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何故金利は下がらないのか(雑感)

株価の反騰が続いています。米国株は6月発表のCPIで一時総悲観に傾いたものの、7月には原油価格反落や供給制約解消などインフレ抑制的な材料が次々に出てきたことで「FRBの利上げ姿勢が軟化するのでは?」との観測から値固めに移行、一昨日発表のCPIが市場予想を下回ったことで一気に吹き上がりました。

他方、金利については3%をやや下回る水準で一進一退となっており、株式市場が湧くようなドラスティックな低下は今のところ見られません。

米インフレについては最早多くを語りませんが、22年上半期に見られた耐久財、半耐久財、サービスが同時に上がるという三重苦的な状況は過去2,3ヵ月でかなり解消の目途が立ちました(下図)。今後はサービス、特に家賃がどの程度「根雪」として残り続けるか、そしてFRBが「根雪」を溶かすのにどの程度の引き締めを採用するのかに焦点が当たるでしょう。平たく言えば、「利上げのターミナルレートは何%か?」という議論に帰着し、そのことが株価・金利にクリティカルに効いてきそうです。

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「根雪」である家賃は、ピークは付けたものの高い伸びが続きそうです。住宅ローン金利、住宅価格、CPI「住居費」はそれぞれ1年程度の時間差を置いて連動する性質が観察されます(下図)。この図に従えば、家賃の伸びは23年末まで続き、24年初から急速に減退する、という展開が想定されます。耐久財(自動車)や非耐久財(資源・食料)のインフレは淡雪のように溶けて消えていく一方、サービスインフレの根雪は今後23年いっぱいは残りそうな中、FRBの金融政策はどのように運営されるでしょうか。

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ターミナルレート(以下TR)を探るために、先物市場における23年7月時点の予想FF金利を確認すると、6月以降、原油価格が下落してインフレも鈍化していく一方、TRはあまり下がらなくなってきました(下図)。株式市場では「インフレ鈍化でFRBの引き締めも軟化する」とみる向きもありそうですが、金利(先物)市場では「とりあえず3.25-3.50%まで利上げが続くだろう」という見方が依然支配的です。

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ここで「株式市場は楽観的すぎるから株はいずれ下がる」と予想することは簡単ですが、他方で「これ以上の引き締めは無い」という予想それ自体が株価にとってプラスの面もありそうであり、一概に株の先走りとは言いにくいところです。

話を戻すと、現在市場が織り込んでいるのは、①耐久財価格の押し上げ効果消失、②食品・資源価格の少し遅れた押し上げ効果消失、③来年末まで残る家賃の上昇、というところと思われます。ただ、おそらく現時点では誰も、FRBの行動を変化させうるインフレ率の参照点を持ち合わせておらず、月次統計でパチンコが繰り広げられている状況と推察されます。FRBが政策運営をデータ次第と言ってしまった以上、市場が織り込むFRBの行動もデータ次第でコロコロ変わる状況となってしまい、インフレ統計によるトレードは強い根拠を見出しにくいまま続いているように思われます。

他方、前述のとおり市場はインフレの減衰を織り込んだうえで短期金利↑+長期金利↓の逆イールドを形成しています(下図)。逆イールドを解消するのは、消去法的に(インフレでなければ)景気要因ではないでしょうか。すなわち、景気後退懸念が高まれば短期ゾーンが低下、景気は失速しないと見做されれば中長期ゾーンが上昇するとで、それぞれ逆イールドが解消される展開です。

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今現在インフレは減衰しつつありますが、一部市場(特に株式投資家)はそのことを景気後退観測と一直線で結び付けている向きもありそうです。すなわち、「インフレが収まるのだから当然景気も悪くなりFRBも引き締めを中止せざるを得ず株式はグロース優位」という筋書きです。この場合、今次利上げ局面のターミナルレートも低下という結論が導かれます。

ただ、前noteで書いたとおり、今次インフレには様々な「バブルの残滓」が混ざりこんでおり、インフレが減衰する一方で景気の滞空時間が苛立たしいほどに長い展開もあるでしょう。この場合は長期金利に徐々に上昇圧力がかかり、今現在のターミナルレートが正しい形で順イールドとなりそうです。景気堅調、金利上昇により株価のバリュエーションが毀損されるリセッション「しない」リスクも懸念されますが、最終的にはバリュー株優位となりそうです。

以上、今後の景気動向により金利は短期ゾーン低下、もしくは中長期ゾーン上昇のどちらかに変動する可能性がありますが、個人的にはインフレ鈍化を背景に個人消費は堅調維持、景気は失速を回避すると引き続き予想します。金利は中長期ゾーンがやや上がる方向とみますが、インフレが減速しているために各年限の金利の天井は低く、株価がこれ以上崩れになるような状況は回避される(景気後退時のような大幅な下落は回避する)と予想します。

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※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を勧めるものではありません。

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