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記事一覧

【劇評179】三島由紀夫の情熱と冷血。麻実れいの『班女』をめぐって。

 冷ややかな情熱という言葉がある。  もちろん形容矛盾ではあるが、どうもある階級の人々には、情熱のなかに、度しがたいばかりの冷血が潜んでいるようで、三島文学の主題は、この情熱と冷血をいかに作品に共存させるかに腐心していた。  もっとも、小説よりも戯曲が有利なのは、この情熱と冷血を体現する俳優を配役すれば、おおよその仕事が済む。   それは、少し乱暴に言いかえれば、様式的な演技に終始しつつも、ほの暗い情熱の炎を隠している役者。あるいは、情熱的であることは、観客にとって空疎に

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公共施設 指定管理者制度の難しさ

社会教育士の堀田奈津子です。 先日Twitter上で流れてきたニュースで、香川県まんのう町の公共施設「ことなみ未来館」にある子育て世帯に人気の交流スペースを撤去する、というものがありました。 過疎化の進んでいる小さな町で、廃校となった中学校の校舎を活用しオープンしていた施設。町外からの視察も多かった成功事例の1つである場所。 行ったことはないですが、とても良い取り組みだと思っていたのに・・。 撤退原因は様々な要因が絡んだ結果とのことですが、非常に残念です。 今回は、こうした公

ウエクミ対談シリーズ:市原佐都子

オペラを初めて演出した上田久美子が、東京公演を観劇した様々なジャンルで活躍する知人・友人の感想を聞きながら語り合う対談シリーズ。第3弾は、劇作家・演出家・小説家で、城崎国際アートセンターの芸術監督を務める市原佐都子さんです。市原さんの感じる音楽が持つ力とは?そして話は音楽の起源にまでさかのぼり…!?今までとは少し違う角度からの話となりました。 歌の起源はセックスアピール? 上田:市原さんは私が一番好きな劇作家さんで、なんと観に来てくださったと知り、お話ししたくて対談をお願

ウエクミ対談シリーズ:早霧せいな【後編】イタリア語で歌う町内会。衣裳は私服!

【前編】身体で聴く奇跡の声! 早霧:ところで、今回のコーラスの方たちすごくないですか? 上田:そう!すごいんですよ!よく見てますね! 早霧:歌は統制が取れつつも、上田さんの意図を汲んでか、バラバラのいろんな住人たちがいるというのも体現していて。 上田:そうですよね、町内会にいろんな人がいて、好きで集まってるんじゃなくてたまたま腐れ縁でいろんな人がいて実は気が合ってなかったりするけど一緒にいるみたいなリアリティですよね。 早霧:あの関西に住む人々を演じるコーラスがいる

ウエクミ対談シリーズ:早霧せいな【前編】身体で聴く奇跡の声!

オペラを初めて演出した上田久美子が、東京公演を観劇した様々なジャンルで活躍する知人・友人の感想を聞きながら語り合う対談シリーズ。トップバッターは、元宝塚歌劇団雪組トップスターで、現在はテレビドラマや舞台で活躍する早霧せいなさんです。オペラ観劇が初めてだったという早霧さん。公演の率直な感想から宝塚音楽学校時代の話、この役やりたい!と思った役など、笑いの絶えない対談となりました。 上田:先日は来場ありがとうございました。オペラ初めてだったんですよね? 早霧:そうですね、上田さ

憧れのバトンを繋ぐ

今日、採用活動のお手伝いの一環で、大学生と話す機会があった。うちの会社に興味があるという就職活動中の学生に、これまでの仕事の話や入社したきっかけなどを話す。いわゆるOB訪問だ。 待ち合わせ時間に受付へ行くと、コートを提げ、背筋を真っすぐにして立つ小柄な男性が目に付いた。ピカピカのリクルートスーツがまぶしい。 ビルの場所はすぐわかりましたかとアイスブレイクをしながら、エレベータに乗る。来客用のラウンジへ向かい、端っこの静かな二人席に着いた。木目調のテーブルの端に、窓から差し

拝啓 あなたは誰ですか?

夕暮れのオレンジ色の光の中、気がつくと交通量の多い国道に出ていた。どうやってここまで来たのだろう。ハンドルを右に切ったり左に切ったりしたはず、いつの間に。 プーッ 後ろからクラクションを鳴らされてハッとする。もうほとんど止まりそうな速度になっていた。慌てて路肩に停車する。 考えごとが佳境に入ってしまって、目は開いているのに、過集中になっていたようだ。 9月は心がざわめいた月だった。だからそういう「ぼーっとした集中」が何度もあった。エレベーターに乗っているのに、行く先の

通信制高校に通う子は「可哀想」なのか?

この記事を読んで「ほんまそれ」となりました。 -------------------------------------------------------------------------- 昨年の秋に色々あり、我が家の娘は学校に行けなくなった。 その後さらに色々あり、当時通っていた私立高校から通信制高校に転校した。転校の手続きをしたのが今年の3月末。年度替わりの転校にギリギリで間に合った。いまは、通信制高校の3年生である。 転校を決めるまで、本当に大変だった。

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「ドのつくストレートやから」

「わたし、ちょっと前まで彼女みたいな子がおって」 幼馴染にそう告げられたのは、大学一年のころだった。平然を装った何気ない調子で切り出した彼女には、それでも少しの緊張感が漂っていた。 へえ、それはどこで出会ったん? それってどうやって付き合うみたいな感じになるん? なんで別れたん? 私は興味津々で聞いた。女性が女性と付き合うのが物珍しかったからではない(そういう友達は他にもいる)。そもそもの話として、私は恋愛話が大好きだったのだ。性別がどうであれ、その手の話はぐいぐいのぐい

人形の夢と目覚め

最近はオースティンの人形の目覚めと説明するより、お風呂が沸きましたのメロディーと言った方がお馴染みになったこの曲を、私は人生で2回、発表会で弾いた。 私は幼稚園に通っていたときに、教会でオルガンを習っていた。そして小学校に入学するときには、閑静な住宅地の戸建てのお家に引っ越しをして、リビングにピアノが置かれた。 オルガンをやりたい、ピアノが弾きたい、ピアノを買ってほしいと懇願した覚えがないので、両親が女の子の私に習わせたかったのだと思う。 弟がグローブを買ってもらって父

「あなた」に出会えてよかった

大人も、こんなに楽しんでいいんだ・・・ あまりの驚きに棒立ちになった。40才を過ぎたわたしは、みんなを呆然と見ていた。年齢層もバラバラの男女が自由に体を動かし、満面の笑みでリズムにのり、口を大きく開けて歌っている。 その光景は、わたしにとって一種のカルチャーショックだった。 ♢ 勉強に目覚めたのは中学時代。生まれ育った環境から脱するためには勉強するしかないと思い、コツコツと勉強を続けた。 女だって、自分1人で生きていけるくらい稼げるようにならないと。それは、ある意味

ニンドスハッカッカ、マー!ヒジリキホッキョッキョ。

窓から入ってくる光が、頬の輪廓を形取っている。金色の生毛は、先に行くほど白っぽくなって光る。サラサラの前髪は切り揃えられ、意志の強そうな眉のラインに少しだけかかっている。茶色がかったヘイゼル色の瞳はしっとりと潤んでいて、手元を見つめている。 隣の席のそうちゃんを観察した後、私も手元に目をうつした。 授業中なのに、絵本を読んでいた。 教科書の後ろ側には絵本が隠してある。絵本の中央の綴じ位置から右側は私の机の上にあり、綴じ位置から左側はそうちゃんの机の上にあった。私達は共犯

オリジナルグッズをSUZURIで公開した話

先に公開した「図解」(とりあえずのメモ) 元になった物販の記事はこちら きっかけは、正直あまり覚えていない。発売日を決めたのも実はやるならこの日だな、という後付。ただ、何か今「行動」できることはないか、と考えたとき、「描くこと」が「資産」になりえるのか、できるところを模索してみようか、という気持ちになったのはなんとなく覚えている。 有償でグッズを欲しいと思ってくださった方のもとに届ける。…本当は手元で梱包してメルカリなどで匿名発送みたいなのが、最適解だったのはわかってい

検証:ダメって言わない24時。

子育ては、機嫌が大事だ。至上の命題といってもいい。機嫌よく過ごすのは、なによりも優先される。 それもお父さんお母さん・面倒見る側の人の機嫌だ。子どもを好き勝手していいってことじゃない。こっち側の機嫌が、そのまま子どもの感情に直結するからだ。みんなで機嫌よく過ごすというのは、安心安全たのしいライフの積み重ねに必要です。 でも、子どもって1ミリも止まってない。 えっ?なんで?なにそれ?のフルコンボを秒で繰り出してくるバイタリティ。暴走特急が服着て常にBダッシュ。全然関係ない