ベンチャーのチームワークって結局なんなのか
「ベンチャーでは社員数によって求められるスキルが全く異なる」とよく聞きます。
仕事を進めるスキルもそうですが、チームワークのスキルも社員数によって異なってきます。
では具体的に、どのように異なるのでしょうか。
創業期(チームなし)のチームワーク
創業期のチームワークとは「みんなで同じ仕事をする」ことだと言えます。
プロダクトが出来上がっておらず、売上もほとんどないので、社員数も数人しかおらず、チームといえるものもありません。
それゆえ、やる必要がある仕事をみんなでやる、ということが求められます。
結果として、みんなで同じような仕事をするシーンが多くなります。
成長期(各チーム3人~)のチームワーク
社員数が15名を超え、各チームの人数が3名を超えてくると、チームワークのあり方はガラッと変わってきます。
各人に誇りと責任が求められるようになってきます。
創業期の働き方は、効率が良いように見えて、実は非常に効率が悪い働き方です。
人間、違った種類の活動を複数並行してやろうとすると、能率が下がるものです。
それゆえ、チームを作り、チームの役割と目標を設定していきます。
チームの役割と目標は「全社目標を達成するために、どのチームがどこを担当することが最も効果的か」の視点で決まっていきます。
チームの役割と目標が決まると、チームメンバー1人1人に明確な役割と目標が生まれます。
このチームメンバー1人1人における役割と目標を、私は「誇りと責任」と呼んでいます。
チームメンバー1人1人が自分のテリトリーにおけるCEOとして「どうやったら現状を打破し、目標を達成出来るか?」と考えるようになっていきます。
チームメンバー1人1人における役割と目標は全社目標と紐づいています。
チームメンバー1人1人における役割と目標が決まることで、おのおのが自分の仕事に集中することができるようになります。
成長期のチームワークには用意周到さが必要
成長期のチームワークを成立させるためには用意周到さが必要です。
1.あらかじめ外部を含めたリソース計画を立てておく
チーム制が始まり、各チームが目標を定め、全社目標を達成するために各チームのアウトプットを最大化しようとすると、創業期のように他のチームにそのチームの役割と違うことを依頼することは出来なくなります。
創業期のように他のチームにそのチームの役割と違うことを依頼すると、各チームの能率が大きく損なわれるからです。
また自チームの仕事を他チームに手伝ってもらい続けると「どうやったらアウトプットにレバレッジをかけられるか?」という学習機会も失ってしまいます。
チームのリソースが不足することが予想される場合、チームのマネージャーはあらかじめリソース計画を立てていくことが必要になります。
ベンチャーでは事業環境が日々変動するので、正社員で全てのリソースを揃えることは難しく、外部のリソースをどれだけうまく活用出来るかもポイントになってきます。
Housmartも創業以来、マーケティング、デザイン、システム開発、営業で多くの外部のプロフェッショナルなパートナーに支えられてきました。
サイバーエージェントがライブドアと一緒に事業をスタートしたのと同じように、ベンチャーには外部パートナーが欠かせません。
特にコロナのような大きな変動因子がある昨今の日本では「どうやったら外部リソースを有効活用することが出来るか」という思考と、実際に外部リソースを活用するスキルが事業の成否を分けます。
もちろん、突発的な緊急事態が起こり、他チームに本来のチーム役割と違うことを依頼することが必要な場面もあります。
しかしそれは1回かぎり、どんなに長引いたとしても事態が発生してから1〜3ヶ月以内には自チームで出来るようにリソースを揃える必要があります。
他チームに、他チームのミッションと違うことを依頼することを前提とした仕事の組み立て方は決して行ってはいけません。
投下リソースと売上の費用対効果をチェックし、どれだけ自チームにリソースが必要なのかをあらかじめ見立て、外部リソースを含め計画を立てておくことがマネージャーには必要です。
2.優先順位を明確にする
チームが発足すると、やりたい仕事が次々と出てきます。
やった方が良さそうな施策や仕事は、あっという間に数十を超えるでしょう。
Housmartでも開発タスクは創業以来、数十を下回ったことがありません。
しかし現実に行える施策や仕事は、極々限られています。
極々限られた範囲で「何をやるのか」優先順位を明確に決めることが求められます。
優先順位が正しければ、施策や仕事が効果的に作用し、費用対効果が上がっていきます。
優先順位が間違っていれば、施策や仕事は費用対効果が悪いものになります。
「やりたい!」ではなく「何を目的としてやるのか」を明確にし、優先順位を決めていきます。
「何かをやる」と決めることは「何かをやらない」と意思決定することです。
前からやっている施策に加えて、新しい施策をやることは、従前の仕事を自動化しない限り中々難しいものです。
新しい施策をやるためには、今までやっていた何らかの仕事をやめないといけません。
「何をやらないと決めたのか」を明確に定義し、チーム内でドキュメント化して共有する必要があります。
優先順位を決める上で指針となるのがチーム目標です。
逆に優先順位を決める上で役に立たないチーム目標は、目標としての機能を果たしていません。
私は前職時代、尊敬する上司に「忙しすぎて時間がない」と言うと、上司から「お前、自分が忙しいって言うのは、自分は特別な存在だ!って自己陶酔しているだけだし、単に優先順位付けとタスク管理出来ないのを自ら周りに暴露してるだけだから相当イタし、やめた方がいいぞ。実際お前より短い時間で、より多くのアウトプット出ている人たくさんいるし」と言われてハッとしました。
外部を含めたリソースの見立てと確保をしっかりと行い、優先順位付けを正しく行えば「忙しすぎて時間がない」という状況にならずにすみます。
3.チーム間で共通の物差しをもつ
チームが発足すると、他のチームに、そのチームが担当することが効果的な仕事をリクエストする場面が出てきます。
他のチームの役割に合った仕事を依頼するケースです。
他のチームに仕事を依頼する際は「共通の物差し」を明確にする必要があります。
多くの場合、共通の物差しはKPIです。
「このKPIをあげるために、この施策に協力して欲しい」とドキュメントにまとめてから依頼すれば、他のチームも優先度を明確に定めることが出来ます。
依頼されたKPIを上げることが、どのくらいチーム目標の達成に寄与するかを考えればいいからです。
チーム目標は全社目標から逆算されています。
「共通の物差し」であるKPIが明確でない場合、他のチームは仕事を受けることが出来ません。
目的KPIが明確になっていない施策や仕事を実行することは、他チームからの依頼といえども、誇りと責任を放棄する行為です。
世界一の時価総額を誇るGoogleでは「君が神だとしてもデータを持ってこい」という合言葉があるそうですが、まさに目的を明確にする文化を体現していると言えます。
それゆえ、成長期において、マネージャーは他のチームの目標を深く認識しておく必要があります。そして自チームのメンバーに「なぜこの仕事を他のチームがやるのか、やらないのか」ということを自分の言葉で説明出来る必要があります。
マネージャーからその説明がなければ、チームメンバーは「自分たちはないがしろにされている」という誤った認識を持ってしまいます。
ベンチャーでないがしろにされるということはあり得ず、全ては目的となるKPIと、そのKPIの優先度、そしてKPIが上がる蓋然性です。
事実、社長である私の提案であっても、目的となるKPIがあやふやだったり、KPIの優先度が相対的に低かったり、KPIが上がるという蓋然性がない提案は、どんどん否決されます。
そうあるべきですし、やらない理由が明確なので、私も納得をしています。
他チームから依頼された仕事がチームの役割に合致しており(自チームがその仕事をやることが最も効果的)、「共通の物差し」であるKPIが明確で、そのKPIの優先度が高く、依頼された仕事でそのKPIが上がる公算が高ければ、優先順位を上げて実施するべきです。
4.マネージャーの役割が実践者から増殖者へ変わる
チームの人数が3人を超えると、マネージャーのアウトプットよりもメンバーのアウトプットの総量の方が大きくなります。
それゆえ、創業期は「実践者」であったマネージャーの役割が、成長期になるとマネージャーの役割は「増殖者」になります。
自らのアウトプットを増やすのではなく、メンバーの能力を引き出し、メンバーを成長させ、チーム全体のアウトプットを増やすことに注力する必要があります。
マネージャーの言葉遣いが「私は〜をやっています」「私の事例では〜」から「私のチームは〜をやっています」「チームの事例では〜」に変わるべきタイミングです。
メンバー成長の鍵となるのは、権限移譲とサポートです。
マネージャーは権限をメンバーに委譲し、自らはそのサポートに入ります。
自らが課題を解決してメンバーにアレコレ指示するのではなく、課題が生まれたタイミングからメンバーと課題・情報・背景を共有し、目標を設定して「どうやったらその課題を解決することが出来るか」とメンバーに投げかけ、その施策立案と実行を支援します。
施策が出てきやすいように工夫して場を設定するのもマネージャーの仕事です。
そして施策が目的KPIに大きく寄与するようであれば、更なる支援を行います。
施策が目的KPIに寄与しないのであれば、施策をやめる意思決定をします。
つまりマネージャーは、施策の実践者ではなく、メンバーによる施策立案・実行のサポーターとなり、施策の整理とやめる判断をする役割に変わっていきます。
そしてチームの成果に責任を持ちます。
5.情報伝達の仕組みを工夫する
チームが大きくなればなるほど、チーム内、他チームとの情報伝達の仕組みを工夫する必要があります。
コミュニケーションそれ自体は、何もアウトプットを生みません。
自らの仕事にレバレッジをかけるためにチームを分けたにも関わらず、コミュニケーションにばかり時間がかかってしまうのは問題です。
しかし情報伝達は、全社目標を達成するために最も効果的に自分の仕事をする上で必要不可欠です。
コミュニケーションコストを抑えながらチーム内、他チームと情報伝達を行うために、ここでもマネージャーがコミュニケーションのハブになる必要があります。
単にMTGをセットするだけでなく「どのようにしたら効果的にMTGを行うことが出来るか」を入念に考え、事前にMTGを設計します。
またコミュニケーション無しでもお互いの状況が分かったり、判断が出来るようにツールを整えたり、判断基準を数字で明確化しておくことが有用です。
6.EQ
チームで仕事をするようになると、情報伝達の仕組みを工夫したとしても、100%他のチームの状況が分かる訳ではありません。
どんなトライアンドエラーがあるのか、どんなHARD THINGSがあるのか、当事者以外には中々見えてこない部分もあります。
だからこそ、複数のチームで事業を行うときは、各チームメンバーにEQ(心の知能指数)が必要になります。
他のチームを信頼し、応援するメンタルがEQと言えます。
HousmartにおけるOne team
Housmartでは会社のバリューに「One team」というバリューがあります。
この「One team」というバリューには、協力し、全社最適を実現するという想いが込められています。
用意周到に自チームの責任を全うしながらも、各チームの知見を集結させるという意味です。
このOne teamというバリューは、会社のMissionである「住を自由に」を実現する大きなピースです。
ゼロイチとイチヒャク
ベンチャーの創業期はゼロイチとも言うべき、混沌とした楽しさがあります。
しかし社会にインパクトを与えるためにはゼロイチだけでなくイチヒャクを成し遂げる必要があります。
イチヒャクを成し遂げるためには、創業期と成長期のチームワークの違いを理解し、用意周到に準備し、誇りと責任を持って自らのアウトプットにコミットし、その上で仲間と協力していくことが求められます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?