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障害者雇用ビジネスはみなを幸せにしうるのか?

こんにちは、がぱけん(@gapaken335)です。

このアカウントは私が仕事や書籍、日々の気づきを通して考察したものを共有するものです。少しでもみなさまのインプットや気づきになると嬉しく思います。
ちなみに顔はアルパカに似ていると言われます。

今回のテーマは障害者雇用ビジネスについてです。

一言で言うと、「障害者を雇用するインセンティブがある企業に対して、雇用の機会を提供することで利益を得るビジネス」といったところでしょうか?

本noteでは、障害者支援ビジネスを事業としている企業エスプールを中心にとりあげます。

賛否両論巻き起こりそうな商売ですが、面白いモデルでもありますので、事実と私なりの解釈をまとめてみようと思います。

それでは本題にまいりましょう。

日本の障害者雇用の義務について。

日本には障害者雇用促進法が存在し、それぞれ以下の割合で障害者を雇用する義務が法律で定められています。そして、規定の人数を雇い入れなかった場合、一人不足分あたり、約5万円の納付金を国に納める必要があります。

 ・民間企業 2.2%
 ・国、地方公共団体、特殊法人等 2.5%
 ・都道府県等の教育委員会 2.4%

ざっくり言うと「障害者を雇うか、お金を払うか選びなさい」と言う法律です。

さらに、2020年4月には、障害者雇用促進法が改正され、中小企業の事業主に対する認定制度や、障害者の短時間雇用について国から給付金が出ることなどの内容が順次施行されていますし、来年令和3年からは、上記の割合が0.1%ずつ引き上げられることが決められています。

全体のトレンドとして、より多くの障害者を雇うことを求められるようになると言えるでしょう。

この流れは法律だけではなく、企業の果たす社会的責任(CSR)の文脈からも、より活発になっていくでしょう。

目指すは国・企業・障害者の"三方よし"。

障害者雇用は何をもたらすのでしょうか?

ざっと図にすると以下のような形だと考えます。
国・政府の介入により、企業は障害者雇用を促進せざるを得ず、障害者は雇用の機会を広げることができている。と言ったところでしょうか。

もう少し詳しく、国・企業・障害者それぞれの立場から考えてみましょう。

まずは国の立場

内閣府が発行している、2018年度版障害者白書によると、障害者の人数は国内で860万人だそうです。

※画像はエスプールHPより

日本の全人口で割るとざっくり7%、大体15人に一人は何らかの障害を抱えていると言える数字です。

これをみて「想像しているよりずっと多いな」という印象を受けた方も少なくないのではないでしょうか。

国としては、憲法にのっとりまず彼ら・彼女ら自身の豊かさを作り出す必要があります。

そのためには経済的な自立や社会への参画は大きな役割を持ち、だからこそ就労支援を行います。個々の幸福の追求、これは明らかに正しい方向性ですし、実施されてしかるべきです。

しかし、そのような福祉的な側面と同時に、国全体を豊かにするために7%の人間を有効活用するという全体最適の側面も考えなければいけません。

現在日本は小子高齢化の一途を辿り、労働人口が減り続けています。
年金問題に代表されるように、一人の労働者・及び事業主が支えなければいけない人間はどんどん増えていきます。

そんな状況下では、障害者の方々の就労支援は、彼ら・彼女らのための福祉的な支援と同じ、もしくはそれ以上に経済への効果の期待も読み取れます。

人口の7%の人間の収入が今より高く、安定して、その分生活が豊かになって消費行動が活性化し、結果として経済自体も上向き、国が豊かになる。

これが国の目指すべき障害者の就労支援なのだろうと思います。

続いて、企業の立場

現在の企業の状況はどちらかというと受け身の立場であると考えます。

国が障害者雇用促進法のような政策を打ち出し、それに乗る。「雇わないといけないから雇う」というような形です。

しかし、企業側にとっても障害者をうまく雇用することができれば、社会的責任や、義務だけでなく、会社にとってプラスにすることができます。

人材の確保と人件費は、いつの時代も会社の大きな悩みのタネの一つです。

従業員の満足度の向上、人件費の削減、パフォーマンスの向上の三つをバランスさせることを求められるので、仕組みや給与体系、待遇の決定はとても難しいアジェンダです。

そんな中で、一つの回答となりうるのが障害者雇用。

もし、障害者の方を、障害を持たない方と同じだけワークさせる仕組み・環境を作ることができれば、相反する三つの要素を高いレベルで実現できる可能性があります。

障害年金が存在し、環境・仕組み整備の障壁が高く、最低賃金の減額特例が効くため、障害者を雇い入れるのに必要な給料は、一般的な労働市場より低くなります。

誤解を恐れずに言えば、障害者雇用はお買い得市場なのです。

もちろん私が言いたいのは「労働力を搾取しよう!」ということではありません。
お互いが納得した、適切な賃金で雇用関係を結ぶことは大前提です。

しかし、障害者の労働価値を引き出すことができる環境を整備できれば、他社との差別化となり、従業員満足度と高いパフォーマンスを比較的低コストで手に入れることも不可能ではないでしょう。

障害者を受け入れ、活躍させられる環境というのは、会社にとって資産となりうるのです。

最後に障害者本人の立場。

これはわかりやすいですね。

安定した収入源と社会との繋がりの確保です。

自身のスキルや能力を生かして仕事を行い、社会や人々に貢献し、適切な報酬を手にする。

このスキームは持続的な社会の発展を可能にするために資本主義社会が生み出した素晴らしい発明だと、私は思います。

そこに適切な形で参画することは、素晴らしい人生を送る上でかならずプラスになるはずです。

障害者を雇用することの苦労。

企業側にとって障害者をうまく雇用することができれば、社会的責任や、義務だけでなく、会社の利益にとってプラスにすることができる。障害者の活躍環境は資産である。

これは間違いなく正しい。

しかしながらそうは言っても難しいのが仕組み・環境整備です。

ここで参考として、厚生労働省の実施している障害者雇用実態調査で出ている月間の平均賃金を見てみましょう。

 ・身体障害者 :248,000円
 ・知的障害者 :137,000円
 ・精神障害者 :189,000円
 ・発達障害者 :164,000円

日本人の平均年収は436万円と言われていますから、月あたりに直すと36万円、障害者の中でも比較的高い給与を手にしている身体障害者においても月間11万円以上、知的障害者に至っては約22万円以上の開きがあります。

最低賃金の特例など、直接的な原因はありますが、障害者の賃金が低いのは、本質的には「企業として雇いたがっていない」ことに他なりません。

しっかりと障害者の方を活用し、価値を出すには制度/ルールの整備、業務内容の整理、フォロー人材の配置、オフィス環境の整備などなど、様々な投資や改革が必要となりますが、そこに対してしっかり対応できている企業はほんの一握りです。

多くの企業は法定採用人数をまず採用し、価値の薄い業務にアサインし、価値が薄い上に、他企業への流出リスクも低いので給与は低いまま、という状態になっています。

結局のところ現状、多くの会社は「障害者雇用を促進しなければいけないのだが、適切なポストも作れていないし環境整備もできていない」という状態なのです。

障害者雇用ビジネスが提供する価値とは。

さて、ここでやっと障害者雇用ビジネスについて言及してみましょう。

今回取り上げる企業は「エスプール」。

エスプールは、売上規模175億円、従業員数約800名の人材派遣業を主な事業とする企業で、2019年に東証一部上場企業となったようです。

"事業課題を通じて社会課題を解決する"を理念として掲げており、仕組みの整備で様々な潜在労働力を活躍させる環境を整えた上で、企業に対してアウトソーシングサービスなどを提供することを特徴としています。

※エスプール公式HPより

前述の通り、様々な人材の労働力をフル活用するための仕組み作りは、企業にとっては非常にハードな課題です。

エスプールは、その部分をある程度まとめて請け負うことを提供価値の源泉としているようです。

中でも今回取り上げる事業は「わーくはぴねす農園」です。

基本的なスキームは以下の通り。

①エスプールが農園を立ち上げる
②企業に対して、農園区画を販売、障害者の労働環境を提供
③エスプールを通じて労働者も斡旋、企業が雇用
④基本的に運営・管理はエスプールが実施
⑤企業は障害者雇用を低負担で実現し、収穫物を福利厚生などに活用

障害者サイドのメリットは「安心して働ける環境の獲得」
企業サイドのメリットは「大きな投資や改革を伴わずに障害者雇用を実現する」というような構図です。

大きな特徴としては、主に知的障害者を雇用対象としているところです。

※エスプール公式HPより

障害者の雇用は、環境や業務がまわる仕組みを比較的整備しやすい身体障害者を優先しがちで、知的障害者は比べると雇用人数も少ない傾向にあります。

そんな中で雇用機会、労働機会を作り出したのは社会的に大きな意義があると言えるでしょう。

土を使わない特殊な農法にしたり、農業アドバイザーをおく、定期的に企業側に訪問させるなど、労働環境の整備はしっかり行われている印象なので、障害者目線で見れば、優良な就職先として多くの人材を集めることができそうですし、企業からみても今後のトレンドに対応する手段の一つとなるため、今後このモデルは伸びていくのではないかと思います。

わーくはぴねす農園はみなを幸せにしうるのか?

さて、本noteのもっとも重要な問いについて考えましょう。

このスキームはみな幸せにするか?

個人的な考えとしては、「とっても良い取り組み、でももう一歩」という印象です。

企業側が障害者を雇用するメリットが薄いと考えるからです。

国からの要請や、社会的責任を果たすため、企業の直接的な成長に大きく関わらない業務を創出して、障害者を雇い入れる。という枠組みでは、障害者雇用を企業がうまく活用しているとは言えません。

確かに無農薬野菜を社員に提供できることは従業員満足度の向上に繋がるかもしれませんが、雇用する給料、農園設備、管理費などに対してペイしているとはなかなか思えません。

(なかなかないとは思いますが)この状態では政府が方針を転換した瞬間に雇用関係が崩れます。

長期的に良好な雇用関係を継続するためには、お互いが価値を提供しあえるWin-Winの関係が理想です。

そう言った業務の創出や、環境や仕組みの整備などのノウハウとツールがパッケージ化されたものが後に開発され、普及することを願います。

結びとして。

「人材をうまくワークさせる仕組み」をコアバリューとするビジネスというのはいくらでもレバレッジが効くので、高い収益を上げやすい。

これについては、前職のアクセンチュア時代にとても実感しました。

誰もが、様々な可能性を持っている。

活用される場所と、活用するための知識が、もっともっと整備されていけば、世界がやさしくなるだけでなく、もっと豊かになれる。私はそう思います。

締め括りとして、私の座右の銘を置いておきたいと思います。

「みんな違って、みんないい。」

読んでいただきありがとうございました。

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