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希望の残骸を、拾い集めて

(ああ、そういうことだったのか…)
まどろみの中、わたしは理解した。

わたしは寝床にしていたソファーで、寝返りを打つ。
一度目が覚めてから、既に1時間が経過していた。
そろそろ、起きなくては…と思いながら、スマートフォンに手を伸ばす。

大好きなライターさんである”ちゃこさん”が、記事を更新していた。
わたしはまどろみながら、朝のご褒美を与えられた子供のように、記事を読む。

そうして、唐突に理解した。
ああ、そういうことだったのか。

お友達の「嬉しい出来事」から語られる、ちゃこさんの話。
少しだけ、ちゃこさんの記事から引用させていただきます。

「成功体験」という言葉が苦手だ。言葉の意味も苦手だ。なぜかって成功体験は二度目から喜びが激減するから。

それが二度目三度目になると徐々に感動が天井を叩かなくなって、大事な痛点が麻痺していくように感じられた。

「何度も同じことで喜ぶ自分は"はしたない"」と、なぜか自分に強めに当たってしまうのだ。

わかる、と思った。
特に、「はしたない」という言葉が、絶妙に心に響いた。

意識はしていなかったけれど、そう思っていた。
そしてそれをわたしは、あまりに「当然のこと」として、深掘りせずに過ごしていた。

わたしはかつて、バンドマンだった。
仕事をしながら、ライブ活動をする日々だった。

22歳、大学生。
わたしは、大学の軽音部の先輩とユニットを組んだ。
わたしたちの音楽は、感覚が近く、一緒に音を鳴らせるのが楽しかった。

大学の軽音部以外のイベントに出るのが夢で、その夢は早々に叶った。
mixi…マイスペースだったかもしれない、とにかく何かSNSを通して、イベントに誘ってくれたお姉さんがいた。

最初にメッセージでお誘いがきたときは、信じられない!という気持ちだった。
わたしたちでいいのか? とにかく一度話をして、やっぱりわたしたちいいのか回答してください、みたいな返事をしたと思う。

それから大学を出て、ライブをやる場所がなかったので、わたしが働いているライブハウスで、自分でイベントを企画した。

そのときのライブ音源とか、デモCDとかをオーディオリーフに載せた。
このときの夢は「都内でライブをすること」で、渋谷のいくつかのライブハウスから声をかけてもらった。
「渋谷?? 渋谷でライブしていいの?? このライブハウス、名前知ってるよ??」と、わたしは浮かれていた。

そして、わたしたちは大きなものから小さなものまで、夢を語り合った。
「友達」じゃなくて、「お客さん」からライブの予約をもらいたい、とか
CDを作りたい、とか
ラジオに出演させてもらったこともあった。

最初はぜんぶ、ほんとうに、飛び上がるほど嬉しかった。
「わたしたちが?? いいの??」「ほんとうに??」と思っていた。

特に最初のCD、
歌詞カードを作ってもらって、アビーロードスタジオ(イギリスの、あの本物の)にマスタリング作業を委託して、プレス会社にデータを入稿して、フィルム包装、盤面印刷もした。
思いっきりのときめきを詰め込んだ。
5曲入り500円で販売したCDは、値段と「1作目」ということもあって、500枚プレスしたCDはもうほとんど残っていない。

あんなときめきだったのに、と思う。

ときめきながら、階段を上がったのに。
上がってしまったその先では、それが「当然」になる。

次のCDは?
次のライブは?
ワンマンはやらないの?

夢を叶えていたはずなのに、もがいていた。
時々振り返って「あんなにたくさんの夢を叶えてきたんだ」と、自分に言い聞かせることで、なんとか立ち続けていた。

当たり前になってしまった、かつての「夢」に、何度もはしゃぐことを
わたしは無意識下で、「はしたない」と思っていた。
こっそり、自分の心の中とか、友達の前でだけ、「かつての夢」を語っていた。

この夢は叶えたから、次の夢を設定しなくてはならない。
ずっとそんなふうに、焦っていた。

最初は、あなたと音楽をやりたいだけだった。
あなたと、曲を作りたかった。
知らないところでライブをして、まだ見ぬ誰かと出会いたかった。
それだけだった。

覚えているよ、とわたしは言う。

友達を、時々そうして励ます。
わたしは、覚えているからね。

あなたが、漫画を描けなかったときのこと
あなたが、ギターを弾けなかったときのこと
あなたが、はじめてカメラを持ったあのときのこと

いろんなものが当たり前になっちゃったね。
でも、何もないところから今日まで、歩いてきたんだよ。

それも、漫画とか、ギターとか、カメラとか
同じものを持ち続けて。
絶望しながらも、嫌いにならずに。

あなたは、前を向いたらいい。
もがいて、苦しんで、進もうとしてくれたらいい。

でもわたしはその隣で、「あなたの今まで」を愛している。
あなたが語った「かつての夢」を、
もう、残骸みたいになっちゃった希望のかけらを、拾い集めている。

だから、わたしが隣で
「最初はなんにもできなかったくせに!」と、笑いながら、煙草を吹かしてあげる。

「頑張ってきた」っていうのは、急に漫画が書けるようになったわけじゃなくて
「小さな挑戦を積み上げてきたものが漫画になっただけ」なんだって。
最初は「漫画が好きなだけ」だったって、
わたしずっと、覚えているよ。
そして、ひとつひとつのチャンスを掴み、ピンチを乗り越え、今日もペンを握っている。
そのことを、何度もあなたに伝えるよ。

わたしはいま、少しだけ気持ちがすっきりしている。

二度目、三度目の「成功」は、一度目と同じ輝きを放たない、という事実は、やっぱりちょっとだけ寂しい気がする。
でも、その事実を理解して、受け止めて
おとなのふりをして、笑って
支え合っていけばいい。

わたしの旅路は、あなたが覚えていて。
たまに褒めてくれたら、嬉しいよ。



【photo】 amano yasuhiro
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【model】 ハルナ
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