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社長を使うためには

松下幸之助 一日一話
10月29日 社長を使う

私はいつも社長をもっと使ってくれというのです。「こういう問題が起こっているのです。これは一ぺん社長が顔を出してください。社長に顔出してもらったら向うも満足します。」「それなら喜んで行こう」というわけです。こういうように社長を使うような社員にならなければならないと思うのです。その会社に社長を使う人間が何人いるか、一人もいなかったらその会社はだめです。しかしほんとうに社長を使う人間が、その会社に十人できたら、その会社は無限に発展すると思います。

また、社長を使わなくても課長や主任を使う。上司が部下を使うことは、普通の姿です。部下が上司を使うことが大事なのです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

松下翁の仰る会社を無限に発展させる「社長を使う社員」や「上司を使う部下」を十人作るためには、先ず「社員に喜んで使われることを望む社長」が必要であり、更には「部下に使われることを拒まない上司」が必要であると言えます。その上で、社員一人ひとりが共通する理念を有する経営者であるという意識を持っていることが不可欠であると言えます。

日本の企業文化においては、以前に比べると薄れてきたとはいえ、終身雇用や年功序列の制度が未だに根強く残っている影響もあり、「部下に使われることを拒む上司」が多く残存しているという事実もあります。仮に、社長が声高に「部下は上司を使いなさい」と呼びかけたとしても、現場レベルでは上司の意識が突然変わることもなく中々浸透しないことが多いのではないでしょうか。企業が大きくなればなるほど、上司と言われる人たちも多種多様となり、畑違いである外部企業からの転職組であったり、人材不足によって能力以上のポストを与えられてしまっているケースなど、様々な要因によって企業に所属していながらトップである社長との意思統一がはかられていないような上司たちも多くいます。

本来であるならば、上司とは部下よりも経験能力のいずれも多く有しているはずであり、部下からしてみますと「上司を使う」というよりも「上司に助けてもらう」あるいは「上司にサポートしてもらう」という感覚になるのではないでしょうか。しかしながら、企業には前述したように多種多様な上司が存在する訳で、能力の低い上司に足を引っ張られ、逆に「上司を助けている」あるいは「上司をサポートしている」部下というのも多くいるのではないでしょうか。そのケースにおいては、「上司を使う」という感覚でも問題ないのかもしれません。

但し、社長というものは通常の上司とは異なり企業の顔であると同時に、「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」というように社長の人格なり能力に比例して、企業の風土や大きさ、発展性などが決まりますので、仮に社長の人格と能力のいずれもが部下よりも低いケースにおいては、ダメな社長を使うことを無理して考えますと、わが身まで危うくなる危険性が高くなりますので、さっさと見切りをつけて別の優秀な社長を見つけるというのも一つの賢明な選択肢ではないかと私は考えます。

また昨今ではボスマネジメントとして、部下が上司を使う技術などが書かれたビジネス書を目にしますが、以前私が読んだ一冊には次のようなことが書かれていました。要約しますと、

「人気のある上司は、部下からの争奪戦が激しくなるので、人気のない上司を狙って上手くコントロールした方が、上司の力を有効に使いやすくなる」

というものでした。組織文化や派閥文化の残る日本らしい発想とも言えます。確かに一理ありますが、部下の立場としてはここで注意すべき点があります。

「人気のある上司は、なぜ人気があるのでしょうか?」
「人気のない上司は、なぜ人気がないのでしょうか?」

ということです。人気のない上司には、やはりそれ相応の理由があるものであり、打算的な理由から人気のない上司の力を利用しようとしますと、ミイラ取りがミイラにされてしまうこともありますので、競争率が高くとも人気のある上司の力を借りられるような部下になる努力をした方が賢明であると私は考えます。

なぜならば人気のある上司というものは大抵が「有能感」を持っていますが、人気のない上司というものは大抵が「劣等感」を強く持っています。劣等感が強い人間ほど、有能感を持つ人間に嫉妬を抱き、自分も立場や肩書を得れば周りから人気がある上司のように慕われると勘違いをし、無理をしてでも立場や肩書を得ようと努力します。しかし、いざ立場や肩書を得ても誰も慕ってくることがなく人気のない上司になってしまいます。すると、立場の弱い部下たちなどに、劣等感の憂さ晴らしを始めますので、更に、人気のない上司になっていきます。他方で、人気のある上司というものは「有能感」を持っていますので、部下にも「有能感」が育つようにサポートをしていきます。部下に有能感が育つのと比例して、更に、人気のある上司になっていきます。

加えて、劣等感の強い上司は、自分が部下に使われるということをとても嫌います。自分が部下に使われることで、努力して手に入れたはずの立場が無意味なものとなってしまい、更に劣等感が強くなるためです。他方で、有能感のある上司は、部下よりも経験能力のいずれもが自分の方が上回っているという認識や余裕がありますから、困っている部下を目にすれば力を貸すのが当然と考え、部下に使われることにあまり抵抗がありません。

社長や上司の立場として、社員や部下に喜んで使われることを望むためには、矜持の精神に似た有能感を有していることが必要であり、それが夜郎自大とはならないよう事上磨練が不可欠であると私は考えています。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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