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美味しくなあれ、と念じること

やたらと美味しいコーヒーを淹れる友達がいる。

アーソンとは、ライブハウスで知り合って、もうずいぶん経つ。
バンドをやっていたはずだったのに、気づいたら弾き語りのミュージシャンになっていて、
気づいたら、アーソンがコーヒーを提供するイベント「アーソン珈琲店」を開催していた。

弾き語りを始めたばかりのわたしのことを、いちばん気にかけて、うたのことを教えてくれたのもアーソンだった。
いくつ年上なのかは毎度忘れてしまうけど、わたしにとって親しい友人であり、兄貴分だ。


そして、アーソンの淹れるコーヒーは美味しい。

どれくらい美味しいかって言うと、ふだんコーヒーをブラックで飲まない友達が、おそるおそる口をつけると「あ、美味しい」と笑顔になってしまうくらい。

わたしは、シナモンがすごく苦手なんだけど(ほんとうに吐きそうになったことがある…)、アーソンの淹れてくれるシナモン入りのチャイだけは、美味しく飲める。
「シナモン嫌いだし、いいよチャイは〜」なんて言ったわたしに、「絶対に大丈夫」と押し切られて飲んでみたんだけど、また飲みたいと思える味だった。
もちろん、シナモンが苦手と申告してあってので量は調整してくれたのだと思うけど、ほんとうに奇跡の飲み物だった。


「どうやったら、コーヒーを美味しく淹れられるの?」

ある日わたしは、アーソンに尋ねた。
使っている器具こそ違えど、「ペーパードリップ」という同じ方法で、わたしもコーヒーを淹れている。
こんなコーヒーを、うちでも飲みたい。

「美味しくなあれ、って念じることだよ」

アーソンは、いつもみたいに笑って答えた。

わたしは、唇を尖らせた。
またばかにしやがって、このクソ兄貴。
口にしなかったけど、そう思ったことを覚えている。



わたしはいまでも、コーヒーをペーパードリップしている。
コーヒーを淹れるときにしか使わない、口の細いケトルから、ゆっくりとお湯を落とす。
煙草を吸いながら、このあとなにをしようかな、noteに書く記事の内容を考えたりしながら、ケトルを少しずつ傾ける。
とにかく、ゆっくりと。

コーヒーを淹れるコツは、確かにいくつかあるのだと思う。
最初にお湯を落としたあと、しばらくコーヒー豆を蒸らす時間を取るとか
先にカップやサーバーを、お湯であたたかくしておくとか
しっかりと分量を計るとか
口の細いケトルを使うとか

いろいろあるかもしれないけれど、
いろいろ手間暇を掛け過ぎたくないわたしが、日頃できることがあるとすれば、それは「お湯をゆっくりと落とすことだけ」なのかもしれない。

ある日わたしは、そんなふうに思った。
そのとき、時間に追われていたのか、「早くコーヒーを飲みたい」と思っていたのかは、もう覚えていない。
でも、お湯をザバザバと落としてしまったことを、反省した瞬間だった。
いけない、これじゃあダメだ、と自分を嗜めた。

そして、あの言葉がふっと浮かんできた。
「美味しくなあれ、と念じることだよ」

もちろん、アーソンがわたしの家に来て、コーヒーの淹れ方を指南してくれるなら、もっと言葉はあったのだと思う。
でもあのとき、たったひとことで「美味しいコーヒーを淹れるコツ」を答えなければいけないとしたら、やっぱりこの一言に尽きるのではないだろうか。
いまは、そんなふうに思っている。
ばかにしやがって、と思ってごめん。

美味しくなあれ、と思っていれば、手元は自然とゆっくりになる。
ゆっくりと念じるように、お湯を落としてゆく。
ぽたぽたと落ちる雫を、やさしい気持ちで見守る。

今日、少し急いでいたわたしは
やっぱり、”コーヒーを美味しくいれる魔法の言葉”を思い出していた。




アーソンは、めちゃくちゃ格好良い曲を歌うミュージシャンの先輩でもあります。
コイツ、自分の魅力わかってるな!と思う。
アーソンの声で、アーソンの曲を歌われると、きっと好きになっちゃう。唯一無二のアーティスト。
気になる方は、各種サブスクからどうぞ。→リンクはこちら
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