。

ケンジが大きな口を開けて、トーストを食べる。観ている私の口の中にまで、味が広がる。ほんのり甘くて苦くて温かいくたくたのリンゴと、冷たいバニラ。シナモンの香りが鼻に抜けていく。

シロさんじゃなくたって、マネしたくなる。
だって、間違いなくおいしいやつだから。

帰ったら、一緒に観に行った娘がマネをしだした。キャラメルをひどく焦がして苦くなったリンゴのキャラメル煮を、二人で食べた。娘と顔を見合わせて笑った。

おいしいはずがおいしくなくなっても、
大切な人と一緒に食べると、笑顔になれる。

劇場版『きのう何食べた?』は、そんなシンプルなことを教えてくれた。

きのう何食べた?について

原作はよしながふみさんの同名漫画。連載中で、現在は単行本が19巻まで発売されている。几帳面で料理好きの弁護士・シロさんと恋人・ケンジが紡ぐ日常と、二人を取り巻く人たちの物語だ。

シロさんが作るご飯は、「ごちそう」ではない。近くのスーパーで手に入りそうな食材を使った、シンプルでおいしそうな料理ばかりだ。

毎日仕事をして、買い物をして、一緒に料理をして、一緒に食べる。淡々と綴られる身近な人との生活は、私たちのすぐそばにもあるものだったりする。

だれかと食べる、ということ

シロさんとケンジの京都旅行での豪華な夕食も、トーストにリンゴのキャラメル煮バニラアイス乗せの朝食も、ジルベールがいつも手に持っている「わさビーフ」も、だれかと一緒に食べるものだ。

大切な人と一緒に食べると、おいしい。

何気なくすごす毎日が知らないうちに積み重ねた記憶は、ふとした違和感に気づくきっかけにもなる。ケンジの食べる量が少なすぎる、何があったのかと不安になるシロさんが微笑ましい。たとえなんにも無くたって、二人の絆は確実に深まっている。

自分はどうだろうか。誰かと食べることを、抱きしめられているだろうか。
日本に暮らす同性カップルには結べない、結婚という契約。契約があることに胡坐をかいて、私は日常の積み重ねをないがしろにしてはいないだろうか。

終わりに

普段は、ひとりで映画を観に行く。そもそも誰かと予定を合わせるのが大変だし、感想を言い合うのも苦手だからだ。

ジャニーズのタレントが主演の恋愛映画ばかり観ている娘と、珍しく観たい映画が一致したので、一緒に観た。多分、『プリキュア』以来ではないだろうか。

娘がリンゴのキャラメル煮を作り始めたのを見て思う。

もしかして、大切な誰かと食べる幸せを日々感じているのは、彼女のほうかもしれない、と。

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