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【試し読み】認知症治療の名医が実践。食事を変えれば、脳は若返る! :『脳のスペックを最大化する食事』広川慶裕著


『アレ、アレ…なんだっけ?』簡単な固有名詞が出てこないのは、
脳の老化現象〈アレアレ症候群〉かもしれません――。
記憶力、集中力、判断力を向上させてキレキレな頭を取り戻す、
認知症治療の名医が実践する「頭が良くなる栄養プログラム」!


〈プロローグ〉

食事を変えれば、脳のスペックを最大化できる


 この本を手に取ったみなさんのなかで、〈アレアレ症候群〉という言葉を耳にしたことがある方はいらっしゃるでしょうか。以下で挙げるような例にひとつでも思い当たることがあったら、それは脳の老化現象〈アレアレ症候群〉かもしれません。
 
・好きだった映画のタイトルがどうしても思い出せない
・取引先の担当者の名前を突然忘れてしまった
・3日前に食べた夕食のメニューがまったく思い出せない
・「アレ、アレ……なんだっけ?」簡単な固有名詞が出てこない

 
 ふだん生活しているなかで、こうした「もの忘れ」「ど忘れ」の経験をしたことがある人は、けっして少なくはないでしょう。早い人であれば30代からその症状が始まるとされる〈アレアレ症候群〉ですが、これ自体は病気でもなんでもなく、加齢にともなって人間の脳が老化したあらわれであり、誰にでも起こりうる、ごく自然な現象です。しかし、もの忘れといっても程度問題があります。
 あまりにももの忘れの頻度がひどい場合は、軽度認知障害(MCI)や、より深刻な症状である若年性認知症、あるいはアルツハイマー型認知症に向かっている過程の可能性も考えられます。単純なもの忘れだからといって、その状態を放置しておくことは、脳の老化に対してなにも手を打たずに過ごすということになります。
 そう、ヒトの脳は老化するのです。
 私は大阪府出身の精神科医です。京都の大学を出たこともあり、京都府の宇治市で軽度認知障害MCIや認知症の予防や治療を積極的に行っている「ひろかわクリニック」を開院しています。MCIや認知症予防を積極的に行うクリニックは全国的にも珍しく、全国各地からもの忘れを心配する患者さんが来院され、現在、当クリニックを受診している患者さんは約3500人。1日に約60人、年間にすると延べ1万8000人ほどの患者さんを診察しています。今までに診察した患者さんを合計すると、おそらく
10万人を超えるでしょう。
 これまで数多くの認知症の患者さんを診てきました。「どうにかして症状を好転させたい」と治療に奮闘すると同時に、「そもそもヒトはなぜ認知症になるのか」「認知症発症のメカニズムがわかれば、認知症予防ができるのではないか」といった疑問を、いつも自分に投げかけてきました。そして、「ヒトの脳は、なぜ老いるのか」「老化してしまう脳と、いつまでも若さを保ち続ける脳の違いはなにか」こそが、私の精神科医としてのもっとも大きなテーマとなったのです。
「認知症は遺伝だ」と言う人がいます。もし本当にそうだとしたら、ボケ症状はあらがうことのできない自然現象で、治療も予防も行うことができない病気だということになります。
 もちろん認知症になってしまう患者さんのなかには、遺伝的な理由から発症する方がいることも否定しません。しかし私は、先天的な理由で認知症になる方は全体の10%程度で、残りの90%は、後天的な理由で認知症になってしまうと考えています。
 

老化の進行が早い人、いつまでも若々しくいられる人


 たとえば同じ年齢でも、いつまでも若々しい見た目を保つ人もいれば、実年齢以上に老け込んでしまう人もいます(同窓会に出席したりすると、その差を歴然と感じることがあります)。遺伝子の近い兄弟姉妹の間ですら、その違いが生まれることがありますから、老化とは、その人の置かれている環境など、後天的な要素がおおいに関係すると考えるのが自然でしょう。
 もちろんこれは、シワや肌のくすみなど、見た目だけの話ではありません。そして、まさに脳の老化にも、大きな個人差が生じます。認知症の発症も、普段の食生活など、後天的な環境要因にかなり左右されるのです。
 認知症が遺伝ではなく、その大半が後天的な理由によるものなのであれば、なんらかの手を打つことでほとんどの認知症を防ぐことができるはずです。認知症とは、脳の老化が進んで、脳の機能が低下してしまった状態のこと。最初は誰にでも起こりうる程度の「もの忘れ」が、「ボケ症状」と呼ばれるまで脳機能が老け込んでしまうのです。ではなぜ、ヒトの脳は(あるいはヒトのカラダは)老化するのでしょうか。
 

脳の老化は、食事の質が左右する


 それを突き詰めていくうちに、私は「脳のエネルギー不足が、脳を老化させるひとつの要因なのではないか」という考えに思い至りました。脳が必要とするエネルギーが十分に供給されていない、それがボケの原因のひとつなのではないか。そう考えると、認知症発症のメカニズムについて、さまざまなことの説明がついたのです。
 英語のことわざに、“You are what you eat.“というものがあります。直訳すれば、「あなたは、あなたが食べたものでできている」。つまり、あなたの脳とカラダは、あなたが今までにどんなものを食べてきたのか、どんな食生活を送ってきたのか、どんな栄養状態に自分を置いてきたのかのあらわれなのです。
 人間は、食事によってエネルギーを体内に取り入れています。ごく当たり前の真理ではありますが、カラダにいいものを食べていれば、健康なカラダが作られます。偏った食事を取っていれば、体内の栄養状態に歪ゆがみが生じ、脳やカラダに悪い影響があるでしょう。ヒトのカラダは絶えず新陳代謝して、細胞が入れ替わっているからです。
 脳が必要としている良質なエネルギーを食事から得られなければ、脳の健全な代謝は進まず、老化します。すなわち、脳の機能が低下してしまうのです。
 

脳の機能を向上させると、人生の幸福度もアップする


 本書では、長年の臨床例と研究、そして現代医学やアカデミズムの大きな知見をもとに、「脳のスペックを最大化するためにはどうすればいいのか」をお話しします。
 とくに、脳のスペックを最大化するための食事について。具体的には、米やパン、麺類などの主食(炭水化物)を控える「糖質制限食」と、良質のアブラ(脂質)とタンパク質中心の食事にする「ケトン体食」の有効性について、解説します。
 糖質制限食は、多くの人にとって大きなハードルになるかもしれません。糖質制限をおすすめすると、おそらくこういう反論があるだろうからです。いわく、日本人は長年、米を食べてきた。食事は主食と肉、魚と野菜をバランス良く食べることが大切。米やパンといった主食を制限するなど、学校で習った健康常識から外れている。それに、アブラを積極的に取るなんて言語道断。そんなことをしたら、体脂肪が増えるばかりだろう。そう思うのも、よくわかります。しかし、糖質制限食に大きなベネフィットがあることは、私の実体験にも基づいています。
 私自身、実際に糖質制限を試してみると、まず明らかに食事後の眠気を感じなくなり、それどころか頭がクリアな状態が以前より長時間、続くようになりました。また、なんとなく感じていた不調(カラダのだるさや、朝の起きづらさなど)も改善し、生活習慣病に関する血液検査の数値はみるみる改善しました。
 食事を見直したことで、脳もカラダも非常に良好な状態で過ごせるようになったのです。
 糖質制限食やケトン体食がヒトの脳やカラダにとって多くのメリットがあるということには、医学的、科学的なエビデンスもあります。
 一般常識からは外れて見えがちな糖質制限食ですが、数多くの研究や実例によって、むしろ脳やカラダの機能を高める効果があるということが実証されているのです。そろそろ、最新の科学的な知見をもとに、食についての考え方をアップデートするべきではないでしょうか。
 この本では、糖質制限にまつわる誤解を解消してもらいながら、なぜ糖質制限やケトン体食が脳のスペックを最大化するために有効なのかをご紹介していきたいと思います。
 この本の内容を実践すると、明らかに脳のスペックが最大化され、思考がスピードアップし、アイディアがみなぎり、記憶力や集中力が高まり、安定したメンタルと的確な判断力が持てるようになることを体感できるはずです。
 とはいえ、糖質制限とケトン体食の良さを頭では理解しても、実際には大変な困難が生じるものです。糖質を減らそうと決心し、いざ実践してみようとすると、飲食店などで提供されるメニューのほとんどが糖質過多だということに気づくことでしょう。
 コンビニではおにぎりやパンを買う、外食ならファストフードや立ち食いそば、パスタを食べる、というのが一般的でしょう。ご飯もパンも麺類も、そのほとんどが糖質メインの食材。糖質制限を始めると、最初は食べられるものを見つけるだけでひと苦労です。しかし、本書で人間の代謝の機序を知ったうえで、ぜひこの食事法を実践してみてほしいのです。実際に食事を変えてみると、あきらかに脳の機能が圧倒的に高まることが体感でき、続ける意欲も湧いてくるでしょう。私は、その背中を押す一助になりたいと考えています。
 脳の機能が高まると、たとえば仕事の効率と質が向上して、会社での評価が高まるでしょう。もしかすると、それによって昇給や昇進などにつながるかもしれません。
 働き盛りで仕事の効率を高めたい人はもちろん、もの忘れが気になり、脳の老化をストップさせたい人や、あるいは志望校合格に向けて受験勉強をしている人など、判断力や記憶力、集中力などを高め、いつも頭の状態をキレキレにしたい人であれば、ぜひ本書の内容を実践してみてほしいと思います。
 また、脳機能が高まると共感能力の高まりや精神的な安定がもたらされ、コミュニケーション能力も向上します。結果として、気分の落ち込みや不眠、イライラなどの抑うつ症状の予防など、メンタル面でもさまざまなベネフィットが得られます。
 ご自身のQOL(Quality of Life)を向上させ、人生の本質的な幸福度を高めたいと考えている人も、ぜひご一読いただければ幸いです。


〈第1章 なぜ、頭は悪くなってしまうのか〉

1.頭が悪くなってしまう最大の原因は「食事」と「生活習慣」


 この本を読み始めたあなたに、まず質問してみたいことがあります。そもそも「頭が悪くなっている状態」というのは、どんな状態を指すと思いますか?
 もし私が同じことを聞かれたら、医学的には次の2つの状態であると答えます。

・脳の「機能」に問題がある
・脳の「栄養」が足りていない

 1つめの脳の「機能」の問題からお話ししてみましょう。人間は脳の機能になんらかの問題が起きると、脳を上手に使うことができなくなってしまいます。人間の脳の神経細胞は、加齢によって萎縮していくもの。ですから、脳機能の劣化や老化じたいは誰にでも起こりうることです。しかし、加齢といっても、誰もが同じように老け込むわけではなく、もちろん個人差があります。脳梗塞などがきっかけとなって脳機能の一部が失われてしまうケースは別として、加齢による脳機能の低下であれば、日常的な食事や生活習慣などに気をつけることで、かなり遅らせることができます。
 じつは、それが2つめの理由である脳の「栄養」の問題にかかわってきます。脳の栄養状態は、脳の機能にダイレクトに影響します。つまり、脳に十分な栄養を行き渡らせることで、脳の機能を本来のキレキレな状態にキープすることができるのです。その逆に、脳内の栄養が足りていないと、脳の機能低下が引き起こされてしまうことになります。
 

脳の栄養が足りていないと、脳は本来のスペックを発揮できない


 では、「脳に栄養が足りていない状態」とは、具体的にどんな状態を指すのでしょうか。医学的な視点からすると、おおまかに次の2つの状態に分けることができます。

・脳内の血液中の栄養がそもそも不十分である
・脳内の血管に問題があって、栄養が隅々にまで届いていない

 「脳内の血液中の栄養が不十分な状態」は、食事から必要な栄養が摂取できていないことで引き起こされます。食事の量そのものが少なかったり、ふつうの食生活を送っているつもりでも、摂取している栄養が偏っていたり、あるいは人間が本来取るべき栄養が取れていないと、脳内はとうぜん、栄養失調の状態になってしまいます。
 アンバランスな食習慣や、間違った方法でダイエットを行ったりすると、脳に必要な栄養を与えられなくなってしまうのです。また、栄養を脳の隅々まで運んでくれる役割を担う血管がボロボロな状態でも、脳に必要な栄養を行き渡らせることができなくなります。
 私はこの本でみなさんに、脳にとってどんな栄養がどれだけ必要なのか、そして良質な栄養を十分に脳に行き渡らせてあげると、脳がどれだけ本来のスペックを発揮できるようになるのか、お話ししたいと思います。
 

あなたは「脳の栄養失調」になっていないか


 「もしかしたら、食事の質や、栄養のバランスが偏っているかも……」という自覚がある人はまだ大丈夫なのですが、その自覚がない人は、とくに注意が必要です。食事の栄養バランスに問題がある人にとにかく多いのが、「糖質を取りすぎている」というケース。私が診てきた患者さんにも非常に多いタイプなのですが、栄養バランスのことをまったく考えず、漫然と空腹を満たすことが習慣になっている人は、なぜか米や麺類、パンといった主食ばかり食べてしまっているという傾向があります。
 みなさんのなかでも、うどんやパン、インスタントラーメンなどの炭水化物中心の食事に偏っている人はいませんか? 炭水化物とは、糖質+食物繊維のこと。炭水化物だけでお腹を満たしてしまうと、タンパク質や脂質(アブラ)、ビタミンやミネラルなどの栄養素が不足してしまい、カラダの中が糖質過多な状態になってしまいます。
 ほかにも、甘いものが大好物で、砂糖や糖類を食べすぎている人もいます。食後や間食にケーキや和菓子などの甘いものをダラダラ食いしてしまい、結果として過剰な量の糖質を取っているのです。
 糖質の過剰摂取がなぜ脳にとって良くないのか、のちほど本書で説明いたしますが、もし最近、「なんだか頭の回転が鈍いな」「もの忘れが多くなった」と感じているようであれば、まずご自身の普段の食生活がどうなっているか、ぜひ検討してみてほしいのです。
 とうぜんながら、食事や生活習慣、栄養バランスに偏りがあると、脳の血液中の栄養状態も同じようにアンバランスなものになっています。
 また糖質の過剰摂取だけでなく、質の悪いアブラ(質の悪い脂質)の摂取が多すぎても、全身の炎症を増やしてしまい、余分な体内物質が血管に沈着する原因となります。脳の血管に余計なゴミが溜た まったり、脳の血管そのものがボロボロになってしなやかさを失ったりすると、とうぜんながら十分な栄養が脳に届きません。
 もちろん、喫煙や過度な飲酒、運動不足、睡眠不足、偏った食生活などの不健康な生活習慣も、脳の血管をボロボロにします。こうした不健康な生活習慣を送ることで、動脈硬化や毛細血管の機能不全、血管へのコレステロールの沈着などが引き起こされ、血管を通じて届けられるべき十分な栄養が、脳の隅々まで行き渡らなくなってしまうのです。
 

頭を悪くする生活習慣=不規則な生活と睡眠不足


 では次に「頭を悪くする生活習慣」とはどのようなものなのか、具体的に考えてみましょう。ここでいう生活習慣というのは、主に「生活のリズム」のことだとイメージしてみてください。何時に起きて、何時から何時まで働いて、何時に寝て、起きている間に何回、食事を取ったのか、といったことです。
 頭を悪くする生活習慣とは、「人間本来の概日がいじつ リズムからズレた生活」だと言い換えられます。概日リズム(サーカディアンリズムとも呼ばれています)とは、朝昼晩と、太陽の動きに合わせた生活のリズムのこと。「体内時計」という言葉をご存じの方も多いと思いますが、私たちのカラダは太陽光の明暗周期と同期しているのです。
 夜になったら眠くなり、朝が来たら目覚める。体温やホルモン分泌なども、この概日リズムに合わせて1日の間で規則正しく変化しています。こうした自然なリズムからズレた生活を送ることが、なぜ脳にとって良くないのでしょうか。
 

概日リズム(サーカディアンリズム)と脳内ホルモンの関係


 例として、脳内のホルモンについてお話をしてみましょう。人間は、自然と眠くなる時間である夜の
11時をピークに、睡眠導入の働きを持つ「メラトニン」というホルモンを脳内で分泌しています。そして徐々に夜が深まり、やがて朝が来て、太陽が姿を現します。朝の自然光を浴びると、体内で分泌されていたメラトニンが収まっていき、かわりに「セロトニン」というホルモンが分泌されます。セロトニンは日中、ヒトがいきいきと生活するために必要な活力の源となる脳内物質。近年は「幸せホルモン」としても良く知られています。
 このセロトニンが脳の働きを活発にし、精神の安定や安心感、平常心や頭の回転などを高める働きをするのです。
 セロトニンはストレスに対しても効能があり、私たちの精神安定剤としての役割も果たしてくれるホルモンです。セロトニンが不足すると、イライラしたり、仕事などへのモチベーションが下がったり、不眠やうつ病などの傾向としてあらわれることもあります。
 睡眠のタイミングが概日リズムからずれると、とうぜん睡眠の質が下がってしまいますよね。セロトニンやメラトニンなどの脳内物質が分泌されるタイミングが、自然な概日リズムと同期しなくなるために、これらの脳内物質が正常に分泌されなくなるからです。
 結果として、深くて良質な睡眠が得られにくくなり、夜間の睡眠が浅いまま朝を迎えるという悪い循環に陥ります。カラダや脳の疲れが残ったままだと、もちろんメンタルも安定せず、ひいてはそれがストレスを溜め込む原因になってしまいます。
 ストレスは、動脈を硬化させる危険因子のひとつです。概日リズムからかけ離れた生活が、動脈硬化だけでなく、あらゆる生活習慣病の原因になるというわけです。


※続きは書籍でお楽しみください。


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