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桜の木と薔薇

今朝、いつものように庭の植木に水やりをしながらふと見ると黄色い薔薇が咲いていた。この薔薇の木は白バラで夏中たくさんの花を咲かせているが、黄色の花が咲いたのは初めてだ。

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不思議なのは色だけでは無い。花びらの形や咲き方も違う。接木など高度かつ面倒な事も一切やっていない。突然変異としか思えない。
世の中には説明が付かない事が沢山ある。
私の勝手な想像だが、これはもしかしたら桜の木からの御礼なのではと思った。

我が家と隣家の間に大きな桜の木がある。
桜の木は隣家の土地に植わっているが、その枝は我が家の庭の方へ大きく伸びていた。
今の家に引っ越してきてから11年。その間に桜の木もぐんぐん成長して屋根の高さと同じくらいになった。
毎年見事な花を咲かせて、皆の目を楽しませていた。

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ただ大きくなり過ぎて、その根っこは地面を持ち上げ我が家の庭のshedのドアも開きづらくなり、敷いてあった重いコンクリートのタイルさえ持ち上げるようになった。
そして伸びた枝は我が家の庭に覆い被さって夏の日光を遮るようになってきた。

根っこに関しては、我が家の同居人たちがタイルをあげてその部分の根っこを切った。根っことはいえ太さが20cmぐらいあった。
枝に関しては、洗濯ロープに掛かりそうなところだけ切ったが、背丈が高過ぎて届かないので放置しておいた。
それはそれで、ここだけ森の中に佇んでいるようで気に入っていた。

冬のある日、お隣さんと偶々玄関先で出会って桜の木の話になった。
私は出来れば、あまりにも高すぎる上の枝だけ切ってもらえると助かるとお願いした。お隣の木だから我が家が勝手に伐採するのは申し訳ないと思ったからだ。

また今年も春が来て、沢山の花を咲かせその下で花見を楽しんだ。

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すっかり桜の木の枝を切って欲しいと隣家にお願いしていたことは忘れていた。

コロナ対策のロックダウンに入って、誰とも会えない日々が始まってひと月が経った頃、我が家の同居人Aが隣家のお姉さんと垣根越しに話をしていた。
戻ってきたAが言うには「隣家で桜の木を切り倒すそうだ。根っこが庭のshedを持ち上げてドアが開かなくなってきたらしい。」

私はショックで涙が出てきた。この大好きな桜の木が切り倒されてしまうなんて。

Aが「お隣に行って、直接話してきた方がいいんじゃないかな」と言うが、こんなロックダウンの最中お隣に会いに行くのは躊躇した。

手紙を書いてポストに入れようかとか数日悩んでいた。
しかし、機会はすぐに訪れた。

玄関を出たら、ちょうど隣のお姉さんがガーデニングをしていた。
垣根越しに先日Aから聞いた桜の木伐採の事を聞いた。
お姉さんは「そうなのよ。根っこが大きくなっちゃってね。あと貴方から頼まれた枝の件もあったから、いっそ根元から切ってしまおうと業者にお願いしてあったの。3月下旬に切る予定だったんだけど、ロックダウン入っちゃったから延期になってね。。」

私は悲しくなって、我が家でも根っこは地面を押し上げていたけど、そこだけ根っこを切った事、確かに枝を切って欲しいと言ったけど、切り倒して欲しいとは思っていなかった事を説明した。

お姉さんは「でも、もう専門家にお願いしてあるし。。」と。

もう住むことは無い日本、いつ見られる分からない故郷日本の桜、この桜の木が毎年沢山の花を咲かせてくれる事で私を慰めてくれている事を話しているうちに涙がボロボロ出てきて、言葉に詰まった。

それを見て、お姉さんが「私たち、もうちょっと話しすれば良かったね。私はウチの桜の木が伸び過ぎて迷惑をかけていると思っていた。私の母もこの桜の花が好きなので残念がっていた。でも根っこは伸び過ぎて、shedはともかく家の建物自体に影響があったら切らなくてはいけない。専門家とよく相談するから。だからもう泣かないで。」と優しく言ってくれた。

そうしている間に桜の木は大量のサクランボの実を付けた。
沢山の鳥たちが実を摘みに来て賑やかな毎日だった。
庭の藤棚にブラックバードのヒナが育っていて、毎日何回も親鳥がサクランボの実を届けているのを見るのは微笑ましかった。

そうしてサクランボの実も全て無くなり、ヒナも巣立った。

ある朝、隣家の庭でお姉さんと誰かが話しをしているのが聞こえた。
私の部屋は桜の木の正面、隣家と壁を隔てた二階なので隣家の庭の一部が見える。桜の木の下で作業服を着た人と話をしていた。
そして、ノコギリの音と共にまず大きな林檎の木の上の方の枝を切り始めた。
隣家の林檎の木は屋根よりも高く枝も方々に長く伸びていた。
Magpie(カササギ)のヒナも全て巣立ちしたあとで良かったと思った。
この林檎の木は枝がかなり短く切られ丸裸になった。

いよいよ桜の木の番だった。
木に登って高い枝をノコギリで切り始めた。
この時点で、この木が根元から伐採される事は無いと分かって安心した。
お昼過ぎに作業服の人が我が家の庭に入らせて欲しいとやって来た。
ゲートを開けて庭に入れると、長い棒の先についたハサミで高い枝を切り始めた。
洗濯ロープに掛からない程度に短く、でも枝を切り落とし過ぎず綺麗な形の桜の木にトリムしてくれた。隣のお姉さんの計らいだった。

私は大きな木には聖霊が宿っていると信じている。
木は抱きしめると冷んやりするけど、暖かさを感じる。
心の中で植物や木に話し掛けている。もちろん答えてはくれないけど聞いてくれるだけで心が癒される。

桜の木が綺麗にトリムされた夜、この木がまたここに居てくれる事が嬉しくて桜の木に手を当てて話をした。ほんと良かったね。

8月に入ってから、私の体調はあまり優れずにいた。
大学卒業してしまった事で、急に緊張の糸が切れたような、穴がぽっかり空いたような気持ちであった。
コロナの最中、まだ先行きの見通しも無い。
恐らく精神的にストレスが溜まっているのかもしれない。

昔、母が「そういう時は黄色い花を飾るのよ。明るい気分になるからね!」と言っていた。
しかし我が家に黄色い花は無いし、コロナが怖くてまだ外にも出たく無い。
家の中には庭に咲いているピンクや白の薔薇や紫陽花をあちこちに飾っている。
白薔薇はヨークシャーの花なので特に大好きで、亡くなった相方の父の遺影にしょっちゅうお供えしている。
亡くなった義父は心が海のように慈悲深い人だった。亡くなる直前まで看護師さんをジョークで笑わせたり、亡くなった後は医学生の為に役立てて欲しいと献体をし、半年後に遺灰だけが戻って来た。
ロンドン出身の義父の故郷はイングランドなので、ニュージーランドの実家から遺灰を分けてもらって我が家に今も遺影と共に置いてある。いつも我が家を守ってくれている気がしている。

この黄色い薔薇は義父と桜の木の精霊からの私へのプレゼントな気がして仕方がない。
昔、義父が私にサプライズでプレゼントをくれたように、この突然変異の黄色い薔薇を見ていると、ニヤって笑ってウインクしている義父の顔が見えた気がした。

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