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君に伝えたい百の言葉

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あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
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#仕事

どうせ、めんどくさい人生だから

言えなかった。 人に頼む、というのは妙に面倒だったりする。 不思議だ。頼み事は自分の手から離れてゆくから、わたしは身軽になるはずなのに。 「頼んだ結果、良いものが返ってくることを願う」と、なかなか大変だ。 その先にはずいぶん面倒な説明と、大きな落胆が待っているかもしれない。 「忙しそうだしな」と思うこともある。 嫌な顔をされてしまうかもしれない、と思う。 最後はいつもこうだ。「自分でできるから」 そうして、唇はいつもの言葉を紡ぐ。 「自分でやったほうが早いし」 その

わたしがもし、モンスターの街で暮らしたならば

わたしがこの街に住んでいたら… 最近は、そんなことばかり考えている。 * 去年見たアニメのひとつが、「転生したらスライムだった件」だった。 有名なタイトルだし、誰かがおもしろいって言っていたような気がする。 わたしもぐんぐん引き込まれて、全話見た(続きが気になる 「転生したらスライムだった件」というのは、 その名の通り転生したらスライムになった主人公が、何やら超強くて、そのチカラを以て仲間を増やし、村を、街を、国を作っていくという物語。 もちろんそう上手くはいかず、敵が

これからも、わたしと旅をしてください。

その日、わたしは慌てていた。 年末の休暇が始まるまで、あと数日。 キリのいいところまで進めたい、と思ってはいるけれど、たどり着くまでに業務が増え、ゴールテープがどんどん遠くなってゆくのが仕事だ、と思う。 少なくとも、いまのわたしの業務に関してはそんな感じだった。 電話が鳴っても、郵便物が届いても仕事は増えるばかり。 「明日にすればいい」が通用しないのが年末で、とにかくわたしは慌てていた。 やればやるほどに仕事が増えて、「あ、これも足りない」と気づいて、繰り返して、優先順位を

いつかわたしは、間違えるだろう。

今でも、思い出すとゾッとすることがある。 わたしの仕事の何割かは、印刷と郵送だと思う。 まだまだ紙と印鑑が主流の業界で、わたしは毎日飽きもせず、自席とコピー機のあいだを行き来する。 毎回違う人に送る書類が半分、 特定の何人かに送る書類が半分、くらいだろうか。 上司もわたしも面倒事は嫌いで、自分をあまり信じていない。 「宛名なんか毎回手書きするのは面倒だし、どうせいずれ間違える」と思っているので、特定の人に宛てるときには、用意していたラベルシールを貼る。 差出人には、自社の

あなたとわたしと、ホッチキスと

(ああ、) いまか、息を吐く。 ため息にも満たない、小さな。 でも、確かな絶望。 今じゃなくていいのに。 今日中にこの書類を片付けたかった。 微熱と頭痛で、集中力を欠きながら、必死にもがいていたのに。 わたしは諦めて、手を止める。 ホッチキスの針がなくなった。 ただそれだけのことなのに、わたしは動けない。 このホッチキスは最近使うようになって、針を替えたことはない。 いや、そんなのは言い訳で、ホッチキスの針なんてもう何年も替えたことはないではないか。 オフィスの備品棚

大切なことは、ライブハウスに教わった。

新しい部署に移動して、2週間が経った。 教えてもらって、まとめて、 それを確認しながらもう一度やってみる前に、新しいことが舞い降りてきて 気づくと、繋がっている。 「Aと流れは一緒なんですね」とか 「AがあるからBってふうになってるんですね」なんて言いながら、「そうそう」「なるほど」と笑い合う。 ゴール地点を見据えて、少しずつ前に進んでいることに、強い実感を伴う日々は、慌ただしく過ぎてゆく。 * “仕事”ということの大枠を考えるときは、いまでも思う。 大切なことは、ライ

ことばにひそむ

「あの、愚痴になっちゃうかもしれないんですけど」 わたしは確かにそう、前置きしたと思う。 会社のお昼休み。 休憩スペースで、わたしたちはふたり。 他の人はみんな、お昼に行ったり、会議だったりで、オフィスには誰もいなかった。 休憩時間は不可侵、だと基本的には思っている。 だから、基本的にはそんなに話しかけたりしないのだけれど、今日はなんだか、それが許されるような、そんな瞬間はふいに訪れた。 わたしは尋ねられた質問にいくつか答えたあと、前置きをして語りだした。 最近、こんな

牙を研ぐ

「松永さんに、お願いしたいことがあるんです」 バンド時代の後輩、という言い方は偉そうで気に食わないのだけれど 友達、という言葉も少し違う気がする。 相手が年下だから、便宜上「後輩」と言う。 そういう相手から、久し振りに連絡が来た。 彼からの連絡が久し振りであること以上に、わたしは「お願いしたいこと」に戸惑った。 わたしに? お願いしたいこと? 何かわたしにできると思ってるってこと? ほんとに? わたしが役に立つことって存在する?? そうだ、とりあえず話を聞こう。 わたし

未知への不安を蹴飛ばして

(……やっちまった) 気づいたのは、退勤間際だった。 社内チャットの「松永さんお願いします」のメッセージを、見落としていた。 昼休憩から戻ったあと、わたしはその手前のメッセージまでしか読めていなかったみたいだ。 早めに気づいたなら、今日中に終わらせられたのに… 初めての業務、期限は明日の15時まで。 仕方がない、明日に持ち越しだ。 そうしてわたしは、眠る前に思い出す。 (あした、頼まれてた仕事…はやめに、やらなきゃ…) また、思い出す。 仕事を始めたばかりの頃のこと。

あなたの1ページしか、見えなくて

その言葉を聞いたとき、わたしは息が止まるかと思った。 いまの仕事を始めて、まもない頃。 いや、いまだって入社後1ヶ月と少しなので、「まもない」と言っても過言ではないのだけれど。これは、もう少し前の話。 いろんな業務があって、共有フォルダの場所や、スプレッドシートの名前が覚えられなかった。 覚えられる気もしなかった。 「これはやばい」と早めに気づいたわたしは、とにかくメモを取って、「次やるときは、時間が掛かるだろうけど、ひとりでできるように」と努めた。 電話は、出るのも掛

「あきらめないで、よかった」

その、すこやかな声と言葉に、心臓がぶち抜かれたような気分だった。 「そういえば、これあったわ」と、右隣りの上司が言う。 会社でわたしが使っているパソコンは、なぜだか印刷もスキャンもできない。 そんな中、上司が「スキャンができなかったときに設定を確認するメモ」の存在を思い出したらしい。 確認してみよう、と思って確認したけれど、設定は正常だった。 そうだよね。 諦めていた。 仕方がない、と頷いた。 その心遣いだけでも、もうなんだか充分な気がした。 「できないのって、スキャン

1ヶ月後には、我が者顔でオフィスを歩いてる

わたし、仕事辞めても大丈夫かもしれない。 そう思った日のことを、覚えている。 「仕事を辞めても収入があるから」とか、そういう話ではなくて 「別の仕事に変えても大丈夫」のほうが、適切な表現かもしれない。 家賃や光熱費を払うための収入がなくなってしまうのは困るし、それを得るためには「雇われること」がわたしにはまだ必要だった。それはいまも変わらない。 前職は流行病の影響でうっかりクビになってしまったので、これは前々職のときの話になる。 初めてのオフィスワーク。 務めて1年が経

文字に咲く笑顔

Aの次にやること そうタイピングしたあと、わたしは「かお」と打つ。 うーん、ちょっと気分じゃない。 「かおもじ」と打ち込んで、何度か変換ボタンを押す。 Aの次にやること(*´∀`*) わたしは「資料」と名付けたテキストの冒頭に、そう書き加えた。 * 顔文字を、使うようにしている。 仕事のとき、自分しか見ないようなメモ書きみたいな資料には、必ず付ける。 自分と、自分の身の回りだけ、実務とは少し遠いところだけで咲く、小さな魔法だった。 * いまでも、忘れない。 も

あなたでよかった、と思われる仕事

「なにより、あのお兄ちゃんが良い奴でよかったよね」と言ったら、 「そう!」と、力強く返ってきた。 * 友人の内見付き添い、2日目。 別に、「数日間かけてじっくり内見しよう」とか、そういう予定ではなかった。 1日目、1軒目の不動産屋で3つの家をまわったあと、なんだかピンとこなかった。 このあたりの家賃相場から考えて、風呂トイレ別という条件を掲げながらも、おそらくもっと良い物件がある、と思った。 そして1日目の夕方、2軒目の不動産屋に行った。 「まあ、とりあえずお茶でも」み