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ショートエッセイ ~梅こんぶ茶とウーロン茶~

 似て非なる言葉というものは、ときに人を惑わせる。
昼時のディーラー。着席と同時に「お飲み物いかがですか」と感じのよいスタッフに言葉ををかけられた。いかがですかと言われれば、ほとんどの人が飲むと思う。温かい飲み物と冷たい飲み物の一覧が書かれたメニュー表。その表の右上、吹き出しのポップに書かれた夏限定ドリンクの、ラムネとピンクグレープフルーツジュースが一際目を引いた。けれど、そんな洒落た飲み物がかすんでしまうくらい、ある1つのワードが私の心をつかんだ。それは、温かい飲み物一覧の終わりに書かれてあった。「梅こんぶ茶」である。どうしてディーラーで梅こんぶ茶が飲めるんだろうか。梅こんぶ茶はマイナーな飲み物で、ファミレスに行っても頼めないような代物である。教習所のドリンクコーナーでも置いてあったが、やはり密かに人気を集めているのだろうか。色々な思いが頭を駆け巡った。こみ上げる喜びと、少しの恥ずかしさを胸に混在させながら、私は言った。「梅こんぶ茶をお願いします」と。それからスタッフさんに少し微笑みかけ、照れくささを表してみた。

 少したった後、飲み物とお菓子が運ばれてきた。見ると、カップのなかに茶色の液体と一緒にいくつかの氷が入っている。「?」 理由を考え、最終的に次のような考えに至った。(暑い日だから気を利かせて氷を入れてくださったんだ。温かいままでよかったんだけど、冷たい梅こんぶ茶ってどうなんだ??) その後は特に疑問をもつことはなかったが、スタッフさんが熱心に車について説明してくれるので、なかなか飲み物を口にする機会がつかめないでいた。結局一度も口にすることのないまま、試乗するため店外に出た。  
 熱いなか外にいるのは、やはり喉が渇く。しばらくして店内にもどり、ようやく飲み物をいただくことができた。が、口にしてすぐに、身体に電流が走ったような衝撃を受けた。舌の上に広がったそれは、紛れもなくウーロン茶だったのである。メニュー表に急いで目をやると、冷たい飲み物の最後に確かに「ウーロン茶」の文字があった。氷が入っていたことも納得である。梅こんぶ茶とウーロン茶。最初と最後は同じである。マスク越しの会話が生んだ小さな誤解であった。

 恥じらいをもつことも時には大事かもしれない。しかし、自分が梅こんぶ茶が好きだという気持ちにもっと自信と誇りを持つべきだったと思う。自分の意志を正しく相手に伝える大切さを身に染みて感じた。次からはきっと、堂々と言いたい。「梅こんぶ茶、お願いします。」と。

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