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【 シリーズ 】 大学職員の仕事( 4 )

大学職員と聞いた時にまず世間一般的に想像されるのはどのようなイメージだろうか。

大学職員の仕事は大きく分けて「総務」「財務」「教務」の3つの業務があり、各職員がそのうちのいずれかに携わっている。

総務、財務は一般企業における総務部、財務部と同じように、大学全体あるいは各学部における総務業務や財務業務を行う。

対して教務は大学独特の業務であり、学生の学業生活全般を取り扱う分野である。ほとんどの民間企業にはこれに相当する部署はなく、それ故に世間一般的にはその仕事内容をイメージしてもらいにくい仕事でもある。

よく言われるのは学生と直接に接する窓口業務(いわゆる○○学部事務室のようなところでの学生対応)であるが、それ以外の業務についてはあまり知られていない。

ここで書かせていただく「大学職員の仕事」シリーズではこれまで通り、この「教務」のことを書いていこうと思う。

教務の仕事の特徴として、「ミスした後からでは取り返しのつかない業務」があるということが挙げられる。もちろん、民間企業の多くの業務にも当てはまることではあるが、大学教務は学生の進路や人生そのものを左右する業務が多々ある。
その1つがいわゆる大学への「入口」とも言える

「入学試験業務」

である。センター試験(大学入学共通テスト)が終わると受験生の多くはいよいよ各大学の入学試験を受ける。この入学試験は各大学独自で問題作成から採点、合格発表までを行うものである。

例えばこの入試業務において採点等にミスが生じ、本来合格していたはずの学生を不合格とした場合、後からでは取り返しがつかない。採点の詳細は非公開となるため、当該受験生自体がそのことに気づかなかったとしても、決して許されることではないのだ。

一度、この入学試験業務について学内で大事件が起こったことがある。

問題作成、採点まではよかったが、ある学部において「合格発表」でとんでもないミスが起きた。最近では合格発表は各大学のWebサイトで確認する受験生が多く、あらかじめ決められた時間にいっせいにWeb上で公開され、受験生やその保護者もその時間にいっせいに閲覧する。ごくたまにアクセスが集中しすぎて何分か発表が遅れる大学も出てくるほど注目される。

この時も今か今かと待っている数百人の受験生に対して定刻に発表された。多くの受験生にとって進路が決まった瞬間でもあった。しかし、この合格者リストが間違っていたのだ。

担当部署の複数の担当者及び責任者が発表直前に学内PCに保管してあった「前年度」のリストを「今年度」のリストと誤認識し、それをそのまま公表してしまった。当然、本来のリストの合格者の受験番号とはまるっきり違う。担当者及び担当部署が発表5分後に気づき大慌てで今年度のリストに差し替えて公表したが、時すでに遅しだった。

2種類のリストが示されたことでまず「どちらが本当なんだ !」というクレームの電話が殺到し、次に「受かったと思って喜んでいたのに後から不合格とは納得がいかない !」というクレームの電話が相次ぎ、部署はたちまち大パニックになった。

この発表は一度見たらPCを閉じる受験生もかなり多いのでこの段階で事態に気づいていない受験生も数百人規模でいた。そのうちの「幻の合格者」の何割かがいわゆる「滑り止め」で受けていた他大学に入学辞退の電話を早々にしていた。「本命の大学」に受かったことが分かればもう迷うことはほとんどないからだ。

この段階でミスをした大学としてはもう「取り返しがつかない」。辞退の連絡を受けた大学はすぐにWeb等で随時、補欠合格者にいっせいに合格通知をするので、「幻の合格者」の進路は絶たれてしまったからだ。

学内外から批判と混乱のクレームや叱責の外線、内線が1日中鳴り止まない。急遽、本部の広報室と連携を取り公式の謝罪文を作成しそれをWeb上に載せ、受験した数百人の受験生とその保護者全員に文書で謝罪文を速達郵送する作業に大至急取りかかった。

他にも迷惑を与えた他大学に対する謝罪と受験生受け入れ交渉、一面記事に載せた全国紙新聞社への取材対応など、とうてい部署内の人手では対応できない事態となり、学内に在籍する約1000名の教務系職員を総動員し、事態収拾に努めた。

結局、この作業はほぼ毎日、徹夜の泊まり込みで1週間ほどかかり、何とか落ち着いたが、その後もしばらく問い合わせの電話が鳴り止むことはなかった。学長がメディアに対して公式に謝罪し、担当者数名及び責任者は重い懲戒処分を受けた。そして何より受験生やその保護者に対して計り知れない多大な迷惑をかけた。事情を説明しても滑り止め大学に後から合格させてもらえず、やむなく1年間、受験浪人することを決めた受験生も少なからず出てしまったのだった。

もちろん、複数の担当者も担当部署も何重にもチェック、読みあわせをした上で発表内容に間違いがないことを決裁した上での公表だったのだが、担当者がPC上のファイルを選択するという最後の最後の部分で「取り返しのつかない」ミスが出たのだ。ミスという表現で許される範疇をはるかに超える致命的な「事件」であった。大学としての責任を問われるのは当然であった。

今回取り上げた内容は教務の仕事の一部であるが、このように1つの失敗で若者の進路や人生を左右してしまうような「ミスした後では取り返しがつかない」業務が大学教務にはいくつか存在する。そのような業務の時は体が震えるような緊張感や責任感を感じる。

「当たり前のことを当たり前にできる能力と姿勢」。これが大学職員には当たり前に求められる重要な資質なのである。




また、色々な業務について書いていきます。
多くの方に分かるよう言葉に気をつけて書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
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