家事育児で仕事がうまくいかない人へ
私は三人の子どもを育てながら、都内のIT企業で働いている。副業では翻訳やライターや自治体の仕事をしている。夫は夜勤や土日出勤があり、彼も私も実家は遠方だ。今でこそ育児も仕事も楽しいし、夫との仲は悪くない。しかし今に至るまでの道のりは、決して平坦とは言えないものだった。
半年前に夫から別居の提案をされた時。子どもは五歳、三歳、〇歳だった。彼は「仕事で疲れてるのに家に戻ると『家事やれ』『育児しろ』で、もう一緒にいたくない」と、帰宅するなり唐突に言い放った。確かに彼は家にいる間はご飯を作り、洗い物をして、子どもたちの世話をしてくれていた。それはフルタイムで働く私も同じだと考えていたが、お互い世界の映り方が異なっていたようだ。彼は私と顔を合わせないよう早朝に出ていき、深夜に帰宅するようになった。
負担は私に乗りかかり、しわ寄せは子どもたちに行った。上の子ふたりはお手伝いを強制され、保育園から帰っても好きに遊べず、不満を爆発させた。家は破壊され、めちゃめちゃになった。生後十ヶ月の次女の泣き声が、いつまでも響いていた。何より私が頭を抱えたのは「家事と育児に時間を奪われて、思うように仕事ができない」ことだった。在宅勤務の合間に家事をするから、仕事に集中できない。同僚から「子どもが小さくても、やることはやれ」と釘を刺された。人生は静かに崩壊していった。
数日後に区役所へ向かった。「子ども三人と入居できる施設は満員です」と、相談員さんに言われ、肩を落として建物を後にしようとすると、入口付近に置かれたチラシが目に入った。『ベビーシッター』『家事代行』。聞いたことはあるが、お金持ち向けのサービスで、私には縁がないと思っていた。しかし今まさに揉めているのは、これらが原因ではなかったか。帰り道にどちらも申し込んでみた。「お金を使い果たしても良い。あと少し、夜を越えることができるなら」。この出会いが、運命を変えた。
まず、育児。最も手のかかる次女はシッターさんに協力を仰いだ。平日の夜は保育園から帰宅して寝かしつけまで手伝ってもらい、週末は近所の公園へ連れ出してもらう。今まで次女に合わせて外出先を選んでいたが、上の子たちの好きな場所へ行けるようになった。私も育児に奪われていた体力と気力がセーブでき、疲れにくくなった。
次に、家事代行。週に二日来てもらい、水回りなどの掃除や洗濯物畳みなどの家事をお願いした。毎回同じ人が来てくれて、前回できなかったことを丁寧にやり続けてくれた。仕事の前後で家事をする必要がなくなり、保育園から戻ってきた子どもたちと心置きなく過ごせるようになった。
前々から「子どもにやってあげたいけど、時間がないから無理」と思っていたことも、できるようになっていった。週末どこへ行くか計画する、朝夕に宿題を見てあげる、入浴後にマッサージをしてあげる、など。ピカピカの家で満たされた子どもたちと過ごすうちに、私も徐々に笑顔を取り戻していった。夫は家にいる時間が増え、別居の話はどこかへ行ってしまった。
家事育児、そして夫婦の不安が解消されて、仕事に集中できる環境が整った。すると本業以外にもやってみたかった仕事に手を出せるようになった。特に地域には何か恩返しがしたいと思っていたので、自治体の仕事では報酬だけではない喜びを感じている。仕事をする前に、まず身の回りを整えるべきだった。これに気がつくまで、ずいぶんと遠回りをしてしまった。
もし「家事育児で仕事がうまくいかない」と悩んでいるひとがいたら、考えてみてほしい。時間を奪っているものは何なのか? それは本当にあなたかパートナーがやらなくてはいけないことなのか? NOだとしたら、思い切って他人を頼ってみてはどうだろうか。仕事のまわりを整えることで、仕事に打ち込めるようになる。本当にやりたいことしか、やらなくて済むようになる。みんなが笑顔になれる日が、必ず訪れるから。
※本文は公益財団法人勤労青少年躍進会と一般社団法人日本勤労青少年団体協議会が主催する『若ものを考えるつどい2022』エッセイコンテストにて、入賞させていただきました。 http://www.nikkinkyo.org/tsudoi/2022/bosyu.html