逃げ場所の大切さとそこから出る勇気ージルファ・キートリー・スナイダー「ビロードのへやの秘密」ー
ジルファ・キートリー・スナイダー「ビロードのへやの秘密」小比賀優子訳、中村悦子挿画
あらすじ 12歳のロビンの家族は、仕事を探す父さんとともに旅していました。ある日、車の故障がきっかけでラス・パルメラス村に落ち着くことになりました。ロビンは、いつもの『ふらふら歩き』をするうち、すばらしい部屋を見つけます。『ビロードの部屋』とそこを名づけて毎日通ううち、その部屋は、ロビンにとって、かけがえのない宝物となっていきます…。 空想の世界にとじこもりがちな女の子が数々の事件をのりこえ大きく成長して行く様子を、あたたかい目を通してつづった物語。 (カバーの説明文より)
表紙と題名に惹かれて、この本を手に取った。
買おうかどうか迷っている時、あらすじを読んで買うことを決めた。
それは、2つの言葉に興味を抱いたからだ。
ひとつは、「ふらふら歩き」という言葉。
私も幼い頃、周りに心配をかけるほどではないが、ふらふらとどこかへ、ひとりで行くことがあった。
今でも、ふらふらとひとり歩きをしてしまうが…。
もうひとつは、空想の世界にとじこもりがちな女の子、という言葉だ。
私も空想の世界に閉じこもってばかりの子どもだった。
かなり、現実よりも空想の世界の比重が大きかった気がする。
主人公と同じく空想好きの私が、ちゃんと(精神的に)成長できているかは分からないけれど…
この本の主人公が、どんな風に成長するのか、とても気になったのだ。
著者:ジルファ・キートリー・スナイダー 1948年アメリカのカリフォルニア州生まれ。大学卒業後、小学校の教師として長年アメリカ各地の子どもたちと接する。その後児童文学の創作を始め、ファンタジーや不思議な世界を描く作品で本領を発揮。(カバーの説明文より)
この本を読み終えた後に、著者が小学校の教師だったことを知り、納得した。
長く、様々な子どもたちと接してきたから、子どもに対するあたたかな目線(あらすじに書いてあったように)が生まれるのだ。
児童文学を書く方は、子ども時代を大切にしている/良くも悪くも強い思い出がある、または、子どもと長く/多く接していて寄り添っている(一緒の目線に立っている)方が多いように思う。
たぶん、そうでないと、書けないのだ。子どもの心にも大人の心にも響く物語は。
感想
この話の舞台はアメリカのカリフォルニア州だ。著者の故郷である。
馴染みの少ない場所だったけれど、どんな所でも旅ができるのが読書の魅力。
主人公は、本や音楽が好きで、いつも、ふらふら歩きをしてしまうロビン。
不安定な状態、落ち着く場所がない、そんな感覚は、私にも覚えがある。
思春期特有、自意識過剰…そんな言葉で片付ける人もいるかもしれないけれど、当時の私にとっては(今でも)深刻な問題だった。
だから、ビロードの部屋を見つけたロビンを羨ましく感じた。
私は読書という逃げ場所はあったけれど、それは物理的に存在する「場所」ではなかったから。
でもやっぱり、ブリジットが言うように、場所よりも、誰と居たいか、それが大事なのかな、とも思う。
結局、「場所」は解決にはならない。
ひとりになりたいのか、誰かと居たいのか…
私はこの歳になって、やっと、自分の気持ちは声に出さないと伝わらないということを知った。
逃げ場所は大事だ。それがないと、心は壊れていただろう。
けれど、新たな展開を迎えた時、その「場所」に留まり続けることと、向き合わなくてはならないのだろう。
後半、また、仕方のない状況で、子どもにはどうしようもない事情にロビンは翻弄されるのかと思ったけれど…
みんなハッピーエンドになって良かった。
なにより、最後にロビンが弟のキャリーに「いっしょに来る?」と、声を掛けたのが意外と一番感動したかもしれない。
いつも一人でふらふら歩いていたロビン。
もう逃げ出す必要がなくなった彼女が、弟にかけた言葉。
ひとりでいることは大切だ。
でも、人間はひとりで居続けることができるわけではない。
それを望んでも、望まなくても。
彼女が変わったのだと、実感した。
※画像は、本書の中から借用しました。
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