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リセッション「しない」リスク

景気後退(リセッション)が警戒されている。足下で下落している米国株のドローダウンは20%に達し、下げ幅の観点では過去の景気後退局面と遜色がなくなってきた(下図)。大手金融機関からも景気後退を予想する見通しが増えつつある。

他方でアナリストが作成する予想EPSは景気後退を予見しているようには見えない。Refinitiv調査では22年、23年の予想EPSは21年を上回り成長が続く見通しとなっている(下図)。アナリストの職務上、景気後退を自身の予想に反映することは難しいのかもしれないが、個人で観測できる範囲でも景気後退を予見する人とそうでない人は半々な感触がある。

https://www.yardeni.com/pub/yriearningsforecast.pdf

今後の米景気は、自律的な回復とインフレによる購買力低下との綱引きになる。ただ、まずもって米国の家計支出の中で食品・燃料(非耐久財)の割合は低下している(下図)。懸念されているガソリン高もオイルショック時には支出の5%前後、GFC前は4%程度を占めていたのに対し、足下では2%程度である。ガソリン高による影響はさほど大きくなく、マインド面だけにとどまるのではないだろうか。

https://apps.bea.gov/iTable/iTable.cfm?reqid=19&step=2#reqid=19&step=2&isuri=1&1921=survey

家賃についても、消費に占める住居費及び光熱費の割合は17-18%程度でほとんど動いていない(下図)。コロナ禍以降家賃の高騰が続いているものの、支出および収入も高水準で伸びていることが家賃による家計圧迫を相殺している。なお過去数十年に渡り米家計を圧迫しているのは医療費である。

家計の膨大な支出を支えているのが資産の増加である。過剰貯蓄とさえ呼ばれる預金はコロナ前のトレンドから明らかに上振れており、19年12月から22年3月にかけて13.4兆ドル→18.5兆ドルと+5兆ドル程度増加した(下図)。足下で逆資産効果が懸念される株式も、同期間において21.1兆ドル→30.3兆ドルとおよそ+9兆ドル増加しており、4~6月にかけて米株が下落したことを踏まえても含み益はまだ残っているだろう。「株が下がって腹が立つ」という気分の問題はあるにせよ、銀行口座も証券口座もカツカツという状況からは程遠いだろう。

https://www.federalreserve.gov/releases/z1/dataviz/z1/balance_sheet/table/

所得が伸びている点も重要である。可処分所得は失業保険上乗せの終了で前年比ベースでは下げているものの、給与所得そのものは堅調に増えている(下図)。強い求人統計を背景に雇用増×賃金増の効果で可処分所得は増加傾向を保とう。

https://apps.bea.gov/iTable/iTable.cfm?reqid=19&step=2#reqid=19&step=2&isuri=1&1921=survey

よりマクロ的な視点では、米国の経済成長に必要な一次燃料も減っている。一次燃料1単位当たり産出されるGDPは経時的に増加しており、米国のエネルギー効率が高まっていることを窺わせる(下図)。経済のサービス化によりエネルギー消費を必要としない産業が栄えたことが背景にある。

米家計はインフレ耐性を強めており、そうやすやすとリセッションに陥るとはみられない一方、すでにマーケットは資源安などを手掛かりにリセッション・トレードに傾斜している。今後の米国はどうあがいても自律的な減速局面に入り、年後半にかけてリセッション・トレード優位な局面が続くとみられる。ISMは50すれすれの「低空飛行」が続き、雇用統計はNFP鈍化と賃金鈍化が発表されよう。金利は徐々に天井が意識され、株式はグロース株の反発が目立つかもしれない。とはいえ、市場の中に異なる見方が並存していることは冒頭に述べたとおりである。アメリカが景気後退しなかったら。FRBが引締めの手を緩めなかったら。その時こそ「もう一波乱」市場に起きるのかもしれない。

※本投稿は情報提供を目的としており投資を推奨するものではありません。

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