見出し画像

ふるさと 【ショートエッセイ】

朝焼けのハイウェイを行くドライブで堪能する世界観。
高架から見られることを想定して作られた屋上の看板。
色とりどりのデザインとあれこれのフォント。
バックミラーに映る眩しすぎる朝陽の閃光。
ピンクと黄色と水色の広すぎる空のグラーデーション。
干潟付近で横切る水鳥の飛翔。
加速して流れる景色の街から郊外への移り変わり。
働く車、営業車、レンタカー、ファミリーカー、夜勤明けの車、外国産の車、規則正しく流れるように、滑るように走る車が刻一刻とその数を増やす。
忍び寄るデイタイム。
「日常」に覆われる直前の非日常の終焉の時。
毎度、毎日、毎朝のこと。

通勤時間のオフィス街の厳かで静かな活気。
無機質な柵の作られたホームの出入口から溢れ出る人々。
モノトーンのようでカラフルな装い、鞄、靴、傘、スマホ、手帳たち。
学生のふざけ合う笑い声とくだらない可愛いお喋り。
新聞を広げるビジネスマンの脂の乗った凛々しいしかめ面。
質のいい合皮のブックカバーの文庫を膝に居眠りするレディの整った爪。
100メートルごとに変わる街角の表情、ビル、植樹、繁華街。
老舗の和菓子屋、古い商業ビル、洗練された百貨店、イングリッシュバー、バス停、私鉄、地下鉄、展望台、緑地、噴水、宝石店、パン屋、イタリアン、中華、和食、ラーメン、屋台、バイク、自転車。
ウィークデイの普通の朝。
商社、メーカー、役所の9時と、小売、飲食、サービスの早朝、あるいは10時。

無言ですれ違うスーツ姿、音漏れのイヤホンと制服の子、おめかしして劇場前で待つシニア、カーネルさんみたいな警備員、特大スーツケースとカメラのビジター、コスプレちゃん、座敷犬の散歩、前髪気にする待ち合わせっ娘、路上ライブのシンガー、通りすがりのリスナー、長財布のランチメイト、細身の文学青年。
幾分か値の張るディナー、妙な形状のモニュメント、ブランドショップ、凝ったデザインの歩道橋。
電気街、繁華街、博物館、美術館、動物園、水族館。

平皿に載せてスパイスを利かせて、温めて召し上がる御馳走みたいな極上の街。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?