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日常 / 魔法

ああ、やってしまった。
二度寝、2時間経過。
時間ばっかり過ぎて、今現在もどっぷりと眠たくて驚いてしまう。
そうだ、昨晩は久々に夜更かしをしたんだ。
大学生の頃みたいに、しゃべったり食べたり、ときどき別のことをしたりしながら、自由でかろやかな時間。
朝の重たさも、まあ悪くないと思える。たまには、善いのだ。

世の中に、朝が得意な人とそうじゃない人がいる、というのには、上京してから気がついた。
「おはよう」と言った瞬間、今日見た夢の話を始めた彼女は、圧倒的な強者だった。ほんとにさっきまで寝てたの?って勢いで話すから驚いた。
わたしは、朝に弱いタイプ。
朝というか、すべての寝起きがダメ。起きた時間も睡眠時間も関係ない。

朝はぼんやりと、何も考えずに少しずつ身体を動かす。
洗い物をして、お湯を沸かす。
コーヒーを淹れて、朝ごはんを食べて、アニメを1話だけ見られるようになって、おとなになったなあと思う。昔は、ずうっと見てたのに。

またお皿を洗って、ああ洗濯もしてしまおう。
わたしはきっと、洗濯を愛している。
たぶん、「ついでの時間」が長いからではないだろうか。
洗濯機が仕事を終えるまでの約30分、ついでに掃除をして、花の水を替えて、それでもあと10分あるから、パソコンの前に座っている。

定期的に掃除をするようになって
コーヒーをペーパードリップして
ティーバッグを落とすときには、蓋で蒸らして
ついでに洗い物もしちゃって
その勢いで、花の水まで替えちゃって
それが終わったらパソコンの前に座ってさ

ひとつひとつ、思い出して笑ってしまう。
ああ、そうだ。そうだった。

これは、「願い」だった。
魔法であり、思い込みだった。

そういうわたしに、なりたかった。
好きな曲をかけたらやる気を出す、と思い込みたかった、あのときみたいに。
始めてのペーパードリップは、ぜんぜんうまくいかなかったよね。もう、何年前のことだろう。

とにかく、パソコンの前に座ろう。
そう思ったのは、1年半ほど前のことだったろうか。

無職で、怠惰で、緊急事態宣言で、どこへも行けなくて、
何かするって言ったら、ピアノを弾くかエッセイを書くしかないのに、それもうまくできなくて。
情けなくて、悲しくて、苛立って
そんな感情ばっかり抱えていたら幸福になれないから、生産性が低い。
わたしは、生産性の低さを憎んでいる、だから

とにかく、パソコンの前に座ろう。
そうしたら、何か始まるかもしれない。

今は、空き時間にもここに座れるようになった。
家事が終わったあと、「よっしゃ」と意気込まなくても、するっと座れるようにもなった。

願った。そんなふうになりたいと
まぬけな自分に魔法の杖を振るい、現実と理想の間をぼやかして

午後の光を飲み込みながら、丁寧に淹れた紅茶を飲んで
洗い物も掃除もすべて終えて

でも、二度寝をしないおとなになんかならなくてもいい。
立派であることより、適切であることを忘れないで欲しい。
茶葉は蒸らすけど、マグカップもサーバーもあたためたりしない、それくらいでわたしはちょうどいいからさ。

昨日より立派な人間になれたとは思わないけれど、振り返ってみれば、いくつかのものを手に入れたような気がする。
ああ、見えないものばっかり責め立てて、ここにあるものに見向きもしないような生き方はもう辞めよう。

新しい魔法を携えて、
光の中、飽くなき冒険は続いている。




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