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ベートーヴェンを毎日聴く349(2020年12月14日)

『ベートーヴェン/カノン「涼しくて、なまぬるくない」WoO191』を聴いた。

このカノンは作曲家のフリードリッヒ・クーラウに贈られたもの。

クーラウはドイツ生まれだが、その後コペンハーゲンに移住して活躍した。作品はフルート作品やピアノ練習曲のソナチネにも採用されている。

クーラウの肖像画は左側から見て書かれたものを残している。これはまだ幼いころ、転んだ弾みで持っていた瓶の破片によって右目を失明してしまうという、ショッキングな事故によることが影響している。

1825年の9月、クーラウはベートーヴェンを訪ねる。お酒を飲みながら楽しいひと時を過ごしたようだ。その時、クーラウは尊敬するバッハの文字を引用した即興作品を作った。

バッハの文字を引用したとは、BACHの各文字をそれぞれ音階に読み替えたということ。これはバッハに対する敬意として、これまで多くの作曲家によって採用されてきている。

「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」の音階は英語だと「C、D、E、F、G、A、B」となる。

バッハ(BACH)を表すとこうなる。「B(シ)、A(ラ)、C(ド)・・・」おや、「H」がない。

バッハのお国はドイツである。ドイツ式にすればいいのだ。その音階は「C、D、E、F、G、A、H」と「H」が登場する。

あれ、今度は「B」が無くなってしまうではないか。

心配ご無用。ドイツ式の「B」は(シの♭)として存在するのである。なのでバッハ音階「BACH」は「シ♭、ラ、ド、シ」ということになる。

クーラウは尊敬するバッハの文字を引用した即興作品を作った。

するとこのお返しに、ベートーヴェンもBACH音階を入れた即興作品を作った。しかし、ベートーヴェンの方が一枚上手だった。

それは歌詞にクーラウの名前をモジって入れたからである。

「涼しくて、なまぬるくない」という変な歌詞の理由がこれである。

Kühl, nicht lau. クー ル ニヒト ラウ

お見事、ベートーヴェン。

でも、このBACH音階のカノン、荘厳と思いきや、とても奇妙に響くものだ。歌詞のように。


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