見出し画像

アドリブ研 : "Summertime" (4)

 1:曲について    
 2:Kさん(tb)作例   
 3:私(tb)作例
 4:岩田さん(gt)作例 ←Now

Index


さて、今回の目玉。
ギタリストの岩田隼さん。最近岡山にやってきた俊英のギタリストです。

岡山に来て早速、ライブも精力的に参加していて存在感を発揮しています。

彼と話をしていて、Summertimeの作例を快諾いただきました。
ほんで、すんげーの送って来た(笑)。

最初頂いた譜面は、3/4で記載され、Key in Dmの譜面でした。
(巻末に掲載しようかと思います)
さすがに他の作例とあわせるために、6/8で記載しなおし、Amに移調させています。細かい記譜は若干手直ししています。

こんな感じ。どうだ!

岩田さん作例:

Fig.1a "Summertime" by I (G clef)

うぉーすげー。
音域が広いね。そして、譜面が「黒い!」
トロンボニストの私には、この譜面吹けません……

彼自身のコメントをまずどうぞ。

アイディアのポイントとしては...
1: 3拍子にして緊張感を演出
2: Am7→Abm7→Gm7のクリシェ
3: ドミナントで緊張感を強く意識
4: テーマのメロディを大切に

私がソロを取るときに一番意識することはテーマのメロディです。
Play melodies from melodies.
これは私の師匠のPeter Bernstein の教えでもあるのですが...
アドリブってなんのためにするのか?
それは原曲を発展させて新たな曲の一面を見出すことなんじゃないかと考えています...(偉そうにすみません...笑)

Iさんコメント

いや素晴らしいです。完全に一つの作品ですよ。これ。
「添削」する部分は正直ないので、むしろアイデアの言語化(つまりアナリゼ)に徹しようと思います。

Aパート

Fig.2 "Summertime" A by I

まずはターンバック。いきなりかましてくれちゃってます。
岩田さんのコメントにもあるように、このターンバックはまぎれもなくドミナントであり、割とリズムも音使いも緊張度の高いフレージング。
そのあとA冒頭のテーマメロディのモチーフに解決する感じ。緊張と緩和のバランスがいいですね。
ただ、管楽器だったら上がりきった直後にふつうの音域に下がるのは、通常吹けない。ギターいいなー笑。
6/8は1小節が16分音符12個です。2x3x2みたいに割るのが普通の感覚だと思いますが、3x4で割ってもいいし、4x3で割ってもいい。
 これを自由に組み合わせてリズム上の緊張感(リズム・テンション)を出すというのも、一つのアプローチです。
ここでは6つの音のフレーズx2 個の繰り返し。
3つずつトライアドとそのルートを想定するとEm-Am-(F)-Bbくらい、かなあ。(Fはちょっと自信ないです…)。最後のBbはE7のAlteredと解釈するのが自然でしょうね。

1小節目〜2小節目:1小節目がテーマのモチーフ、それを半音で下降させている。音形でいえば、Am→Abm→Gm。
で、3小節目Amに戻っている。
ここは非常に挑戦的なアプローチです。シンプルなメロを提示し、新たなコードを予感させるフレーズ。リハモといってもいいかもしれませんね。
二小節目|Abm Gm|をどう考えるべきでしょうか。
GmはBb7から派生したトライアド。冒頭と同じくE7の代理コードとしてBb7を想定すると理解しやすいでしょう。
Abmはどう考えるか?単純にPassing Chordと処理してもいいですが、厳密に考えるならB7…ですかね。半音上からのセカンダリー・ドミナント。しかし、そういうゴリッゴリのぶつかる感じではなく、あくまでまろやかなサウンドです。繊細さの中にアバンギャルドさがある感じです。
3小節目はシンプルにAmナチュラルマイナー。
4小節目はA7のC#を効かせてフレーズ。
5−6小節目は強いてコードをつけるならDm11 Cm11となりますか。6小節目のF7の構成音のEbがきちんと効いているフレーズ。

ここまで、岩田さんはマイナーコンバージョン的といいますか、マイナートライアドをとっかかりにフレージングする手法を散見します。
ギター的といえばギター的かもしれません。
8小節目:これもBパートの冒頭に向けて、攻めた音使いです。Whole toneなのでE7オーギュメントコードと考えるべきですかね。
Fの音だけがこのスケーリングからはずれていますが、E7+-9と考えるべきなんでしょうか。

Bパート

Fig.3 "Summertime" B by I

1小節目:半音で下降するライン。なんかで聴いたことがある定番。
オールドスクールのフレーズです。スウィング時代のクラリネットとかにありそうなやつ。Cliche風の効果があります。
2小節目はマイナー・ブルース・スケールですね。2小節目は3x4でフレーズを割っていて、いわゆるポリリズミックな3拍4連。
この辺はスウィング時代の雰囲気のある音使いでありつつ、リズムはポリリズミックで攻めている部分です。Old-Newな感じでしょうか。
3小節目は8分音符の3連でさらにリズムを加速した上で、終止。
ちょっとよたった感じがいいですね。メロディック・マイナーのF#で解決していますが、これも終止のAm6感という雰囲気でしょうか。
5小節目はテーマに同じ。
6小節目:ここも E7+のWhole Toneで、7小節目のAにバシッと着地。
8小節目:ここは4つめのB(これはCへのPassing Toneと考えましょう)を除けば再びE7+で考えて良さそうです。


Cパート

Fig.4 "Summertime" C by I 

1小節目:再びテーマモチーフに戻ります。緊張感の強いドミナント部のあとにはシンプルなテーマモチーフに戻るのがIさんのいいところですね。緩急がついている感じ。
2小節目:A-D#-Aの繰り返しで上行。
B7もしくはF7のTritoneと考えるべきでしょうか。それを3x4の3つ割。
リズム的も音使いも不安定感満載のアウトサイドフレーズです。
これ理論的には何だろ?
E7に対して半音上のF7をぶつけていると考えるのが一番シンプルですかね。
3小節目:ここはマイナー・ブルース・スケール。
4小節目:ここはシンプルにナチュラルマイナーのAmでフレージング。
3−4小節は音形はそれなりに盛り上がりますが、フレーズ緊張度という意味ではおとなしめ。2小節目のバリバリのアウトサイドとの対比という点でコントラストを作っているようです。
5−6小節目:ここもDmのモチーフからクールに攻めているところです。
5小節目は Dm7のマイナースケールの構成音ですが、全音下降しているのは、その次の6小節目のフリだと思う。
6小節目。構成音としては、前半 F pentatonic phrase、後半 Eb pentatonicと考えましょう。それぞれに対応するコードフィギュア、とも考えましたが、F7の構成音がF pentaもEb pentaも含んでいるので、F7を想定してペンタトニックフレーズと考えるのが妥当な気がします。
そこから逆算思考で5小節目が作られたということでしょうか。

僕も含めて管楽器の方はそこまでペンタトニックを使わないですが、
F7に対しては、F penta, Eb penta, B penta, F# penta がコードの機能を壊さずに使えることは覚えておいてください。

8小節目:これ、ちょっとわかりにくいんですけど音を5つずつくくると、似たような音形になっています。
音はやはりWhole tone。Fだけはこのスケールに入らないけどAパートと奇しくも同じ音使い。
E7+-9は確信犯的な音使いであることがはっきりしました(笑)

Dパート

Fig.5 "Summertime" C by I 

1−2小節目はAパートと同じ半音進行のトライアド。
3小節目:これは Aドリアンと考えてますね。
3-4小節は、|Am7-D7 |Dm7-Db7|という感じでしょうか。
4小節目は 6x2のフレーズで、ダイアトニック〜オルタードの対称性がいいですね。5〜8はメロに戻って、クールダウン。
お疲れさまでした。

まとめ:

音数も多く、リズムに関しても自由にポリリズム的なフレーズを繰り出してはいますが、フレーズは、きちんとジャズの語法にのっとったものです。
でも不自由には聴こえませんから、きちんと理論的な部分が腹に入っている人のソロです。
A/Cパートにもありましたが、コードに沿ったフレージングではなく、フレーズが、新たなコードを生み出すというか、むしろ別のコードを予感させるサウンド。クリエイティブです。

なおかつ、おっしゃったとおり、ドミナントでの緊張感とトニックでの緩和(このときにメロディに「戻ってくる」感じ)とのいったりきたりが、緩急と抑揚の点で効果的ですね。

素晴らしいと思いました。

おそらくですが、岩田さんが念頭においているドミナントのイメージは、僕が知っている中だと、John Coltraneが"My Favorite Things"でやっている雰囲気(Aパートの冒頭からKey in DmでA7+でひっぱるやつ)でしょうか。

「ツーにきてファイブにきてワン」とコードを追うのではなく、
ファイブの浮遊感、さらにAugumentで緊張感を強調している感じですね。

コンテンポラリーでは、コーダルな処理ではなくモーダルな感じでフレーズを処理することが多いのですが、その場合コードを細分化せずに、一つの領域がそれなりに広い方がフレージングしやすい。
特に細分化したコードに対し、器用にフレーズをはめていくのがビバップなんですが、モードを経て「モーダル・コーダル」がコンテンポラリーの世界のスタイルだと思いますが、そういう世界では、ツーファイブではなく「ファイブ」で押す印象があります。

現代テニスで、サーブ&ボレーのスタイルがではトップランク入りが難しいように、ベタベタのビバップ、ツー・ファイブ、スタイルというのは、古き佳き時代の産物なのかもしれません…。

今回の岩田さんの作例は、いわゆる中級者というのを完全に超えておりまして、むしろ私のアナリゼ力が試された回であるといえましょう。ふー。
ところどころ自信がない部分もありますので、ご指摘いただけると幸いです。

以前に「スケールの話」でも述べました。
ピロピロ演奏するには、ピロピロの「語法」がやはり必要です。
私は、いわゆるビバップで8分音符のフレーズを演奏する場合は、必ずしも
Available Note Scaleは要らないと思っていますが、これくらい音が詰まってきた場合はこうしたスケールみたいな要素を考える必要があると思います。

おまけ:音源:

iPad Notionで作成した音源です。

ここから先は

74字 / 2ファイル

¥ 100

よろしければサポートお願いいたします!サポート頂いたものについては公開して、使途はみんなで決めたいと思います。