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ご褒美じゃないドーナツ

長くなってしまった昼寝から、目覚める。
えいっと毛布を蹴って、転がっているスマートフォンを持って、部屋を出る。

とりあえず辺りを見回して、目を覚ます。

キッチンにある机の上を見ると、ドーナツが置いてあった。
わたしが眠っているあいだに、同居人がスーパーに行ったようだった。
冷蔵庫を開けてみたら、プラスチックの容器に入ったプリンも置かれている。
ドーナツには、半額のシールが貼ってあった。

昼間にスーパーに行ったときには、わたしも同行していたのでいくつかのおやつを買ってもらった。
それも、まだ残っているのに。

残っているのに、と思う。

同居人は、甘いものを食べない。
そのくせに、わたしに甘いものを買ってくる。
「買ってきて」と頼むときもあるし、
頼まなくても、何か買って帰ってくることもある。
べつに、特別なことなんかなくたって、買ってきてくれる。

ダイエットにしているのに、と思う。
「そんなの食べても関係ないよ」と、同居人は言う。
太ったって、言ったのに。
確かに、こんな怠惰な暮らしをしていても、人間の形を保っているのは
同居人がいつも作ってくれる、バランスの良い食事のおかげなんだろうけど。

太ったのなんかわかんないよ、とみんな言う。
気を使ってくれているのかもしれないけれど
太っているところは、ちゃんと隠しているんだもの。

それでも、ドーナツとプリンは、わたしを待っている。
昼間に買った、チョコレート入りのクロワッサンと、いちごのクリームのロールケーキも、まだ残っている。

「ぜんぶ食べなくていいよ」と、同居人はいつも言ってくれる。

ぜんぶ食べなくていいのはわかっているんだけど、
それでもやっぱり、甘いものが積まれていると、少しだけ安心する。
よくないなあ、と思いながらも
わたしはいつでも、糖分に逃げ込めることに、安堵する。


半額だから買ってやろう、と
食べもしないドーナツを、スーパーのカゴに放り込む、同居人の姿を想像する。

それはなんだか、とても嬉しいことのような、気がする。
スーパーにいるとき、部屋で寝こけているわたしのことを、思い出してくれてありがとう。
なんのご褒美でもない、ドーナツ。
わたしは今日、信じられないくらい寝てばかりだったのに。

それでも、ありがとう。

あなたの暮らしと、人生の片隅に、時折わたしを置いてくれて、ありがとう。
贈り物はやっぱり、いつも嬉しくなってしまう。





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