【詩】オルゴールの詩

貴方が欲しがっているのはきっと、いつだって、病院の待合室みたいな会話だけだったよ。
オルゴールの音がして、
貴方は、わたしのことを、どこかにある星のように見ていた。どこかから流れてくる音楽のように感じていた。唯一性なんてどこにもなく、貴方もわたしも、幽体としてしか、他人を認識することができなくて、お互いの血液がどんな風に脈打つのかも知らないのに、「好き」というただその言葉だけで、鎖のように繋ぎ止められてしまって、愛とか恋とか、それこそ遥か遠くにある恒星みたいだね。存在するかどうかも分からない。どうしようもなく言葉なんかに、わたしたちを型取ることはできないのに。
解体してみても、きっと、本当の意味で知ることはできないから、形成する脳も心臓も血管も、所詮、ひとつひとつの歯車に過ぎなくて、生きているあいだ、発熱するように考えていたあらゆることについても、なにひとつ証明なんかできない。貴方もわたしも、自分のことさえ分からなくなって、それで、いつかわたしたちが死ぬとき、みんな、かつてわたしたちだった灰を見ていること。みんなみんな違うなんて、愚直に信じていたのは、空ばかり見つめているような、そんな想像力しかわたしたち、持ち合わせていなかったからだね。
わたしの言葉も、貴方の言葉も、この世界にはいらないのだと知りました。遠くのものに焦点が合わなくなるように、徐々に、感覚も色彩も褪せていって、身体ぜんぶが麻痺したように、もうなにも思い出すことはできない。雲ひとつない空の下で、ただ貴方を見ている。深く考えることなく、周囲を取り巻く光景の綺麗さに呆けて、明日も明後日も十年後も、いつか口にしたような言葉をずっと、繰り返していくのでしょう。
ただ貴方の欲しがる言葉を、と思って途切れ途切れの唄を歌っている。途端に死んでしまわないように、何回も何回も、ぜんまいを巻き直すのだ。

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