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ミュートのすすめ

今まで誰にも言わなかったことがある。かなり性格が悪いことが露呈してしまうから、黙っているつもりだったのだが、最近やたらネットで目につくようになったので、ここで書くことにする。

特定の人たちの「それって、ただの自慢ですよね?」と思うような発信についてだ。

具体的な名前は伏せるが、先日「うちの子どもは、こんなに本を読むのが好きなんです」という作家の親バカを、新聞のコラム欄で見かけた。また、「私っていつも、人から優しくしてもらえるんですよね」という女優の自己満話が、Webメディアに載っていた。これらをうっかり読んで、他人の欲にさらされたことで、元気を奪われてしまった。

彼(女)らの自慢話は、「エッセイ」という便利な言葉に隠された、巧妙な罠である。今ではだいぶ見分けることができるようになったが、それでも残念なものに出会うことも多い。エッセイに限らず、InstagramやPodcastでも、「実は自慢したいだけ」の投稿を、多く見かける。

彼らは、「自分の幸せだったことを発信すれば、読んでいる人も幸せになるだろう」という建前で発信している。しかし、読んでる側もバカではない。そこに「すごいと思われたい欲」が、見え隠れしているのを感じて、ハッピーになるどころか、かえって疲れてしまう。

文章がうまかったり、頭の良い人は、それをうまく隠して笑いに変えたり、ハッとさせられる話に変換できる。しかし、どちらでもないと、なんだか読んでいて後味の悪い話になる。誰が他人の子どもの自慢話や、自己顕示欲に触れたいと思うだろう?

前向きな発信すべてを否定するわけではない。「ここのレストランでこれを食べて、美味しかったよ」という発信は、読んでる側のメリットになる。「え、家の近くじゃん!こんなところがあるなんて、知らなかった」という気づきがあるし、「うまそう、行ってみよう」と次の行動につながるから。

そうではなくて、「我が家は、子育てがうまくいっています」という話や「私たちには、いつも良いことがあります」という話に帰結してしまうものがある。それらは読んでいて「ふーん、良かったね」で終わる。

自分の心の状態がよければ「あ、そう」と読み飛ばせる。しかし、都営バスに子連れで乗車したら、運転手に嫌味を言われる日もある。友人とのランチで、すごく意地悪なウェイターに当たる日もある。自分の心の状態が整っていない時は、そのような他人の「欲」に触れると、読んでいて落ち込んでくる。そもそも、この手の発信には近づかないのが一番だ。しかし、いかんせんそのような発信が多すぎる。

あまり大きな声では言っていないが、私はリアルの知り合い、特に子どもがいる友人のInstagramは、ミュートしている。例えば雨の日に、自分の子どもたちは動画漬けになっている一方で、ママ友は車で遠くに出かけて、遊んでいるとする。これを知ってしまうと、げんなりする。あと、うちは夫が平日も土日もほぼ家にいないので「子どもを預けて、夫婦ランチ♡」のような投稿を見ると、「はいはい。子どもを見てくれている人が近くにいて、暇な夫で良かったね」と思ってしまう。

最近はFacebookもしんどくなってきたので、疲れる投稿が多い人はどんどんフォローを外している。Facebookにはフォロー機能というのがあって、友達のままでいつつも、自分のフィードには流れてこない「フォローを外す」という機能もあるのだ。しんどい人は、試してみて欲しい。

ここまで読んで薄々感づいている人もいるだろうが、「妬み」も関係している。「お前が満たされていない状態だから、そう思うだけだろう」と感じる人もいるかもしれない。でも、いつも満たされている状態でいることなんて、絶対に無理だ。人は、自分に近しい人が幸せな思いをしていたり、得をしていたりすると、嫌だと思う生き物らしい。そういうことになっているから、仕方ない。

最近では、心がざわざわする時は、そもそもインターネットに触れないようにしている。本を読んだり、お香焚いてボーっと眺めたり、お気に入りの入浴剤を入れたお風呂に入ったりして、何とかやり過ごしている。別に夫婦のコミュニケーション不足や、休日の過ごし方に困っているといった、問題が解決したわけではない。でも、なんとなくやり過ごしているうちに、大体の悩みは水に流れていくのだ。

その水の流れに、変なものを入れなくていい。変なものというのは、「他人の欲」だ。触れない方が良い。危険を察知したらすぐに、その人の発信はミュートするか、フォローを外そう。私のように「SNSには風景の写真しか流れてこない」ようになるかもしれないが、大丈夫。今のところは、何の問題もない。


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