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【恋愛小説】 恋しい彼の忘れ方⑩

「恋しい彼の忘れ方」 第10話 -法則-

私は、マリさんに話してみようと口を開いた。勿論、大輝への想いだ。今回の海東くんのお陰で、「恋愛への罪悪感」は薄らいだが、まだ私は大輝への想いを抱いており、それをどこに向かわせたらよいかが分からなかった──。

マリさんは、私の話を聞くと、神妙な面持ちでこう言った。

「葵ちゃん、"因果応報"って知ってる?"原因と結果の法則"とも言う。
火遊びしたいなら、してもいいけど。その結果は、受け入れないといけないの。」  

私は、大輝を自分のものにしたいとか、身体の関係になりたいとかは思っていない、心で繋がりたかった、と告げた。

「感情で繋がっていると、心地いいものね。
葵ちゃん。これは知っておいて。
"全ての現実は、自分が創っている"のよ。」

「自分が?」

「そう。最初は、漫画家の彼と会う時は、"学びたい"とか、"楽しい"っていうエネルギーだった。でも、無意識に、"淋しさ"を埋めて欲しいっていう自分の心が、"淋しさ"を埋めて欲しい人を引き寄せるの。
そして、一緒にいると、満たされる錯覚をする。」

「私が、大輝を引き寄せた?」

「葵ちゃんが、"して欲しい"、心で繋がりたいっていうのをもっていると、繋がれない人が来るのよ。
それで、あーやっぱり繋がれなかった、チャンチャン。っていう自作自演をしてる。」

ん?と首を傾げて宙を見ている私に、マリさんは続けた。

「自分自身がね、満たされている、大切にされているって常に意識できていたら、お互い尊重できる人が来るの。
それが、親から愛を貰えないと不足感を感じて、枯渇していたら、愛を貰える所を探す。」

「じゃぁ、大輝は……。」

「うん、淋しかったんだろうね。
 でもね、どうしていつも自分は……って、自分責めに走らなくていいの。自分がどこかで埋められない淋しさを、"外に"求めようとしてきたのかな、って思うの。
彼は、"自分を大事にしてよ"って、自分の状態を教えてくれる人。感謝の存在なのよ。」


大輝が、私の状態を教えてくれた人……?
相手を見て、感情を感じて、「私はこういう事を思っている人なんだ」って気付くことが大切なの……?
そうだ、私は子どもの頃から、「お前はできないと言われた」とか、ショックなことだけを見て、それを私が勝手に握りしめていた。私には「ない」と不足感を感じていた。
そして、相手を求めて、でも満たされなくて、また「私はダメ」って思って……。そのループだった。

そうだ、賢人にこの前言われたこと。
「ハァ〜またジャガイモの芽出てるよ。」
それを聞いた時、心にグサッと刺さった。
そんなこと言わなくていいじゃん。って。
それを言われた瞬間、私は"自分が管理できてない"、"それはダメ"と思った。自分に対して、「バツ」を付けて、「ダメ」って言い聞かせてたんだな……。この思いを手放すために、賢人が見せてくれていたのか。
私は、「自分がダメな世界」に生きようとしていた……。

私はこの出来事をマリさんに話すと、
「そうよ。本当は、"ジャガイモの芽を生やす葵可愛い♡"と思ってたかもしれないし、"俺が美味しい料理作ってあげる"ってなる世界にいくかもしれないし。全て、自分が自分の世界を創るの。
葵ちゃんは、どんな世界を生きたいの?」

「私は……。」

私は直ぐには言葉に出せなかった。でもなんとなく、優しい世界、みんなが等しく笑う世界がいいな、と感じた。


「自分が満たされて、いい状態でいると、win-winな人が来るわ。
だからこそ、私は"美味しい食事"で波動を上げておくの。
そしてね……葵ちゃん、貴方は過去の私よ。」

「過去の……マリさん?」

「そう、自分の目の前には、"過去の自分"が現れる。私もね、恋愛で傷ついたことがあるの。」

「……え?マリさんも?」

「そう。だから、わかる。」

「葵ちゃんが、心を受け入れて欲しいって気持ちをもったこと。
でも、彼だって傷ついたと思うよ?彼は身体で繋がりたかったのに、受け入れてもらえなかった。傷ついたし、恥ずかしさもあったと思うよ?自分責めに走ってるかもしれない。」

「そうなの……?」

「それをね、葵ちゃんが、去っていった人を、また追っかけて。またお互い一方通行で、ショックを受けて。自責して。それでははエネルギーは循環しない。
彼に、"感謝"するの。彼にじゃなく、天に返す。"自分を大事にしてなかった。ありがとう"と念じる。そうしたら、彼も、本当の意味で昇華されるわ。」

「はい……。」

「葵ちゃんが、いい状態の時に、縁があれば、また会えるはず。
二人で会う時まで、マイナスじゃなく、0になっておくのよ。」

"また会えるはず"、その言葉を聞いた瞬間、涙がボタボタと溢れてきた。
また、会いたい……。
大輝も、お母さんがいなくて、淋しい思いをしてた。大輝も、愛する人と距離ができちゃって淋しい思いをしてた。
でも今の私では、大輝に会っても、何もあげられないんだ……。

マリさんの言葉に、ただただ泣きながら頷くことしか出来なかった。


「相手の為に、自分を責めない自分になっておく。傷に対して、愛で送る。傷にマスタード塗りたくるんじゃなくて。
彼はね、葵ちゃんの応援隊なの。"漫画"っていう、エネルギーを与えてくれたお役目だったのよ。」

「悲しかった、淋しかった、実らない恋愛。過去世からね、繰り返してるんじゃないかな。"私は愛されない"を立証させようとしてる。
泣きたくないなら、"ごめんなさい、間違った"、"教えてくれた彼にありがとう"って想うの。そしたらね、彼も、別な世界で流れに乗っていくから。」 


まだ止め処なく悲しみの涙を流す私に、マリさんは教えてくれた。
「人は、美しい感情を感じたくて生まれて来ている」こと。「反応する人は、過去世などでご縁がある人」だということ。

私は、「苦しいよ」を、ずっと言っていた。
「ありがとう」を、世の中に言えなかった。
バランスが崩れていた。
それを、大輝が教えてくれていた。
悲しかった。辛かった。苦しかった──。


「彼との出会いも、楽しみだったんだね。」

このマリさんの言葉に、魂が黄色に輝いたかのように感じた──。
そう、私は、大輝に会うのを楽しみにしていた。
過去世のことか、今のことなのか、境界線が全く分からないけれど、本当に彼と出会うのを楽しみにしていた──。それは、紛れもなく、自分の正直な心だった。 
大輝は、私の人生に、「華」を添えてくれた、大切な人──。


「葵ちゃん。貴方は、"幸せ"な気分を、もっと味わっていいんだよ。ぽーっとして、満たされた、落ち着いた気分を。
校長先生見習ってね!その気分が板についたら、食に学んで。」

「大丈夫、泣いた分、必ず幸せになる。光に変わるから。
誰も、貴方をダメと言ってないよ。言ってるのは貴方。こういう思考をもってるんだな、って気付くだけでいいの。そして、早く自分の思考癖を救ってあげる。そしたら、楽しい世界に行けるわ。」


私は、マリさんと約束した。
ちゃんと自分を褒めること。そして、出会った人から、何を学んだかを整理し、感謝すること。
この出会いで、一体"何を学びなさい"と言われたのかを可視化すると、脳から出ていき、空いたスペースに、また新しく楽しいことがやってくるらしい。


「葵ちゃん、ドラッグストアで、"誰も傷つけないスポンジ"っていう商品を見かけて、私はそうしたかったんだ、って気付いたと言ってたじゃない?」

「はい。」

「それね、ちゃんとキャッチできてるのよ。もう、"自分を"傷つけないと思って。
これからの人生、"褒めること"と"感謝"に重点を置くの。
"自分を大切にすること"が大切だったことに、気付かせてくれてありがとうって。
自分の人生の大切な1ページ、だね。」

「はい。大切にします。」


私は、この出会いが、悲しい出会いなどではなく、人生の華、彩りであったと気付いた。
それは、ずっとずっと、生まれる前から楽しみにしていたのかもしれないし、それは確実にはわからないけれど、その出会いが、宇宙からのギフトだった、と心から思えた。

私は、自分が、自分の1番の親友になる。今まで、嫌っていて、ごめんね。大切にしてあげられなくて、ごめんね。

私の人生、大切な人との出会いがいっぱいあった。
ちゃんと、花を添えて、大切に包んであげたい──。

「葵ちゃん、今度、アートセラピーを受けてみない?私の友達で、やってる人がいてね。ちょうど葵ちゃんもアーティストになるっていうから、ちょっと紹介したくなって♪」


私は、強く頷いた。


第11話 決意







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