日常 / 魔法
ああ、やってしまった。
二度寝、2時間経過。
時間ばっかり過ぎて、今現在もどっぷりと眠たくて驚いてしまう。
そうだ、昨晩は久々に夜更かしをしたんだ。
大学生の頃みたいに、しゃべったり食べたり、ときどき別のことをしたりしながら、自由でかろやかな時間。
朝の重たさも、まあ悪くないと思える。たまには、善いのだ。
*
世の中に、朝が得意な人とそうじゃない人がいる、というのには、上京してから気がついた。
「おはよう」と言った瞬間、今日見た夢の話を始めた彼女は、圧倒的な強者だった。ほんとにさっきまで寝てたの?って勢いで話すから驚いた。
わたしは、朝に弱いタイプ。
朝というか、すべての寝起きがダメ。起きた時間も睡眠時間も関係ない。
朝はぼんやりと、何も考えずに少しずつ身体を動かす。
洗い物をして、お湯を沸かす。
コーヒーを淹れて、朝ごはんを食べて、アニメを1話だけ見られるようになって、おとなになったなあと思う。昔は、ずうっと見てたのに。
またお皿を洗って、ああ洗濯もしてしまおう。
わたしはきっと、洗濯を愛している。
たぶん、「ついでの時間」が長いからではないだろうか。
洗濯機が仕事を終えるまでの約30分、ついでに掃除をして、花の水を替えて、それでもあと10分あるから、パソコンの前に座っている。
*
定期的に掃除をするようになって
コーヒーをペーパードリップして
ティーバッグを落とすときには、蓋で蒸らして
ついでに洗い物もしちゃって
その勢いで、花の水まで替えちゃって
それが終わったらパソコンの前に座ってさ
ひとつひとつ、思い出して笑ってしまう。
ああ、そうだ。そうだった。
これは、「願い」だった。
魔法であり、思い込みだった。
そういうわたしに、なりたかった。
好きな曲をかけたらやる気を出す、と思い込みたかった、あのときみたいに。
始めてのペーパードリップは、ぜんぜんうまくいかなかったよね。もう、何年前のことだろう。
*
とにかく、パソコンの前に座ろう。
そう思ったのは、1年半ほど前のことだったろうか。
無職で、怠惰で、緊急事態宣言で、どこへも行けなくて、
何かするって言ったら、ピアノを弾くかエッセイを書くしかないのに、それもうまくできなくて。
情けなくて、悲しくて、苛立って
そんな感情ばっかり抱えていたら幸福になれないから、生産性が低い。
わたしは、生産性の低さを憎んでいる、だから
とにかく、パソコンの前に座ろう。
そうしたら、何か始まるかもしれない。
*
今は、空き時間にもここに座れるようになった。
家事が終わったあと、「よっしゃ」と意気込まなくても、するっと座れるようにもなった。
願った。そんなふうになりたいと
まぬけな自分に魔法の杖を振るい、現実と理想の間をぼやかして
午後の光を飲み込みながら、丁寧に淹れた紅茶を飲んで
洗い物も掃除もすべて終えて
でも、二度寝をしないおとなになんかならなくてもいい。
立派であることより、適切であることを忘れないで欲しい。
茶葉は蒸らすけど、マグカップもサーバーもあたためたりしない、それくらいでわたしはちょうどいいからさ。
昨日より立派な人間になれたとは思わないけれど、振り返ってみれば、いくつかのものを手に入れたような気がする。
ああ、見えないものばっかり責め立てて、ここにあるものに見向きもしないような生き方はもう辞めよう。
新しい魔法を携えて、
光の中、飽くなき冒険は続いている。
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