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”東京五輪と同じ日に節目”・・・歌と歴史を網羅した名著 「中国共産党、その百年」石川禎浩

中国共産党が結党されて今月でちょうど100年を迎えます。結党されたのは中国の上海で、その会が開かれたとされるのは7月23日、ちょうど日本で東京でオリンピックが開幕した同じ日付です。
上海の街中にあるその会合が開かれた場所は観光スポットにもなっていて、私が訪れたときも、若い10代後半くらいの女性たちのグループがしきりに写真を撮っていました。
中国共産党の歴史が正しく、その正当性が今も脈々と続いていることをアピールする場になっています。

そんな中国共産党の、この100年の間にどのようにして力を蓄え、建国し、統治し、発展し、2010年には経済大国として日本を抜き世界第2位の経済力を持ち、世界ナンバーワンの国を目指すようになったのか、国辱の歴史を乗り越え、いかに発展していったのか、
人民をどう管理し統治し、治安を安定させようとしてきたのか、歴史を詳しく振り返っています。

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非常に網羅的に内容がまとめられていますので、共産党の入門的な内容にもなっていますし、日本との関わりが非常に深いとなりの国で何が起き、どうなりそうかということがよくわかります。でもそんな歴史的な真面目な一面だけじゃなくて、この著者の、歌をめぐるコラムというのも非常に面白くて、流行歌の歴史が政治的な思惑にも翻弄されつつも人々に広まっていったという数々のエピソードも大変興味深いです。


ちなみに共産党100年についてはこちらのサイトが非常によくまとまっています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210701/k10013107881000.html

本の話に戻りますが、中国共産党にとって日本はどんな存在か、ですが
明治以降、急速に近代化を成し遂げていた日本は、中国にとっては西洋諸国に対する対応策としての模範でもあり、
日本経由で伝わったマルクス主義など、中国の国内での文化発展の上でも日本経由で中国に伝わったものの影響が強く、ある意味ありがたい存在でした。分かりやすく考えると、中国からの多くの留学生が日本を訪れ、西洋思想を学び、国に持ち帰ったことを考えると、結びつき、余波は大きかったといえます。

一方で、中国に対する支配の面、としては鬱陶しい存在で、中国の広い範囲に軍隊を展開し戦いを繰り広げたという意味では
中国にとって日本は迷惑千万でもあり、国民党にしてみれば近代国家を作り始めたのに日本軍によって崩され、
共産党征伐があと一歩のところで成し遂げられなかったのは日本のせいだという位置付けでもあります。
一方で共産党からすると、九死に一生を得たのは日本のおかげだということになります。
いずれにせよ中国大陸を蹂躙したという一面で、日本は悪の存在という位置付け、レッテルを貼られていて、仮想敵国で憎むべき相手、スケープゴートであり続けることは間違いないでしょう。

2010年、2012年の反日デモと、反日感情をあおることで国内をまとめようとした中国のやり方をまぢかで体験したものとしては
同様の手段をまた改めてとられてもおかしくないし、先の大戦での中国人民の痛み、という表現と同様、
在中国の日本人と日本の痛みを忘れることはできません。


本から話がそれましたが、エピソードもたくさん紹介されていて面白いです。

毛沢東が夜遅くまで起きて夜型の生活をしていたため、その周辺の人たちもそれに付き合わされ、突然召集がかかったりするので
日付をまたぐまでは眠れない、そして夜遅くになって仕事が終わってから寝るので、生活リズムが狂うため、周りのリーダーたちは睡眠薬を飲んでいたという話、
あるリーダーは、ベッドを足がない状態で低いまま、使ったが、睡眠不足でベッドから落ちたことから睡眠不足が原因の怪我を防ぐために
ベッドの足を切って、落ちても怪我をしないようにした、という涙ぐましい話、
またそのエピソードをめぐって、リーダーは寝る間を惜しんで人民のために働いた、とアピールする姿勢、、、。


共産党だけじゃなくていろんな周辺の知識についても書かれています。
流行した歌に関しての事例が面白いです。

中国の国家は、そもそもは映画の挿入歌ですが、日本との戦いに抗うために呼びかけた歌で、映画はさほどはやらなかったものの、
ラジオを通じて歌が広まり、流行していき、その後、国家になりました。

「立ち上がれ 奴隷となることを望まぬ人びとよ
我らが血肉で築こう新たな長城を
中華民族に最大の危機がせまる
一人ひとりが最後の雄叫びをあげる時だ

立ち上がれ 立ち上がれ 立ち上がれ 
我々すべてが心を一つにして
敵の砲火に向かって進め 敵の砲火に向かって進め 進め 進め 進め 」

この歌詞をみても、いかに人々を鼓舞するものか、感じられると思います。これをホールのようなところで聞くと、人々の怒りにも似た叫びのようにも聞こえますし、日本人の立場からすると、中国の人たちの思いに震える思いを何度も感じました。正直、怒りをぶつけられるのではないかと。なので日本人の私は、中国で国家が歌われるときには、身構えていました。

直接日本を批判した歌詞ではないので、国家になれたとも言えますが、著者の分析として、
その民族的な歌、日本に対する戦いという経験が中華民族の共通の体験となって、すべての民族のシンボルとなる国家になった、
バラバラな民族、国家としての中国が一つになっていったのに役立った、という分析があり、なるほど、興味深いなと思いました。
反日という思想でひとつになる、というのも理念としてそうですが、やはり歌が広まったことが大きい、というわけですね。
歌の方が小難しい話より受け入れられやすいでしょうし。

ちなみに、中国の流行歌のインターナショナルと言う革命をめぐる歌に関して検索してみると、
今月の結党100年のタイミングに合わせ、今風にアレンジされたものがyou tubeにアップされていました。
撮影の舞台はあの、中国を代表する精華大学。分かりやすく例えると、東大にあたるようなトップ校でもあり、でも
受け入れ留学生や世界的な影響という意味では、世界でも上位にはいる、超有名校で撮影されていました。
演出は、ちょっと笑ってしまったのですが、
授業中にいきなり生徒が楽器を演奏し始めると、生徒たち、そして先生も歌いだす、という、おいおいという突っ込みどころ満載の展開で、
でも、中国語、英語、スペイン語、日本語、と、中国人や留学生たち(日本のパートは、日本人ではなく日本語を学ぶ生徒のような印象)が
次々と歌い、そして、今度はロック風にアレンジしたバージョンにかわり、いまに受け継がれている感を演出しています。
きっと、えらい人たちが考えた構成なんでしょうね。
https://www.youtube.com/watch?v=WNPKRjNEZ5E

このほかにもyoutubeには、まさに共産党100年の歴史を称えるかのような動画も紹介されていましたが
中国の将来も、国家侵略に立ち向かえ、日本の横暴に対抗せよと言った思いを込めて作られた歌につながっていくわけですけれども
中国の流行歌、そしてその中国の歴史が正しかったんだということを今風にアレンジして紹介するという戦略、共産党の目論見を感じます。


中国だけでなく日本最初の流行歌とも言われている歌として明治維新の戊辰戦争で新政府軍が広めた「トンヤレ節」の紹介もされています。
政府軍が東北へ移動する際にこの歌を歌いながら、まさに錦の御旗のもと戦いが行われていることをアピールしたと言う歌です。
そんな歌の比較もあって、本の面白みを深めています。

トンヤレ節
https://www.youtube.com/watch?v=iCv93-4pRCY

読書感想文でありながら話がいろいろ飛んでいますが、共産党の歴史を振り返る資料も多く、
参考文献になりますので、中国ウオッチャーには、手元に置いておいて振り返りや確認に使える実用的な本にもなります。
今回、歴史を網羅的に読めたことで、改めて、理解が深まりましたし、
やはり印象的なのは、
共産党は苦難の歴史をたどってきて、決して順調な道のりではなかったものの、
いったん、権力を手にすれば、それを手放さないようにしてきたこと、
また、自分たちの力のアピールに都合がいいものはより拡大して伝え、
都合の悪いことは隠したり、悪い事実を改ざんしてでもよいものとして広める姿勢をとること、
いわば嘘で嘘を塗り固めることで、やがては嘘が真実になっていく、という手法をとることが印象的でした。改めて、ですが。

ですので、隣国の特徴をまずは理解した上で、どんなアプローチをしてくるのか、
いわば歴史を知ることで、傾向と対策を知る、という、正しい理解をする助けになる本だと思います。


日本では、中国脅威論や、反中反韓の本が売れる、そうじゃないと売れない、という面があるのは事実です。
でも日本にとって都合の悪いことにもちゃんと目を向け、その上で相手を理解しないと
相互理解だけでなく、今後の困難な状況にも冷静に対応できないでしょう。
もっと等身大で隣国と付き合うための一助となる、非常に冷静で、客観的事実に基づいた、知識の基礎体力をつける本です。


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