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#78「大切な場所」

整骨院に通ってる関係で、普段は降りない駅に立ち寄る機会が生まれた。整骨院までの街並みを歩いているとたくさんの発見がある。昔ながらのお弁当屋さんがあったり、ひっそり佇む居酒屋さんがあったり。施術帰りにあえて一本中の道を通って帰ると、コンビニがあったり、建設中のサッカーグラウンドがあったり。普段は車窓越しでしか見えない景色も、いざその中に入ってみるとたくさんの魅力にあふれていた。新しくおしゃれな外観のマンションもかなりあり、住むのにも良いなと感じた。

家へ戻る電車の車窓に、これまた建設が始まったばかりの広場が見える。緑の綺麗な芝生の一部に大きな長方形の穴が空いていて、古墳みたいだ。この多目的広場は、何年も前からマンションが建つと言われ続けていたが、住民の反対もあり、今日まで広場としてあり続けていたものの、ついに新たなかたちへと変貌を遂げる時が来たようだ。

この多目的広場には、たくさんの思い出がある。車内アナウンスが聞こえてくるとともに、過去の思い出が一斉に蘇ってくる。

小学生の頃、この場所で試合や練習をした。グラウンドは芝生だけれど、ボコボコだったからボールは綺麗には転がらなかった。チームメイトはしきりにそのことに触れていたけれど、個人的にはボコボコの方が逆にやりやすさを感じていた。相手がミスをしてくれて奪いやすいし、ボールが浮いていた方がキックをしやすかったから。

中学生の頃、この場所で部活のチームメイト3、4人で2対2をたくさんした。部活がない日はここに集まり、夜遅くなるまでボールを追いかけた。当時はスマートフォンを持っていなかったので、チームメイトから自宅の電話を通して誘われることも多かった。私自身のモチベーションよりも、チームメイトの練習意欲が高くて、私はそれに流されてついて行っていたことが多い。だけど不思議なことに、当時のメンバーの中でサッカーを続けているのは、私ともう一人しかいない。

高校生の頃、この場所で高校のクラスメイトと自主練をした。3年生の夏前、土曜日の朝にクラスメイトの男子が10人くらい集まり、球技大会に向けてここで練習をした。クラスにはサッカー部が私しかおらず、他は元サッカー経験者や初心者のみ。だけどみな仲が良くて、一緒にボールを蹴っていてすごく楽しかった。過去履いていたスパイクやユニフォームをあるだけ袋に詰めて持っていき、皆に貸してあげたのも良い思い出だ。

大学生の頃、部活の入部テストに向けて、走り込みをした。走り込みの甲斐があってランテストには受かったものの、1ヶ月の仮入部で落ちてしまい、入部はできなかった。不合格が伝えられた日、人生で初めてと言ってもいいくらい涙が止まらなかった。片道2時間の通学や始発での朝練、周りはみな高校時代に全国大会に出場していたような猛者ばかり。苦しいことばかりで正直心も身体もすり減っていた。流した涙が悔し涙だったのか、開放されたことへの安堵感だったのか、今までにない感情だったけれど、今思えばあの時に入部していなくて良かったなと感じている。

最近ではこの多目的広場の近くにサッカー専用グラウンドが出来たので、この場所へ訪れることはなくなっていた。思い出がいっぱい詰まった場所がまた一つ、失われていく。近いうちにここにマンションが建ち、面影も失われていくのだろう。そうすればこうして昔の記憶を思い出すこともきっとなくなってしまう。

かたちとして存在しなくなったとしても、心の中にはいつまでもこの記憶を留めておきたい。そんな思いで今日もこの場所に想いを残し、未来の私に繋げようと思う。このメロディーとともに。

思い出がいっぱい詰まった景色だって また
破壊されるから 出来るだけ執着しないようにしてる
それでも匂いと共に記憶してる
遺伝子に刻み込まれてく
この胸に大切な場所がある

Mr.Children「東京」

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