希望の残骸を、拾い集めて
(ああ、そういうことだったのか…)
まどろみの中、わたしは理解した。
わたしは寝床にしていたソファーで、寝返りを打つ。
一度目が覚めてから、既に1時間が経過していた。
そろそろ、起きなくては…と思いながら、スマートフォンに手を伸ばす。
大好きなライターさんである”ちゃこさん”が、記事を更新していた。
わたしはまどろみながら、朝のご褒美を与えられた子供のように、記事を読む。
そうして、唐突に理解した。
ああ、そういうことだったのか。
*
お友達の「嬉しい出来事」から語られる、ちゃこさんの話。
少しだけ、ちゃこさんの記事から引用させていただきます。
*
わかる、と思った。
特に、「はしたない」という言葉が、絶妙に心に響いた。
意識はしていなかったけれど、そう思っていた。
そしてそれをわたしは、あまりに「当然のこと」として、深掘りせずに過ごしていた。
*
わたしはかつて、バンドマンだった。
仕事をしながら、ライブ活動をする日々だった。
22歳、大学生。
わたしは、大学の軽音部の先輩とユニットを組んだ。
わたしたちの音楽は、感覚が近く、一緒に音を鳴らせるのが楽しかった。
大学の軽音部以外のイベントに出るのが夢で、その夢は早々に叶った。
mixi…マイスペースだったかもしれない、とにかく何かSNSを通して、イベントに誘ってくれたお姉さんがいた。
最初にメッセージでお誘いがきたときは、信じられない!という気持ちだった。
わたしたちでいいのか? とにかく一度話をして、やっぱりわたしたちいいのか回答してください、みたいな返事をしたと思う。
それから大学を出て、ライブをやる場所がなかったので、わたしが働いているライブハウスで、自分でイベントを企画した。
そのときのライブ音源とか、デモCDとかをオーディオリーフに載せた。
このときの夢は「都内でライブをすること」で、渋谷のいくつかのライブハウスから声をかけてもらった。
「渋谷?? 渋谷でライブしていいの?? このライブハウス、名前知ってるよ??」と、わたしは浮かれていた。
そして、わたしたちは大きなものから小さなものまで、夢を語り合った。
「友達」じゃなくて、「お客さん」からライブの予約をもらいたい、とか
CDを作りたい、とか
ラジオに出演させてもらったこともあった。
最初はぜんぶ、ほんとうに、飛び上がるほど嬉しかった。
「わたしたちが?? いいの??」「ほんとうに??」と思っていた。
特に最初のCD、
歌詞カードを作ってもらって、アビーロードスタジオ(イギリスの、あの本物の)にマスタリング作業を委託して、プレス会社にデータを入稿して、フィルム包装、盤面印刷もした。
思いっきりのときめきを詰め込んだ。
5曲入り500円で販売したCDは、値段と「1作目」ということもあって、500枚プレスしたCDはもうほとんど残っていない。
*
あんなときめきだったのに、と思う。
ときめきながら、階段を上がったのに。
上がってしまったその先では、それが「当然」になる。
次のCDは?
次のライブは?
ワンマンはやらないの?
夢を叶えていたはずなのに、もがいていた。
時々振り返って「あんなにたくさんの夢を叶えてきたんだ」と、自分に言い聞かせることで、なんとか立ち続けていた。
当たり前になってしまった、かつての「夢」に、何度もはしゃぐことを
わたしは無意識下で、「はしたない」と思っていた。
こっそり、自分の心の中とか、友達の前でだけ、「かつての夢」を語っていた。
この夢は叶えたから、次の夢を設定しなくてはならない。
ずっとそんなふうに、焦っていた。
最初は、あなたと音楽をやりたいだけだった。
あなたと、曲を作りたかった。
知らないところでライブをして、まだ見ぬ誰かと出会いたかった。
それだけだった。
*
覚えているよ、とわたしは言う。
友達を、時々そうして励ます。
わたしは、覚えているからね。
あなたが、漫画を描けなかったときのこと
あなたが、ギターを弾けなかったときのこと
あなたが、はじめてカメラを持ったあのときのこと
いろんなものが当たり前になっちゃったね。
でも、何もないところから今日まで、歩いてきたんだよ。
それも、漫画とか、ギターとか、カメラとか
同じものを持ち続けて。
絶望しながらも、嫌いにならずに。
あなたは、前を向いたらいい。
もがいて、苦しんで、進もうとしてくれたらいい。
でもわたしはその隣で、「あなたの今まで」を愛している。
あなたが語った「かつての夢」を、
もう、残骸みたいになっちゃった希望のかけらを、拾い集めている。
だから、わたしが隣で
「最初はなんにもできなかったくせに!」と、笑いながら、煙草を吹かしてあげる。
「頑張ってきた」っていうのは、急に漫画が書けるようになったわけじゃなくて
「小さな挑戦を積み上げてきたものが漫画になっただけ」なんだって。
最初は「漫画が好きなだけ」だったって、
わたしずっと、覚えているよ。
そして、ひとつひとつのチャンスを掴み、ピンチを乗り越え、今日もペンを握っている。
そのことを、何度もあなたに伝えるよ。
*
わたしはいま、少しだけ気持ちがすっきりしている。
二度目、三度目の「成功」は、一度目と同じ輝きを放たない、という事実は、やっぱりちょっとだけ寂しい気がする。
でも、その事実を理解して、受け止めて
おとなのふりをして、笑って
支え合っていけばいい。
わたしの旅路は、あなたが覚えていて。
たまに褒めてくれたら、嬉しいよ。
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