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「のたうち回るほどの音の奔流」が聞けるというピアノ2台による「第九」。ベートーヴェン「第九」初演200周年(2024年)

「のたうち回るほどの音の奔流」

CDの帯に書かれたキャッチコピーである。

「のたうち回る」とは、例えばケガをして苦しみもがくようなことを言うのだと思うが、音楽を表現する際に使われたのは、わたしにとっては初めてかもしれない。

そして「奔流(ほんりゅう)」という言葉もあまり耳にする機会がない言葉だが「激しい勢いの流れ」を意味する。

つまり、このCDは、スピーカーやヘッドホンから「苦しみもがいてしまうほど、音の流れが激しい勢いで襲い掛かってくるぞ!」

という恐ろしいものなのだ。

しかし、これはホラー映画のサントラではなく、ベートーヴェンの「第九」である。

正確には、フランツ・リストが「第九」を2台のピアノで演奏できるように編曲したものである。

「なんと大げさな」と、ちょっと笑いながらこのCDを聴き始めたのだが、苦しみもがくことは無かったが、ボリュームを上げたヘッドホンから出てきた音楽は「なかなかいいキャッチコピーを付けたな」と思わせるようなものだった。

とにかくピアノから出てくる音数が多い。2台で演奏されるので音は多くなるのは当たり前だが、2台のピアノ作品の中でも群を抜くレベルかもしれない。



フランツ・リストはベートーヴェンの交響曲全曲をピアノ1台で演奏するための編曲したのだが、「第九」だけは最初、1台ではなく2台で演奏するための編曲をした。

それは、当時としては大規模で破天荒な「第九」を、ピアノ1台で演奏するには表現しきれないと思ったからだろう。

それから、かなり後になって、紆余曲折の上、1台で演奏するバージョンを作り上げる。

大規模なオーケストラと、4人の声楽ソリストと合唱という規模をピアノで表現するためには、やはり2台使わなければその音楽を表現しきれない。

音数が凄く多くても決してやかましいわけではないし、オーケストラ版「第九」をなかなかうまく再現できていると思うのである。

さすが「ピアノの魔術師」「ピアノ編曲の魔術師」フランツ・リストならではの業績である。

でも、もしかしたら、演奏する側にとって、この「第九」は「のたうち回るほど」演奏するのが大変なのではないだろうか、と思うのである。

ベートーヴェン/リスト編曲 交響曲第9番 (ピアノ2台版)
 第1ピアノ:レオン・マッコーリー
 第2ピアノ:アシュリー・ウェイス




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