星と鳥と風4~ミッション2
腹を満たした僕らはミッションを達成する為に駄菓子屋に向かった。
そこは、僕ら地域の子供達ほぼ全員が御用達の駄菓子屋で、優しいおばちゃんが1人で切り盛りしていたのだが、万引きも多かったらしく、おばちゃんは優しかったが、おばちゃんの目の奥は鋭く子供達を観察していた。
ふと駄菓子屋のおばちゃんがSを見てポカンと口を開けて、不思議そうな顔をしていた。
それもそのはずで、Sのポケットから大量の万札が体半分飛び出していた。
「おい、出てるぞ」というと、Sは「あぁ」と言って曲がり切らない万札を無造作にまたポケットに押し込んだ。
何を買うか悩んでいたら
「ここからここまで全部下さい」
とSの声が聞こえた。
店内に響き渡る小学生の大人買いのコールで場が凍りついた。
そりゃそうだ。
僕なんか普段300円以内でどれだけ沢山美味しいお菓子を買えるかを、勉強以上に考えて買っていた。他の子達も似たようなもんなはずだ。
場がどよめきたったと同時に、おばちゃんの眉間にシワが深く刻まれた。
おばちゃん 「ほ、本当に?」
S 「本当だよ、早くしてよ」
おばちゃん 「それ、誰のお金なの?」
S 「親が汗水垂らして稼いだお金だよ!
早くしてよ!」
おばちゃん 「•••」
おばちゃんはきっと「親が汗水垂らして稼いだお金だよ!」のパンチラインで脳が混乱したに違いない。ずり落ちそうなメガネと、ポカンと開いた口が今でも忘れられない。
おばちゃん 「一応お家を聞いてもいいかな?」
S 「もう、早くしてって言ってるのに」
Sはイライラしながら、「〇〇ストアーの長男です!」と言った。
おばちゃんは「あ〜」と頷いて全てを察したようだが、それにしても子供がそんな大金を持ってる事に違和感を隠せず、「ちょっと待っててね」と言って奥に小走りで消えていった。
約10分程で帰ってきたと思う。
そして、やっと精算をしてくれた。
うる覚えだが、7.8千円程だったかな。
最後に5本だけ余っていた【チョコバット】という当たり付きのお菓子をSも僕も一本ずつ買って外のベンチで食べたが、結果、余り物のチョコバット全てが【当たり】だった。それが100万円の力なのか、お金の引き寄せが働いたのかは今でも謎だが、時に奇跡は起こるものだ。
結局僕らは一万円程しか使い切らず
一万円程で2人の幸せは充分満たされた。
帰る頃には【今日中に100万円使い切りましょう】
ミッションの事など忘れて、あーだこーだ馬鹿話に花を咲かせながらゆっくり帰った。
帰り着くと、ストアーの前でSのお母さんが仁王立ちで待ち構えていた。
おばちゃんは、鬼のお面でも付けているような今までに見た事ない顔で、すぐにSを抱えて、ズボンもパンツもズリ下げて、尻を激しく叩き始めた。
地区バレー最強のチームで、最強のアタッカーのおばちゃんのお尻ペンペンは見てるだけでヒリヒリした。あれは相当痛かったと思う。
こっそり帰ろうとした僕は強烈なゲンコツを一撃もらってもだえていたが、閉店間際のストアーにはSの雄叫びがこだましていた。
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