【作品紹介】第3回 ストリング・クロス

サークル”白水の小説棚”にて執筆した作品を、インタビュー形式の体裁でご紹介して参ります。

作品紹介第3回は、当サークルの新境地を切り開いた意欲作にして、2019~2020年の2年間の(社会情勢以外の要因による)活動停止の直因ともなった問題作。

同時に、2022年第2回ステキブンゲイ大賞で1次選考を通過。惜しくも2次選考にて最終選考漏れはしましたが、完成度において一定の第3者評価を受けた、当サークルで初の作品ともなりました。

前作ライジングパトスに続いて、再びイラストにみやび氏(梟の栞)をお迎えした、ロマンティック音楽ノベル『ストリング・クロス』です。


そうよ。那岼さんは今、夢の五線譜の上を力いっぱい駆けているわ。那岼さんが夢の道を駆けてゆく姿を見護り、そして最後まで聴き届けるのが、私の望み――叶わないでしょうけどね。きっと。それが私の運命でしょうから。(矢ヶ崎空良)

――これまでの作品とは、大きくテーマや方向性を変えた作品となっています

 そうですね。処女作の『戦天使の伝承詩』(現在は短編集『白水の小説棚 短編バトルファンタジーアーカイブ』に収録)以来の、1人称による作品にもなっています。

 音楽や楽器演奏をテーマにした作品は、長らく書いてみたかったのですが、なかなか技術的な面も含め手を出せずにいたんですね。

 同人作家をはじめて十数年、いろんな作品を書いて技術力もついてきた等もあり、ようやく得た挑戦権を行使させていただきました。

――楽器はいろいろあると思いますが、ヴィオラを選択したのはなぜでしょう? 

 様々な楽器が選択肢としてはありました。

 ピアノとかヴァイオリンとか、メジャーどころの楽器は『戦場のピアニスト』『ピアノの森』『蜜蜂と遠雷』『四月は君の嘘』などなど、パッと思いつくだけでも名作が既に多くあるので、これまであまり触れられてこなかった楽器がいいなと。

 ヴィオラは、ヴァイオリンとチェロの中間的な音域を出す弦楽器なのですが、かなりのマイナー楽器です。

 今上天皇様がたしなまれる、ということで令和になり若干知名度が上がりましたが、その道のプロがなおマイナー楽器と言うので、マイナー楽器にて間違いないと思います(汗)

 中音域で高すぎず低すぎずと、実は魅力ある楽器なので是非と思った感じですね。

――ヴィオラ奏者というとあまり多くないと思いますが、モデル等はいますか? 

 あくまで創作フィクションなので、すべての登場人物のモデルは「実在しない」が作品上の公式設定です。

――登場人物は少なめに抑えられていますね。 

 空良(そら)、那岼(なゆり)、絃英(いとえ)、瑞希(みつき)の4人が名前付き登場人物になりますが、大部分が空良と那岼の物語です。
 空良の1人称なので、どうしてもそうなってしまう、といえばそれまでですが。

 前作『ライジングパトス』でも思いましたが、キャラクターをより深く掘り下げたい、という意図でそうなっています。

 また、演劇やショートムービー、朗読等への素材・原案として活用してもらえるよう、執筆時から考慮して書かれている点では、初めての作品となります。

 そのため、登場人物の人数を押さえてコストを下げている、ということもあります。

 それだけ広く触れていただきたい作品、という気概をもって当初から書かれています。

――お酒についてもキーアイテムですね。

 ひと通り試飲はしています実は。

 クラシックに使われる楽器とお酒って、親和性があるかなと感じます。

 お酒を通じて、場面の雰囲気をコントロールしたり、2人の感情の揺れとかそういうのも表現できたらいいなと。

 なお、作者もついに40の坂に入りましたのもありますが、いまは空良くんや那岼さんほどには呑めないでしょう。

 超酒豪の設定なんで、あの2人は(笑)

――音楽演奏についての表現が短文でシンプルなのも特徴ですか?

 演奏音楽表現については、多くの作品でかなり長大かつ緻密な表現量が割かれています。

 ストリング・クロスでは、楽曲の良さを長文で写生するのは、逆にリズム感を損ねる、という考え方に基づいています。

 そのため楽曲の最大特徴をとらえ、曲のインパクトをストレートに一発で読み手へバチン! と訴える表現方針を採りました。

 なので、短歌的な短い文章で、楽曲については表現されています。

――空良の台詞には、ひとつひとつ粒よりなものもありますね

 作品全体を通じてなのですが、すべての弾き手へ贈る、聴き手からのいたわりや励ましの言葉のようなものも込められています。

 後年に書かれた音楽シリーズ第2作『十字架の翔ばたき』もそうなのですが、"弾き手と聴き手の絆の物語"という大テーマを設けています。

――得意とするアクション要素もねじ込みましたね

 構成上では作品全体の流れを引き締める、という意図でそうなっています。

 ただ、炸薬の音、金属同士が鎬を削る音は、この作品世界にはあまり似合わないだろうな、というのはありました。

 なので、現代作品ながら火器は終盤に一度猟銃が登場するのみです。それも音楽とは直接関係ない場面で、という配慮をしています。

 那岼と彼女の紡ぐ音を守るための空良最後の戦い、という直接的なアクションポイントに着目されがちなのですが、

 空良の心を取り戻すための、そして自身の夢を叶えるための那岼の戦い、というアクションのない静かなる決戦が本作の一番のクライマックスなので、そこも是非注目して欲しいところです。

――さいごに

 とりわけ2020~2022年は、楽器演奏者にとっても、聴き手にとっても極めて厳しい世情となりました。

 ともすれば、弾き手と聴き手の絆に大きな亀裂が生じやすい世界で、より深い意味を持つ作品になるといいかなと思います。

 弾き手と聴き手の絆が崩れることは、推しを失うという意味で、聴き手にとっても生涯の大きな心の傷となる、辛く悲しいことです。

 本作品が、弾き手と聴き手の絆が保たれ、また新しく生まれ、音楽や文学などの芸術が本来もつ、それは人々の心を豊かにし幸せに導くものである、という本質を見失わないための道標となるよう願うばかりです。

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 執筆過程から執筆後に至るまで色々あって、個人的に思い入れの深い作品のひとつです。息の長い作品に育ってくれるといいなと思いますね。
 『ストリング・クロス』は、イベント頒布の他、BOOTHで通販も行っています。
 また、Web版として小説投稿サイト「ステキブンゲイ」さんにも掲載されています。(Web版は扉絵イラストはありません)
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