星と鳥と風3~ミッション1

中には2000万はくだらない札束が綺麗に収納されていた。ベッドの下に同じアタッシュケースがもう3つ程あったから、一億近くのお金がベッドの下にあったと思うと、よく僕はそれに一銭たりとも手を出さなかったなと自分を褒めたくなる。
しかし子供の時からお金という物にあまり興味が無かった。それが大人になった今、大変さを産んでしまっているのだが、、、
小さい頃の僕はどちらかというと丸いものに興味があった。
丸いもの、例えば何か動物の卵だったり。
新品の角が立った消しゴムなんかはスグに角を削って丸くして、削って出たクズを集めてまた丸める。
何がしたかったのかは今でも謎だ。
子供のフェチズムといった所かな?

そんな話はさておき、Sは徐に100万円の札束を取り出し、自分の顔にペンペンしながら僕に、「これ、今日中に使おう!」と言い出した。
流石に気が引けた。
自分家のカツ丼や、お菓子をくすねるのとは訳が違うのはおバカな僕でも理解できたからだ。
それにSのお母さんは働き者で優しくて、当時学校のサッカークラブに入っていたSと、いるのかいないのか分からないような、片親のような僕を気遣って、毎週サッカーの試合や練習を車で送り迎えをしてもらっていた。
【お母さん】
という感覚はこの人から学んだかもしれない。そして、いつも持たせてくれていた絶品な弁当の味を今でも忘れてはいない。

気が引けた僕はSに流石にそれはやめようと伝えたが、Sはそんな事で自分の欲望を諦めるはずもなく、まだ小学校高学年の僕達はポケットに百万円を入れて、自転車に乗って隣町にあるゲーム屋さんに向かった。当時プレイステーションが誕生し、世間を賑わせていたが、Sは当然誰よりも早くそれを持っていた事もあり、「品揃えが悪いな」と吐き捨てて店を出た。品揃えが悪いんじゃなくて、「お前が何でも持ってるだけだよ」とチャリでSの後を追いながらボヤいた。

お腹を空かした僕らは町の小さな喫茶店に入った。

扉を開けると珈琲の香りとタバコの匂いが鼻についたが、同時に【一気に大人になった気分にもなった。】

周りはサラリーマンにマダム達、子供だけで入店するようなお店ではなかったが、綺麗なウェイトレスのお姉さんは僕らを1人の紳士として扱ってくれた。

窓際の席に通されて、メニューとお水が席に並ぶ。
Sは「俺、オムライスにするわ」と言った。
僕は他に食べたい物があったが、子供ながらに遠慮して同じ物を頼んだ。
しかしそのオムライスが半端じゃなく美味かった。
上に少し乗せられていたデミグラスソースはほんの少しワインの香りもしていて、今考えてもやはり

【子供には早すぎる大人な瞬間だった。】

食事を終えた僕らはまだやり終えてないミッション
【今日中に100万使い切りましょう】ミッション
を、果たす為に次なるお店へと向かうのだった。


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