【詩】惰眠

言葉のせいだ。ただ空っぽなことにも、知らないうちに名前がついていた。つまり、肌に触れるだけの夜風みたいな無害さは、優しさじゃないってこと。知っているのなら、誰か早く教えてくれればよかったのに、と思って、けれどもすぐに、僕には友達なんてひとりもいないことに気が付いた。僕以外の全人類、いつか起きるために眠っているけれど、僕だけはずっと起きながら眠っているみたいだ。夜に、誰もいない道路の縁石を歩きながら、夢遊病という言葉は、普段起きている人のための言葉なんだと思った。起きて、なにかをしたいひとのための言葉なんだと思った。でもそれなら、いますぐにでも僕を夢から覚まして、一緒に世界征服しようねとか言って欲しかったのに、当たり前みたいに誰も触れない、なにも言わない。なにひとつ叶えられないまま、ずっと、考えているふりをしていた。立ちながら、頬杖をついていた。なにも考えていないけれど、考えていると勘違いした誰かが、突然僕のところにやって来て、魔法みたいに眠りから覚ましてくれるのを、僕は、ずっと夢見ているのだ。

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