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H ZETT M ピアノ独奏会(2020年9月5日@逗子)

「地元の友達が、チケットを1枚余らせているから、一緒に行かないか」と誘ってもらった。

この、青鼻の人のことは、よく知っている。
10年以上前、LINEをくれたこの友人と、一緒にカバーをして、演奏をした。

去年の7月に、町田でも公演をやっていたのも知っていたけれど
ばたばたしていて、見に行こうとは思えなかった。

誘ってもらった日程は、もちろん空いている。
公演場所は、逗子。

家からの遠さにちょっとひるんだけど、誘ってもらってことも嬉しかったし、久し振りにちょっと遠くに行くのもいいし、ホールでの公演は好きだし、
よろこんで、その誘いを受けることにした。



逗子は、思ったより遠くなかった。

以前、葉山に行ったことがあったのだけれど、そのときはすごく遠かったと記憶している。

葉山は、逗子の隣町で、駅がないので、逗子からバスで行くしかない、と友達に教えてもらった。
なるほど、確かにあのときは、必死に逗子まで行ったあと、バスに乗ったから、遠い気がしたんだ。

すごく久し振りに、海を見た。

逗子の波は、あんまり高くないのだと教えてもらった。
海の家もいないし、ライフセーバーもいない。
波打ち際でパシャパシャと遊ぶような、そんなイメージの砂浜だと言われた。
なんだか、穏やかだった。

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(誘ってくれた友達の写真を勝手に載せます)
(なんか、海っぽくていい写真が撮れたので……なんだかすてきじゃないですか?)



入場前には非接触で体温を測って(画面に自分の顔を映すタイプのやつ)
設置されたアルコール消毒を自分でプッシュしたあと、階段を上がったところで係員の人が改めて手に消毒をしてくれるという徹底っぷりだった。
チケットを切る「もぎり」の作業も、「自分でチケットを切って、かごに入れた版権を係員の人が覗き込んで確認をする」というスタイルで、これはいいなと思った。

客席を開けてのご案内、ということで「3人で座ると、結構結構遠く感じちゃうかな」と思っていたんだけど、「4人以上人が並ばないように」という形になっていた。
4人目の隣は、2席の空席か、通路になっている。
わたしたちは3人で並んで座れて、ちょっと嬉しかった。

壁の色、床の色、椅子の色
どれも濃い目の色に統一されたホールだったので、空席分があんまり目立たなくて、これもいいなと思った。



ピアノ独奏会のステージには、グランドピアノが一台と、いくつかのエフェクターとかルーパーが置いてあったんだけど、
テーブルの上のものは、近づいて背伸びしても見えなかった。

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1部は、グランドピアノとルーパーやパッドなどを使った形式。
ふわふわとただよう心地よさで、それはもう心地よく眠くなる(友達も、うとうとしていたと言っていた)。

たまにパッド?から、人の声が流れて、なんとなくスティーブ・ライヒの現代音楽を彷彿とさせた。
言葉そのもののストーリー性が強過ぎない。
音のひとつとして、セリフがある感じ。



1部が終わって休憩時間には、グランドピアノ以外のすべてのセットが撤去された。

グランドピアノ、一台。

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40分弱、その男はピアノを弾き続けた。
ステージの壁には、演者の左手側に設置された映像が映し出されて、手元が見えたのがとっても嬉しかった。

ただただ、ピアノを弾いていた。
何度か曲が終わって拍手が起きたけど、曲の紹介もほとんどなく、ただピアノの音が溢れていた。

ピアノだけなのにあっという間だったし、「2部のほうが眠くならなかった」というのが、わたしと友達の統一の見解だった。
なんとなく、ピアノって眠くなるイメージだったのに。
不思議だ。



男は、終始楽しそうにピアノを弾いていた。

ピアノで、遊んでいるみたいだった。
それなのに、圧倒的に”芸術”だった。

ピエロのような男だった。
腕を振り回したり、動きを止めたり、わざと椅子をどかして空気椅子にしたり、小さなキーボードから笛の音を出して、吹いている真似をしてみたり。
演奏中、何度か笑いが起きた。

88鍵を、かけめぐる

わたしがいつも部屋で弾いている電子ピアノだって88鍵なのに、ぜんぜん違った。
この男は、自由だった。
緻密でありながら、それが「好き勝手」のような、身軽さでピアノと遊んでいる。

こんなふうに、ピアノに感情を乗せるのか、と思った。

ピアノでできることって、基本的には万人共通で
鍵盤を叩いて音を出す
鍵盤を叩くときに、叩く場所(音程)・速度(音の強さ)を選ぶ。
この過程は、この男だってわたしだって一緒だ。

この基本的な要素と、それ以外の細かいいくつかのことで
この男の音には、ずっと感情とか、景色とかがあった。
それは冒険譚や、ひとりの人生のように、様々な表情を併せ持っていた。

敵わない、と思うのは簡単だった。

このまま、わたしがぼけっとピアノを弾いていたも敵わない。
わたしにたくさんの苦手なことがあるのと同時に、得意なこともいくつかあるはずだ。
紐解いて、在るべき場所に還して、勉強を続けて
わたしも、新しい景色を見たいな、と思えた。



見られてよかった。
こういうピアノ弾きがいてくれて、よかった。

チケットは完売。
この男は著名なピアノ弾きであるから当然かも知れないけど、
いろんなひとに気軽にピアノを聞いてほしいし、ピアノは自由であって欲しい。
音楽とピアノは「たのしい」ということを
この人は、今までもこれからも、沢山の人に伝えていってくれるのだと思う。

わたしは鍵盤弾きのはしくれだから、
その一部をきちんと受け取って、自分の音の血肉にしてゆきたい。
「敵わない」というのは、本当に簡単だけれど。



約45分のステージが2回。
あいだには休憩と換気。

ピアノ独演会、の名に相応しく、この男は最後まで歌わなかった。
何度かMCをしたけど、そのたびにマスクをしていた。

マスクを外せる日々が早く来ればいい、なんて
そんなことはみんな思っていると思うけど
こういうやり方で、音を降らせてくれて、
いまの時代にも、音楽の明るさとか希望とか、
そういうのを、教えてもらったなあ、と思ってる。



この日のことを忘れないように、わたしはもらったチラシを部屋に貼った。

わたしの音も、生き方も
こんなふうに、責任を持ちながらも自由で、明るい曲調じゃなくても希望があるような

そんな、世界が切り開いてゆけますように。


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