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正しい競争をする商売人としてのあり方

松下幸之助 一日一話
12月15日 正しい競争を

私どもが会社を経営していくときに、同業会社と非常な競争になります。競争はしなければならない。しかしそれは正しい形においてなさなければなりません。卑怯な競争はしてはならない、まして相手を倒すとか、相手に損害を加えるというような競争の仕方であってはならない、というのが、事業をはじめて以来一貫した私の指導精神です。競争会社があってこそわれわれのはげみになるのだ、そういうように競争会社を発展的に見なければならないと考え、また社員の人にも言ってきました。

われわれは実業人であると同時に、やはり紳士でなければならない、正しい商売を遂行していかなければならないと思うのです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

松下翁は、会社経営において競合他社との競争は必要であるとした上で、「正しい競争の仕方」で競争しなければならないとしています。「正しい競争の仕方」の一つである、「競争会社を発展的に見る」とはどのようなことなのでしょうか。

商売や経営における競争と、政治における競争は同じであるとした上で「競争会社を発展的に見る」具体的な方法について、松下翁は以下のように述べています。

 今PHPではな、衆知を集めるつもりなんや。いろんな人のいろんなアイデアがあるけどな、どのアイデアがまちがってるかを指摘するより、まずそのアイデアのいいところを集めようと、こういう考えをもっているんや。ところが諸君が志す政治の世界になるとな、たとえば選挙演説に行くと、違う党に対してはことごとく反対なんや。

 党が違うから反対するのはいいことなのかもしれんけどな、ぼくはあんなのは損やと思うんや。敵の党の考え方にもいいところはあるやろ。それをもらったらいいのに、みんな抗議しよるわけやな。もう何十年か前でも反対党のことをボロクソに言っていた。反対党はほめへん。今でもそうや。百年一日のごとくやっとるわけや。必ず相手の欠点を言うてる。どの党もみなそうや。あれでは永遠によくならんな。

 相手の党をほめたりしてもええと思うんや。自民党の代議士でも、選挙演説に行ったら、社会党のことをみなくさしている。社会党にもいいところがあるなら、「社会党のおっしゃることはこの点はよろしい、これはぜひやってください」と言う。「しかし、自民党はこういう点はまた違った味でおいしいおまっせ。さあおあがりなさい」という選挙演説があってもええわな。それをことごとくくさしてしまう。ああいうようなことではいかんな。もしぼくが選挙演説をやったら、相手をほめて、そしてそれを頂戴するというようにやるから、衆知が集まるわ。いいとこ取りをするわけや。そのほうが賢いやり方やと思うな。ところが、アメリカに行ってもそうや。反対党をくさしている。どこでもそうや。ああいうやり方をやっておっては日本の政治はよくならんと思うな。

 今度、諸君が立候補したら、反対党をみんなほめたらいい。そういういいところについては、まあ言うたら「全部私のほうで集めて、飲みやすくして、おいしい味つけをして、提供いたします」というように言うたほうがええわけやな。PHPはそういうことを今、言うとるわけや。この世に存在する一切のものは全部有用や。どの品物でもどういうことでも否定したらいかん。全部、これを社会に供しようと言うとるわけや。これがPHPの基本原則や。ここに十四人の人間がおれば、みな持ち味が違うわな。「持ち味が違って、なおよろしい。いろんな持ち味があっていい」と言うたらええわけやな。

 ぼくは、競争相手の企業をくさしたことは一回もない。「ああ、この品物よろしいな」「むこうさんの品物よろしおます。それも、この中にちゃんと入ってます」というてやってきたわけや。われわれ企業経営者は、他の業者を悪く言わない。けれども、こと政治になると、みんな悪く言うてる。あれ、おかしいと思うな。

 そやから、今度、諸君が立候補することになると、演説をやらなならん。そのときには、皆が感動するような相手の長所を調べて、相手の党はこういうとこにいいところがあるとほめたらええんや。「しかし私らの考え方にはそういうのも入っています。そしてさらに味がよくなっています。だからよりいっそうよろしい」と、こういうふうに話したほうがええと思うな。ところが今の政治家は不思議にそう言わんのや。全部相手をくさしている。それもうまくくさしよる(笑)。あれではいつまでたっても、百年たっても成果は結ばれん。よくならんね。日本の政治はよくならん。
(松下幸之助著「リーダーになる人に知っておいてほしいこと」)

「卑怯な競争」をせずに、「正しい競争」をして勝つということに関して、松下翁は、以下のように具体的な実践をされてきたそうです。

松下 これは戦争前の話ですが、ソケットの原価が十銭かかるんです。それを八銭で売るんですよ。そうしたら二銭損でしょう。日本に製造する会社が五、六軒しかないんですよ。私どももその一つです。これではあんまりもったいないやないか、ということで協調したわけです。

 で、各会社の社長さんが来て、みな調印したんですよ。独禁法も何もないときですから、要するに五軒なら五軒が申し合わせたら、万事そのとおりできるんです。それで調印して、いついつからそれを実行するということになったわけです。それで私は、いやしくも男たるものが記名連判したんやから実行しようと思って、チャッと実行したわけです。

 それから二、三カ月たってから、代理店会議を開いたんですよ。そうしたらぼくに対して非常に囂々(ごうごう)たる非難です。どういう非難かというと、「松下はけしからん。あなたがたは今度協調したらしいけれども、せめて一万個なり二万個なりは、どこも前の値段でみな”勉強”してくれるんだ。ところがきみのところだけはどうしてもしない。もうけしからんと思うているのだ、今まであれだけきみのところをひいきにしてやったのに。きょうはうんと不足を言おうと思ってやってきたのや」と、こう言うわけですわ。

 そのときにぼくはどう言うたか。ぼくはそれを聞いて驚いたわけですね。みなやっていると思っていたのに、やっておらんのですからね。やっているけども、今度協調のために高くするから、今のうちに二万個買うてくれとか、一万個買うてくれと言うて、前の値にするということを、みなやっているわけですわ。やらんのはうちだけですわ。それでは憤慨するのは当たり前ですわ。特にうちに力を入れているところは憤慨しますわな。そういうことがあったんです。

 それでぼくは、「よく分かりました。皆さんの立場になって考えれば、そういう憤慨をなさるのは当然の話です。しかしこれにはこういう事情があります。何月何日に東京で各社の社長が寄って記名連判した。男と男の約束をしたんです。そしてそれを実行したのが私です。みんなも実行していると思ったが、皆さんの話によると、よそは実行しておらない。私は松下は偉いと思う」と一言守ったんです、お得意先にね。

「そういう約束を実行する松下電器というものに、皆さんが不足を言うておられる。こういう連判したものを実行したのは私であるということを知ってもらいたい。そういうように約束を正しく実行する者を頼みになさるんであれば、今後も売ってください。そんな約束を守るやつはけしからんというのであったら、私はもう取引してもらわんでよろしい」とやってやったんです。

 そうしたらみんな、「よう分かった。そう言われたらそうやなあ」ということで、一言もありませんわ。それから私に対する信頼が篤くなった。それからぐっと私のほうは重きをなしたわけです。そうなると私が信用を博するために皆が損をしてくれたのと一緒ですわな。(笑)そういうことです。商売というのは面白いもんですよ。

 人間というものは、欲ばかりではいかんのですわ。それをやることの正しさというのは認めてくれるんです。私はそのとき瞬間に思ったですよ。”ああよそはやらんのか。頼りないやっちゃなあ”と。私は非常に誇りを感じたんです。で、その誇りを感じたとおりにパッと言うたわけです。皆さんがそういう松下電器を信頼されるのか信頼されないのか、私は皆さんとの約束もこのとおり守ると。そういう話をしたらいっぺんに信用絶大で、儲けているのは私がいちばん儲けているんや。(笑)

 そのときに、そういう競争の激しいときでも、行く道があると私は思ったんです。結局、正しい者が最後は勝つというのは、そういうことが結びつくということですね。
(松下幸之助著「社長になる人に知っておいてほしいこと」より)

消費者ニーズが多様化し市場環境が目まぐるしく変化する競争の激しい時代においては、かつてのように一度利益の源泉を生み出せば10年は維持できたものが、今では1年も維持することが難しい状態となったにも関わらず、過去の成功体験に執着するあまり、すべきことをせず、発明や創意工夫がない、或いは、他社より一歩遅れた企業は自らで競争に負け没落していくようになりました。

企業経営においては、成果に影響を与える要素が複雑多岐にわたりますので、社内にある様々な経営リソースを上手くマネジメントできる経営者であるか否かによって、成果には百倍も千倍もの差が出てくることになります。簡単には、同じ企業を経営するにおいても経営者が変われば、経営者の能力に応じて結果も大きく変わってくるということです。

そんな中で能力に影響を与える経営者の考え方の一つとして、上記で述べた「松下翁のような商売人としてのあり方」が重要になるのではないかと私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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