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とりあえず、キッチンを攻め落とす

(いま、ベッドに飛び込んだら、どれほどしあわせだろうか…)

感情が、よぎった。

帰ってすぐバスルームに駆け込んだのが、まずえらい。
最近の目標は「帰宅後、すぐにお風呂に入る」なんだけど、達成率は50%くらいだと思う。
帰宅後のわたしは、だいたい意識を失っている。動かなくなる。

だから今日は、もう100点なんだ。もういいじゃないか。
ベッドが、わたしを呼んでいる。

現実世界の視界では、シンクの洗い物が映っている。
洗ったお皿もそのまま置きっぱなし。
洗い物をするには、まず片付けなきゃいけない。
なんていう些細なことにも、一瞬気が遠くなる。

わたしの意識を保っているのは、洗濯機の動く音だ。
明日でよかったのに、なんで回しちゃったんだろう。

ふうっと、紫煙を吐き出す。
吐き出す、ということは、次に「息を吸う」ということで、煙草は時折わたしの「呼吸」になる。
深く、息をする。

わかっているよ。
洗濯物を干さずに寝たら、後悔する。

いま、ベッドに飛び込んだとして、その瞬間に訪れる幸福は、幻ではない。
それでも、わたしがいま望んでいるのは「目先の幸福ではない」と云うのは、なんと残酷なことだろうか。

わたしの本当の望みは、「這うようにでも動きながら、家事をこなし、日課を終える」ことだった。
どう考えても、わたしが欲しい未来はそっちだった。

すべての物事は、始まれば終わる。
わたしはそのことを、よく知っている。
そして、「いまの欲望を叶えずに眠ってしまったあとの、少し面倒な未来」についても、想像できる。
いま、踏ん張ってしまったほうが、あとで100倍はすこやかな気持ちになる。
それは、自分の心を守ることだった。

直近の欲望と、本当にやりたいことって、こんなにも違うのか。
そういうもんか。
よくわからない。

まあいいや。
わたしはもう一度、ふうっと吐き出す。
難しいことはわからないけれど、「今すべきこと」は、よくわかった。
ほんとうに、やりたいこと。

わたしは煙草の火を消して、まずはキッチンから攻め落とすことにした。







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