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燃焼っぷりの激しいふたり|47キャラバン#15@香川

東日本大震災をきっかけに、食べものつきの情報誌「食べる通信」を創刊し、生産者と直接やり取りをしながら旬の食材を買えるプラットフォーム「ポケットマルシェ」を立ち上げた高橋博之さん。東日本大震災から10年の節目を迎える来年の3.11に向けて、改めて人間とは何かを問うために47都道府県を行脚する「REIWA47キャラバン」を開催している。
先日、高橋さんの車座座談会でご縁があって、ポケットマルシェのみなさんとREIWA47キャラバン(香川、愛媛、広島)に同行させていただいた。このnoteは私がそこで見たもの、感じたものを綴っている。
(※高橋さんは毎週月〜土曜日の朝6〜8時にオンラインで車座座談会を開催している。農家や漁師、食農に関心のある消費者や学生などが10人ほど集い、食や農業、気候変動、生死、幸せなど、人間と自然が離れすぎてしまった現代社会やこれからの社会についていろんな話をする場となっている。高橋さんのTwitterにリプライかDMを送れば参加できるので興味のある方はぜひ。)

民家裏の讃岐うどん

香川に到着して早々、和想農園の谷さんが連れてってくださったのは、谷さんが小さい頃から通っていたうどん屋さん。民家と民家の隙間が入り口になっていて、え?こんなところにって場所にあった。うどんは素朴な味で、おいしくて、みんなしておかわりした。

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退路を断って、前に進む

腹ごしらえも済んだので谷さんのブロッコリー畑へ。脱サラ後就農3年目の谷さん、最初どんな感じではじめたのかという高橋さんの投げかけに、役所に飛び込みの電話かけたんすよ、と。えっほんとに電話したの?とちょっと戸惑う高橋さんにはお構いなく、そうですそうです、と続ける。農業やるって決めて、役所に電話して、どうすればいいですかって聞いて。いやいやそんな甘い世界じゃないからって全力で止められて、でも決めたんで、教えてくださいよ、と。なんかすごい人だな、、、しかも就農の準備万端で脱サラではなく、とりあえず辞めたという。

「最初の一歩ってすごい怖いんすよ、でもどうやったら行けるかって言ったら、後ろなくして追い込むしかない。僕は心が弱い人間やから、楽な道があったら逃げてくのわかっとったけん。」

1人漫才してるみたいなテンポで、あっさりそんなことを言われて、驚きを通り越してどっと笑いがはじけた。谷さんは自分の人生をすごく楽しそうに語る。

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燃焼度合いに幸せを感じる

でも前からずっとそうだったわけじゃないみたい。なんで脱サラしたのかという問いかけに、生きている感じがしなくなったから、と谷さん。

「そこそこ安定した収入もあって、結婚もして、マイホームも買って、側から見たら幸せな状態なのは間違いないんやけど、なんやろこの空っぽ感、みたいな。虚しくて、生きてる感じないぞ、みたいな。自分は安定じゃなくて燃焼度合いに幸せを感じる。世間一般の望むものは手に入れたけど、そこに幸せはなかった。だから40歳になってもういっぺんぶち壊そう思った。」

かっこいいっすねぇ!谷さん、と高橋さん。うん、めちゃかっこいい。。。

ただ、失うものもあったよう。就農後にしばらくして離婚、通い農業は難しくマイホームも手放したという。でも、軽くなったんじゃない?身も心も、と聞かれて谷さんはうなずく。

なんか違う、このままじゃまずいと思った時に、立ち止まるには勇気がいる。過去の自分を否定することになるかもしれない、今まで得てきたものを失うかもしれない、という痛みや怖さとも向き合わなければならない。
なんもないけど、ない俺だってやってるんやってことを発信したい、と語る谷さんが生き生きと眩しく見えるのは、そういう痛みや怖さも受け入れて一歩踏み出したからなのかもしれない。1人で3haもやってると聞いたときはびっくりしたけど、こんだけ毎日を「生きている」からできちゃうのかもしれないと思わせる燃焼っぷりだった。

一人じゃ歩けないことを、一人で立って気づく

谷さんからはいろんな名言が飛び出てくるけど最後にもう一つ。「和想農園〜あなたと繋がれた想いを形に〜」の名前の由来を聞かれ、谷「和洋」の「想い」で会社をたてたということと、「調和」の意味を語ってくれた。

「自分でやってみて強く感じるのは、自分は一人で立ってみよるけど、一人では歩けん。JAさんとか販売してくれる人とか、誰かと繋がって助けてもらって歩いてかなあかんなって。だからあなたと繋がれた想いを形にって農園のサブタイトルにもつけてる。」

何も考えなくても生きられる、何も不自由してない、でも生きている感じがしない。そういう人がたくさんいる。何も考えなくても生きられてしまうのは、自分の意識の外でそうさせてくれている人の存在があるから。高橋さんはwell-beingの土台は良質な人間関係だという。自分を生かしてくれるものの存在を認識して良い関係を築くことが、生きる実感や幸福につながるのかもしれない。

「1つの扉が閉まれば必ず次の別の扉が出てくる。若い方には、迷った時には、そこを意識して進んで。」と、最後にすてきなメッセージをいただいた。

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農業・農村は重要であり、大切である

谷さんの人生についてたっぷりうかがった後は、REIWA47キャラバン香川の会場、サンポートホール高松へ。オンラインの車座には何度か参加していたけれど、直接高橋さんのお話を聞くのは今年の1月に東大で講演してくださったとき以来だった。そのときにすごく考えさせられた話がここでも再び出た。

ある学生にこんなことを言われたそう。
日本が生き残るためにはシンガポールみたいな都市国家になるしかない。農村は捨てて、みんなで都市に集まって暮らす。得意な工業製品を輸出して、かわりに農産物を輸入する。そうすれば比較優位でwin-winだと。
彼に悪気は全くなく、本気で国のことを考えた結果だという。彼になんと説明するか。農業とか農村をどうやって分かってもらうか。

そのとき私は自分なりの答えが出せなかった。農業・農村には多面的機能があって…みたいなこととかいろいろ考えたけど、日本から農業・農村がなくなるなんて嫌、嫌なもんは嫌、それ以上説明とかないわ、というのが正直なところだった。行けばわかるのになぁ。まあでもそれじゃ答えになってない、と思って宿題にした。

それからしばらくしてコロナが拡大。小麦とかの輸出規制を行う国が出てきて、自給率の低いシンガポールは食料安全保障に強い危機感を抱いている、みたいな話を聞いた。あ、これだわ。リアルな答えが1つ見つかったと思って高橋さんにこう返していた。

とはいうものの完全に納得のいく答えではなく、その後もずっと宿題を抱えていた。でも最近ちょっと答えが見えてきた気がする。

この間、大学の授業で大切と重要の違いについて議論した。
大切は主観的。個人的。対象との距離が近い。大切であることには理由がいらない。大切であることはなんらかの行為の目的/理由になる。
重要は客観的。一般的。対象との距離が遠い。重要であることには理由がいる。なんらかの行為の手段になるから重要である。
そんな感じがするよね、という話だった。

私は話しながら農業・農村のことを考えていた。農業・農村は大切か、重要か。大切というと全国各地で出会った農家さんや風景が思い浮ぶし、重要というと食料供給とか多面的機能が浮んだ。

農業・農村の重要性はおそらくずっと言われてきているはずなのに、衰退していっている。なぜか。おそらく重要性は比較される。手段だから。そしてそれは多くの場合お金が物差しとなる。

私は今、農業経済を勉強していて、農業・農村の多面的機能を金銭的に評価する研究をしている。やっていて思うのは、本当にこれで農業・農村の価値を十分に評価することができるんだろうか、ということ。複雑な現実を単純化することで現実への理解を深める経済学では、見落としてしまっているものがたくさんある気がする。農業・農村の価値を示す一つの材料にはなるかもしれないけど、きっとこれだけでは決まらない。

重要性だけじゃ足りない。農業・農村を大切だって思う人がいないと、農業・農村は残っていかないんじゃないか。そんな気がしてきた。

よくよく考えたら高橋さんのお話の中にもすでに答えはあった。

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「昔は都会は田舎者の集まり、霞ヶ関も田舎者の集まりだった。でも今は、首都圏生まれの首都圏育ちが増えて首都圏の大学はローカル大学になった。そしていずれ国を動かす人たちも首都圏出身者ばかりになる。そうなると地方の人が陳情に行っても意味が伝わらない。地方のイメージは、自然豊かでのんびりしてて、という感じかもしれない。でも実際はいろいろある。自然には厳しさだってある。それが伝わらない。都会の人は地方が理解できなくなる。
この分断を、食べものを通して乗り越える。食べもので生産者と消費者がつながる。いただきます。ごちそうさまでした。ありがとう。食べものを通してそんな会話を積み重ねるうちに、何かあったら心配するような関係になる。そんな関係性を育むことが、お互いを理解することにつながる。

重要性は頭で理解できるかもしれない。でも大切だってことは、心が動かないと、心で感じないと、わからない
生産者と消費者。都市と地方。両者の関係性が育まれることで、お互いを大切に思い、大切にする。そういうことなんだと思う。

オンラインとは比べものにならない言葉のエネルギーを全身で感じた2時間だった。谷さんも高橋さんも、なかなかの燃焼っぷりで、火傷しそうだった笑

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各種リンク

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▼これまでのキャラバンの様子はこちら


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