朝5時、お湯の中
家のどこからか冷え込んだ風が勝手に押しかけてくる。
まるで有無を言わせない宗教の勧誘である。
気がつけば部屋に居座り、向暑はるが作った熱々のコーンスープから出る湯気を全て食べてしまった。
残ったのは熱くもない冷めてもいない生ぬるいコーンスープである。
どうにかして体を温めたいと思ったので、光熱費なんぞクソ喰らえと思いながら、お風呂の蛇口を捻った。
そんな朝5時。
蛇口から出るお湯は素手では触れないほど高温で、好奇心から一瞬触れた人差し指は数分間ヒリヒリしていた。
まるで実家のお風呂に似ている。
そこに1割程度の水を入れた。
右足を入れるとそこがなんだか痒くなり、次に入れた左足も痒くなる。
ゆっくり入ろうとカタツムリくらいのペースで膝を曲げるけど、お湯に浸る箇所は全て痒くなる。
背中の痒さはちょっとだけイライラしたりもする。
風情である。
そんな実家のような感覚を持ちながら、ジップロックに入れたスマホで映画を見ていた。
これは実家ではできなかった。
生涯2回目のグレイテストショーマンを見ながら、鼻歌を歌うと綺麗に音が反響して自分の歌に自惚れたりした。
気がつけば、体のありとあらゆる汗腺から汗が出てきて、ここからが勝負と訳のわからない対抗心で戦うのが男の変なところである。
15分。
30分。
60分。
のぼせていた。
手や足の指先はふにゃふにゃになっていて、今にも皮が剥がれそうである。
映画はアツアツなシーンの最中だったから余計のぼせた。
ゆっくりと桶から出て、水いっぱいのシャワーを浴びる。
これを気持ちいいと言うくらい大人になった。
お風呂の扉を開けると、そこには1時間前までいた”宗教の勧誘”はいなくなっており、むしろ向暑はるの体からそれを弾き飛ばすくらいの湯気が出ていた。
リビングに残していた冷たいコーンスープを飲んだ。
今はこれがちょうどいい。
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