マガジンのカバー画像

君に伝えたい百の言葉

389
あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
運営しているクリエイター

#暮らし

咲かない花も、咲けない花も

このあいだ、花を買った。 あの日から、”ダリアの首”について考えている。 あるいは、”ダリアの首を落とせるか”について ロスレスブーケっていう、めちゃくちゃお得に買えるお花。 fowerってアプリから買えるので試して欲しい。 このお花がお安い理由っていうのがいくつかあって、 ひとつは、お花屋さんを経由していないこと。 このお花たちは「花屋で売られる、商品になる」という運命を回避しているので、何が起きているかというと、葉っぱが多い。バラにはトゲがある。 つまり、手入れの必

くたびれた電池

画面の、右上に視線を動かす。 思い出、タイムマシン 繋がっている外付けハードディスクのアイコンの上に、小さな通知。 流し読みして、「閉じる」を押す。 通知の内容は2種類で、 ひとつは、Dropboxの容量がいっぱいになっていること。 (友達と共有しているフォルダなので整理が面倒。Googleドライブに乗り換えて、今では使っていない) そしてもうひとつは、「電池が切れるのですぐに変えてください」 わたしはいつも、すべてを無視する。 まあいいや。いまは動いているし。問題ない

だから明日は

ある朝のメモに、こんな文章が残っていた。 時間は朝9時を少し過ぎたところで、会社に向かう電車に乗っているときに書いた。 いまでも覚えてる。 過ぎゆく見慣れた景色の、そのずっと奥を、ぐっと見つめていた。 前の日とかに、コナンのふるさと館について、友達と話していた。 いま調べてみたら、正式名称は「青山剛昌ふるさと館」で、場所は鳥取。 この場所についてはわたしも存在を知っていて、いつか行ってみたい。と思っていた。 工藤新一の家があったり、喫茶ポアロがあったり、コナンたちが暮らし

100グラムを怠らず

年末に、カバンを買った。 仕事用のトートバッグ。 今までのは肩紐が切れそうで(雑誌のおまけだった)、そこからなにか、大切なものをこぼしてしまいそうな気がして えいっ、と新調することにした。 軽くて、防水で、いっぱい入る。 うすいピンクの 重ねた吟味のお気に入りだった。 そのあとすぐに休職するとは思っていなくて、新品同様のまま、クローゼットに押し込まれていた。 仕事に戻れる身体になったことは嬉しく、 でも、この怠惰な暮らしを手放すのは寂しかったけれど、このカバンを使えるこ

たくさん食べても、元気になれなくても

人間を30年以上やっているのに、うまくできないことがたくさんある。 そんなふうに言語化してみたら、自分の正確な気持ちと異なっていることに気づいた。 実際は、人と比べて「うまくできていること」なんか本当はなくて、当社比で「ちょっとよくなったこと」を掻き集めながら暮らしている。たぶん、それくらいな感じ。 食べることや、食欲は代表的なひとつのような気がする。 いまでも、規則正しく食事をすることは苦手(思い返してみれば、高校生の頃からひとりごはんが定番)、無尽蔵に食べ続けていた(ラ

5メートル先の、裏側を見よ

うちの、隣の通りで工事をしていた。 よく晴れた、午後の出来事だった。 日課の散歩は、いくつかのルートを持っている。 歩きたい場所と、時間の兼ね合いで、ルートを決めたつもりが わたしはふらっと、曲がりたくなる。 または、曲がることを取り辞める。 もう少し、というのはなんと甘い響きだろう。 もう少し、行ってみようと思う。未知の誘惑に打ち勝てない。 または、少しだけさぼっちゃおう、という日もある。 その日は、行ってみよう、と歩き出したところだった。 家からはほど近いけれど、

ボタンがあるなら押してみたい人生を

ちょっとやってみようかなあ と、思う。 ちょっと、と心がくすりと笑いながら手を伸ばすとき わたしは必ず、ぎゅっと掴む。 ちょっとでいいんだよ。 ぜんぶやらなくていい。 さいしょから、完璧にできるわけもないよ。 だいじょうぶ。 「ちょっと」と言うとき わたしの心は、幼い子供ような無邪気さで笑っている。 それはなんだか、たのしい予感だった。 * 今日は、ちょっと試しに さっき聞いた曲をイメージしてピアノ弾いてみよう、と思った。 曲に散らばる要素の幾千万から、たったひと

さみしさの海を泳いで

3度、横顔を見つめて 2度、ゆっくりと触れたあと 「ありがとう」と別れを告げて、抱きしめた。 別れには、いつまで経っても慣れない。 特に今日は、「他を生かすため」の選択だったから、なおさらのような気がしている。 アニメとか、ゲームとかの、「生贄をひとり捧げるか、国が焼け滅ぶか」みたいな場面を思い出してしまう。 大袈裟すぎなのはわかっているけれど。 * わたしは今日、紫色のラナンキュラスと別れた。 いちばん最初に咲いたそれひとつを、パツンと切って、抱きしめてからゴミ箱に

家族、という生き物の難しさについて、わたしは今日も考えている。

「明日の仕事、休みになりました」 起きたら、そんな連絡が入ってきていた。 ねぼけまなこで、もう一度読む。 休み、なるほど。 休みになったのは、わたしではない。 わたしは休職中だから、今日も明日も休み。 休みになったというのは、家族からの報せだ。 明日休み、なるほど。 もう一度頷いて理解する。 メッセージの送信時間と照らし合わせて、今日休みになったのかと理解する。 * 家族が家にいると、わたしの行動はほんの少し異なる。 少しだけ、静かに過ごすようにする。 睡眠の邪魔に

キッチン

「うちに住めばいーじゃん」 これはもはや、君の口癖と言っていい。 すぐ、言う。 昨日も言っていた。 「そっちのほうに住みたい」という友達に、 「家決まるまで、うちに住めばいーじゃん」 わたしは慌てて、「うちでよければね!」と付け足す。 うちは、2人暮らしの1LDK。 キッチンはキッチンであり、それ以上の役割を持たせることが難しいタイプの間取りで リビングにはテレビとソファーがあって、同居人の私室を兼ねている。私室って言っていいのかわからないけれど。 たったひとつのドア付き

どうせ、めんどくさい人生だから

言えなかった。 人に頼む、というのは妙に面倒だったりする。 不思議だ。頼み事は自分の手から離れてゆくから、わたしは身軽になるはずなのに。 「頼んだ結果、良いものが返ってくることを願う」と、なかなか大変だ。 その先にはずいぶん面倒な説明と、大きな落胆が待っているかもしれない。 「忙しそうだしな」と思うこともある。 嫌な顔をされてしまうかもしれない、と思う。 最後はいつもこうだ。「自分でできるから」 そうして、唇はいつもの言葉を紡ぐ。 「自分でやったほうが早いし」 その

あつくても、さめても

飲み物の流行りっていうのは、定期的にやってくる。 コーヒーばっかり飲んでいることもあれば、紅茶のこともある。 紅茶と言ってもアイスティーを常備する暮らしもあれば、あたたかい紅茶に牛乳を落としていることもある。 スイスミスのココアは、美味しすぎてすぐ飲んじゃう。飲み過ぎ危険だから、流行りと共に控えるよう気をつけている。 最近は、あたたかい紅茶ブームが訪れた。 寒いから、当然のように。 去年はたしか、サーモのタンブラーをもらったから、それにお茶を淹れていたような気がする。 ず

わたしはその日、仕事を休んだ。

「そういえば、ようやく言ったよ」 彼女の声は、いつも通りだった。 「”アレ”、要らないって」 “アレ”というのは仕事関係で定期的に届く、まさしく”アレ”のこと。 先方はよかれと思っている、または送らなくては失礼だと思っている、とか、そういう類のものだった。 が、彼女は”アレ”が大の苦手だった。 彼女の目につかないよう、わたしがこっそり捨てることもあった。 長年、小さなたんこぶのようだった。 要らないと伝える、という選択肢は、近年になってようやく浮かび上がってきた。 不思

日常 / 魔法

ああ、やってしまった。 二度寝、2時間経過。 時間ばっかり過ぎて、今現在もどっぷりと眠たくて驚いてしまう。 そうだ、昨晩は久々に夜更かしをしたんだ。 大学生の頃みたいに、しゃべったり食べたり、ときどき別のことをしたりしながら、自由でかろやかな時間。 朝の重たさも、まあ悪くないと思える。たまには、善いのだ。 * 世の中に、朝が得意な人とそうじゃない人がいる、というのには、上京してから気がついた。 「おはよう」と言った瞬間、今日見た夢の話を始めた彼女は、圧倒的な強者だった。ほ