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ボタンがあるなら押してみたい人生を

ちょっとやってみようかなあ
と、思う。

ちょっと、と心がくすりと笑いながら手を伸ばすとき
わたしは必ず、ぎゅっと掴む。

ちょっとでいいんだよ。
ぜんぶやらなくていい。
さいしょから、完璧にできるわけもないよ。
だいじょうぶ。

「ちょっと」と言うとき
わたしの心は、幼い子供ような無邪気さで笑っている。

それはなんだか、たのしい予感だった。

今日は、ちょっと試しに
さっき聞いた曲をイメージしてピアノ弾いてみよう、と思った。
曲に散らばる要素の幾千万から、たったひとつ。
「真似をした」とも「インスパイアされた」とも、恥ずかしくて言えないくらい。
ほんの、ひと噛じり。

噛みつきながら弾いたピアノを、聞きながら頷く。
いいところと悪いところを整理する。
悪いところのいくつかは、修正しなくてはならない。

今日は、音量のコントロールが非常に甘くなってしまった。
へたくそなのに、少しだけ笑ってしまう。

わたしは、覚えている。
うまく音量差を出せなかったあの日。
一定の数値で固定され、すべてからこわばった音がしていた。
小さい音が弾けないから、音量差がないんだ。
わたしは、ダメだな。
そう思いながら弾いていた、あのころ。

いまは、こんな音も出せるようになったんだ。


電子ピアノを弾いて、たった1本の線で繋がれて、
パソコンにデータとして音が取り込まれていく様子を
いまでもときどき、しみじみと見つめてしまう。
ピアノ弾きで良かった。
こんなに簡単に録音や修正ができるだなんて。

わたしができるのは、録音ボタンを押すことだけで
録音ソフトの機能は、1〜2割くらいしか理解していないと思う。
もしかしたら、1割にも満たないかもしれない。
全体像を把握していないから、まったくわからない。
最低限は動かせる、ってだけで。
触ったことのないボタンばっかりだ。

わたしは今日はじめて、「コンプレッサー」のボタンを押した。

わたしの弾いたピアノは、書き出し時点でノーマライズされる。
ノーマライズってなんだ?と思って一度調べたとき、「音量の調整」だと理解した。

コンプレッサーの最低限の意味は、一応知っている。
これも音の調整で、音量の大小を抑える機能になる。

ノーマライズしてるなら、コンプは不要だよね?
よくわからないけれど、いまのところ不便していないし。
ああ、調べてもわからないことだらけ。
頭が痛くなるようで、思わず仰いだ天井は、いつも通り白いだけ。

でも今日は、いつもより音量差あるし
よくわからないけど、とりあえずコンプレッサーをオンにしてみた。

少しだけ肌が整うように、わたしのピアノは軽やかになった。
……気がした。1回しか聴き比べなかったから、わからないけど。

へらりと笑って、そのまま書き出しボタンを押した。

音楽に詳しいお友達が、このページにたどり着いていませんように。
(いま調べて、ノーマライズとコンプの違いは理解できたから叱らないで)

わたしが今日、言いたかったのは
べつに音楽の話ではなくって。

知らないボタンがあってさ
興味がむくむくと湧いてきたり
なにか、いまの自分に足りないなって思ったとき。
無邪気に手を伸ばせるそのときが訪れたらさ
どうか、押してみて欲しい。

わたしはそういう生き方をしたいし、
友達のそんな生き方や選択を、応援できたらいい。
いや、絶対に応援する。

誰かが世界の反対側で、
「いまさら、コンプのはなししてるの?」って、わたしのことをばかにするかもしれないけれど
そんなこと、恐れたくない。
ケーキ屋の息子だって、ケーキの材料を持って生まれてきたわけじゃない。

わからないよ、最初はなんにもわからない。

わたしは今日、怖いと思いながらボタンを押した。
確かに、そう思った。
そうしてそれは、「未知だから」だと悟った。
知らないから怖いだけなんだ。
最初だから、知らないのは当然だよね。
わたしはこうして何度も、恐れながら踏み出して、押せるボタンの数を増やして今日まできたよね。

最初は違いがわからなくて、
わからないからわたしはダメなんだって、
なんでも知ってるあいつと自分を比べて、勝手に落ち込んで。
まぬけな自分を責められるような気がして。
ああ、それってすごい想像力だ。
誰もわたしに、何も言っていないのに。

そんなふうに思ったときもあったけれど。
時間が経ったら違いもわかって、いまでは気軽にボタンを押す。
ついでに、好みの数値も選べるようになったよ。
世界の反対側と比べたら、未熟かもしれないけど。

ときどきね、思い出すんだ。
語尾になんでも、(笑)をつけるようにしているんだ。
って、やっぱりへらへらと笑った、いつの日かのわたしのこと。

違いがわかんない、ウケる。
ていうか、むしろえらい。
花に興味がなければ、花の名前を知らないことに疑問を覚えないように
いまなにか、わたしは新しい問題を抱えて、解決に向かっている。
ほんとうにえらいねえ。
でも、まだうまい解決方法はここにない。
ここにあるのは、名前しかわからないボタンだけ。
じゃあさ、

とりあえず押してみよ、って。

そういう、無邪気なわたしが死なないように。
へらへらと笑って、手を伸ばして踊り続けることができますように。

たったボタンひとつだけれど
違いもわからないかもしれないけれど
日常の小さな選択ひとつでも
わたしはうんと、大切にしているつもりだった。



※今日のBGM


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